魔刻十三器・第一位 魔天
ようやくヒロインの名前出せたよ……ここまで長すぎる
取り敢えず本編どうぞ
-マスター、一つお聞かせください-
-私が生まれた意味は分かりました-
-ですが、マスター-
-マスターには私のような生まれた意味が在るように思えません-
-マスター。お願いします。答えて下さい-
-我々は生きていて良いのでしょうか-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ムルスは呆れたようにため息を吐く。
「少年、貴方何か勘違いしていませんか?」
「勘違い?」
臨戦体勢を崩さずに聞く。
「私は我が師と魔刻十三器を利用して、私の目的を完遂する」
「いや、決意表明はいいから」
「話を聞きなさい。全く」
もう一度ため息を吐くと話し出す。
「いいですか、少年。私は我が師を手伝うフリをして魔刻十三器第十一位を奪うつもりでした。しかし、この町に来たときにはもうすでに我が師は死んでいた。いや、殺されていた」
「……」
なんだろう、これ?推理小説の犯人のような気分だ。
「師が殺されていたのはこの際構わない。何せ彼は私の事を殺そうとしていたのですから」
「……ん?ちょっと待てよ。お前はトール・クライソンと師弟関係なんだろ?なのに命を狙われていたのか?」
「ええ。厳密に言えば実験体として私の死体を彼は欲していた。エルネスト達も同様でした。おっと、これは関係のない話ですね。本題に戻りましょう。
つまり、少年。私は貴方とステンベルグの他に手を組む相手がいないのですよ。だから、どうでしょうか?ステンベルグに掛け合ってみてはくれませんか?我が師の仇、織崎結名」
「……何で、俺の名を」
一歩後退り右手の拳を軽く開く。いつでも魔剣を出せるようにした。こちらは魔術とか言うのに知識が無い。警戒のしすぎはないだろう。
首もとを見つめる。狙うとしたらそこだ。
「やれやれ、名が知れているだけでそこまで殺気を放たなくていいでしょうに。大体、少し考えれば思い付く筈ですよ。トールが私にに保険としてこの戦いの情報を流していたくらい。一日毎に私へ情報をエルネストに黙って流していたのです。お陰で直ぐに殺されたことが分かりました」
「……だけど何で俺の名が分かるんだ?」
「先ほどアリア・フェリスに聞きました。しかし、彼女は何ですか?何故彼女はアレほどまでに何も知らされていない。捨て駒にしてもお粗末が過ぎる」
アリア先輩がしゃべったのか。しかし、こいつの言動が気になる。捨て駒だと?
「ああ話が長引きましたね、オリサキ。私は貴方が我が師を殺した事については特に何も言いません。むしろ感謝すらしています。
しかし、トールと今からの取引とは関係のない物だと思っていただきたい。私の要求を飲めなければ私は貴方を殺します」
「……分かった。お前の要求は何だ?」
そう言って警戒を更に強める。退路があるか軽く確認し、ムルスへ視線を向ける。退路はない。ムルスの要求にもよるが戦うしかないか。
「なに、簡単な事ですよ。ステンベルグ、彼に共闘を持ちかけたい。ですが、私は彼の顔も風体も分からない」
「つまりグレイブに共闘するように頼むか、グレイブを紹介しろってことか?」
「大雑把に言うとそういうことですね。ついでに言うならステンベルグに私と手を組むように助言してくれると助かるのですが」
こいつの要求は実に簡単だった。グレイブに会わせろ、それだけだ。だからこそ怪しい。
「なぁ、それだけでいいのか?」
「ええ、それだけですよ。何もこれから協力するかもしれない相手を殺そうとするなどあり得ませんね。貴方はステンベルグと組んでいるのでしょう?」
「……何でグレイブと組んでいると思うんだ」
「トールの最後の連絡はグレイブ・ステンベルグと名乗る男が織崎結名という少年を逃がした、そのような旨でした。だから、人払いを無視してここに来た貴方に鎌をかけたのです。"織崎結名"と。見事に引っ掛かりましたね。ちなみにアリア・フェリスは貴方の事を何も喋ってはくれなかった」
「……」
騙されたのか……無性に腹が立つがここで戦うのはダメだ。勝てる見込みがあるかも分からない相手だ。無闇に突っ込むのは得策ではない。
思考を切り替えると俺はムルスに提案した。
「ムルス、学校が終わったらグレイブに会う予定なんだ。その場にお前を同席させる、というのでどうだ?」
「ふむ……ではそれで手を打ちましょう。私も同席させる事を事前にステンベルグへ連絡を入れておいて下さい。私からは以上ですが何か質問はありますか?オリサキ」
「……いや、特には」
「そうですか。では、放課後。迎えに上がりますので、そのように」
「分かった」
そう言うといつの間にかムルスの姿も気配も、奴が使用した人払いも消えていた。
「結果オーライ……かな」
信用は出来ないが戦力は増えた。グレイブにそう伝えようと携帯を……
「あれ……グレイブの番号何だっけ?というかアイツ、携帯とか持ってるのか?」
…………早くもムルスの要求を守れそうになかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『結名くん?どうしたの早速私に電話かけてくれるなんて』
「なぁ、アイク。グレイブの電話番号分かるか?」
良かった。アイクに無理矢理番号を渡されたのがこんな所で役に立つとは。
『グレイブの?分かるけど、何で?どうしたの?』
「ああ、グレイブと手を組みたいって言ってる奴がいてさ、そいつが自分の事を事前にグレイブへ伝えてくれって頼まれたから」
『なるほど、それでグレイブの番号を聞きたいと。でもその人信用できるの?』
「正直、分からない。アイツは自分の目的のためにグレイブを利用しようと考えている。しかも、それを隠す気がない」
アイクにムルスの印象を説明すると、アイクは少し間を明けた。
『……ムルスだっけ?彼の目的は分かる?』
「魔刻十三器第十一位が欲しい……って言ってたけど、一体どういう物なんだ?」
『確か魔本ね……一言で言うと魔術の百科事典って感じかな。魔術師が欲しがりそうな物だけど、魔本限定ってのが気になるわね……他の十三器には何も言ってなかったの?』
「ああ。その魔本ってやつがどうしても欲しい、そんな感じだったな。なんか目的があるらしい」
『ふーん。色々気になるけど、分かった。グレイブに伝えておくわ』
「うん、頼むよ。グレイブから連絡来たら俺にも知らせてくれ」
伝えたいことを伝え終わり電話を切ろうとした。が、
『あっ、結名くん。聞きたいことがあるんだけど』
「聞きたいこと?」
アイクが俺に何を聞く気なんだ?
『ねぇ、篁学園ってどこ?』
「…………」
何も言わずに電話を切った。ってか調べろ。地図を見ろ。交通機関有効活用しろ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「酷いわね、結名くん。普通あんな切り方するかしら」
「結名……確かグレイさんの2Pカラーさんですよね。代わって下さればよかったのに」
魔刻十三器・第一位はアイクへ少し拗ねたように言う。
先ほど学園に向かう途中で姿を見つけたので声をかけたのだ。
「アハハ、ごめんなさい。そういえば結名くんと話したいって言ってたものね」
「ええ、彼がグレイさんに協力をするのならその内会えるのでしょうが、その前にちゃんと彼と話をしてみたかった。それなのにアイクさん。貴女ときたら……全く」
「そんなに結名くんと話したかったのね……」
アイクは目の前の少女の熱意に軽く引いていた。
「今日、明日には会えるわよ。その時に色々話せばいいじゃない」
「そうですね。それよりグレイさんに連絡はいいのですか?」
「おっと、そうだった」
アイクはグレイブに電話をかける。だが、
「……嘘でしょ、繋がらない」
「えっ」
こちらもまた頼まれ事を遂行出来そうになかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
絶賛連絡が取れないグレイブ・ステンベルグは、
「オラァッ!!どうした!いつまで手ェ抜いてやがる!!本気で来いよッ!」
「クソッ、しつけぇな」
レオグルスと交戦中だった。だが、グレイブは本気で戦っていない。退散するための機をうかがっている。
魔銃を両目に向けて連射。視界を潰そうという策だ。だが、そんな分かりきった策は策ではない。
「けっ、んなもんが効くかよ」
現に魔弾は全弾レオグルスに当たりはしているが、ダメージを負った気配はない。いくら威力を抑えているとはいえ全く通用していない。
「あぁ~、こりゃ本気で期待外れかもな。これなら四位のガキと殺り合った方がまだ楽しめそうだぜ」
「なら見逃してくれると助かるんだが?」
「アホか。クソッ、つまらねぇ。気は乗らねぇがここで殺してやるよ。くたばっちまいな」
レオグルスは柱状の結晶を中空に出現させるとグレイブへ向かって蹴り飛ばした。当たれば一溜まりもない。そう、当たれば、
「本気で戦っていないって分かってんなら、最後まで油断するなよ」
「何っ!?」
グレイブはレオグルスの真後ろにいた。レオグルスが辛うじて、目で追えるほどのスピードだった。
警戒はしていた。油断もしていない。だが、それでもグレイブを捉えきれずにいる。
「野郎ッ!!」
レオグルスは魔晶を周囲に展開するように弾き出す。だが、グレイブには当たらない。かすり傷にさえもならない。逆にグレイブの魔銃から放たれる魔弾を防げてはいるが回避出来ずにいた。
「ッ!?」
「くたばれッ!!」
背後に接近して先ほどとは比較にならないほどの高威力の魔弾でレオグルスを撃ち貫く。
「がぁッ!?あ"あ"あ"、クソがぁぁぁっっっ!!!」
「くっ」
最後の意地とでも言えばいいか。レオグルスも黙って倒されるのではなく、大きめの魔晶をグレイブの腹部へ差し込む。グレイブはそのまま腹から血を流し、逃走した。
それを視界の隅で捉えながらレオグルスは血を吐き倒れた。
(両足ともいい感じに撃たれてやがる。左腕はともかく右腕がやべぇな。……半分ぐらい抉れたか、これ?腹にしたって内臓がごっそりやられた。死にはしねぇが)
「……これじゃ追えねぇか」
地面に倒れ伏したレオグルスは悔しそうに呟く。しかし、それと同時にこれから先、更に激しくなる戦いに思いを馳せ笑みを溢し、魔晶との同調を軽く上げ傷の治癒に徹した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
グレイブはある程度の距離を逃げると、血の味がする唾を吐く。
「チッ、油断したか……クソ」
口許の血を拭うと傷口に魔力を集中させて止血を始める。この方法は便利だが、かなり傷が痛む。
(やっぱり慣れんなこれは)
グレイブは止血を追えると壁にもたれかかりどうしたものかと思考する。
(別にこの程度の傷なら直ぐに治りそうだな。だけど結名と会う時間は少し遅れそうだな
それに第一位も探さなきゃならないし、いやそっちはアイクに頼んでいるからいいか)
取り敢えず結名に連絡を入れようとするが、
「……そういえばアイツの番号知らねぇわ」
結名と同じような状況になる。アイクにでも聞けば分かるか、と思い彼女へ電話をかけようとする。だが、
「おや、オリサキ。何故貴方そんなコスプレのような軍服でこんな所にいるのですか?」
「……は?」
アイクの連絡よりも早くグレイブとムルスは出会ってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……どしようかね」
地面に落ちていった先輩を確認しに行くとまだ先輩は意識が戻っていなかった。色々聞き出そうと思っていたがこれでは何も聞き出せない。
「しょうがないか」
先輩を肩にかけ保健室まで運ぶ。
(これってまるで俺が初めて魔剣使った時と逆みたいな状況だな)
先輩がこんな体制で俺を運んで、先輩が俺に視線を向けた瞬間起きたんだっけ。そういえばあの人もこんな風に運んだっけ。
「……」
そんな回想をしながら先輩を一瞥すると、
「…………別に運ばなくてもよかったのに」
「お、おはようございます」
いつの間にか起きていた。軽く俺の手をどける。
「会ったの?ムルス・クライソンと」
「ええ、はい」
「……織崎君。……いや、何でもないわ。ありがとう」
何か言いたげにして何も言わずに先輩は去って行った。
「……色々聞き忘れたな」
結局、俺は何も聞けずに先輩を見送った。
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放課後
「ユウ、少し付き合って欲しい所があるんだけど」
「悪い。今日用事があるからさ、また今度にしてくれないか。絶対に行くから」
「うん、分かったけど、ユウ何かあった?」
心配そうな顔で莉桜は俺に聞く。言えない。言えるわけがない。あんな戦いなんて関わらない方がいいに決まっている。
「いや、何でもないよ。じゃあね」
「あっ、ユウ」
莉桜を無視するように俺は学校を後にした。莉桜から逃げながら携帯を確認する。
(着信はない。メールも無し、か)
結局、アイクはグレイブと連絡がつかなかったらしい。これで最悪ムルスと戦わなければならない。魔術師なんて何をどう使う生き物なんだよ。魔剣を使えば勝てるか?
「おーい、結名くん」
「アイク?」
アイクは手を振りながら、俺と同じぐらいの女の子を連れてきている。
「酷いな~結名くんは。あんな風に電話切るなんて。私たちは今日まで絆を紡いできたのに、それを断ち切るなんて。男の子やることじゃないわ」
「……絆ってなんだよ。俺達昨日知り合ったばかりだろ。
それでその娘は?」
その少女が名乗ろうとした時、自分と同じような声と昼休みに知り合った声が聞こえた。
「悪い亜輝。先にこっちの話を終わらせたい。結名を借りるぞ」
「オリサキ、両手に花ですか?実に羨ましいですね」
「グレイブにムルス?何でお前らが一緒なんだ?」
あり得ないだろ、この組み合わせは。
「私がステンベルグを貴方と間違えて接触したということですよ。しかし、よく似ていますね、貴方達。兄弟、という訳でもないのでしょう?」
「こいつと俺を一緒にしないでくれ」
この二人って結構馬が合うみたいだ。これなら共闘の話もすんなりいきそうだな。
安心すると、気になっていたことを聞いた。
「アイク。彼女は?」
「この娘はね結名くん……」
「アイクさん。自分で名乗ります」
そう言って彼女は俺の目の前に立つ。思わず一歩引いた。凛としていながら堂々とした、その立ち振舞いに圧倒された。
「初めまして、織崎結名さん。私の名は蓮道亜輝。魔刻十三器第一位・魔天です」
ムルス「ほぅ」と彼女を驚いたように見つめる。俺も似たような状態だった。
「……第一位」
この少女が、そう思う。
「初めまして。俺は織崎結名。第四位・魔剣だ」
「ええ、よろしく」
彼女は凛々しく俺を見つめていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔刻十三器
第一位「魔天」蓮道亜輝
第二位「??」
第三位「魔槍」アリア・フェリス 『第四の代替』
第四位「魔剣」織崎結名 『無二の器』
第五位「??」
第六位「??」
第七位「??」グレイブ・ステンベルグ (推定)
第八位「??」
第九位「魔晶」レオグルス・ゴーラル 『第二の為の戦士』
第十位「??」
第十一位「魔本」不明
第十二位「魔面」エルネスト・ブローリュク 『第七の狂信者』
第十三位「魔銃」グレイブ・ステンベルグ
十三器の一覧も埋まってきたけど、五位から八位がごっそりいない……七位の使用者(推定)しかいないって。(泣)
↓バトルパラメータ。これは一位を除いた十三器全てに当てはまります
パラメータは0~10、測定不能(高すぎる)、―(なし。もしくは低すぎる)。
攻・・・平均的な破壊力
防・・・平均的な防御力
速・・・平均的なスピード
魔・・・魔力。高ければ高いほど瞬間的なパラメータを上げやすく、魔術の効果の底上げが出来る
魔防・・・魔術耐性。高いほど魔術耐性が優れており、魔術を無効化しやすい
維・・・十三器の維持率。高いほど長時間の戦闘が可能
同・・・十三器の同調率。低ければ発動しない可能性もある。パラメータも低い傾向になり、本来の使い方しか選べない。逆に高ければパラメータは高くなるが暴走しやすい。が、応用の効く且つ本来以外の使い方を選べる
魔剣・結名(通常時)
攻6 防7 速8 魔4 魔防7 維9 同測定不能
魔剣・結名(発狂時)
攻9 防9 速10 魔8 魔防9 維6 同測定不能
トール・クライソン
攻3 防2 速1 魔9 魔防7 維3 同3
結名君は同調率のお陰で高水準かつ防御寄りのバランス型。主人公らしく戦闘向きのパラメータ。でも、暴走しやすいという。
トールさんは……うん、アンタ残念すぎる。
《追記》
トールが何故、魔・魔防だけが高いのかとリアル友達に聞かれたので、その理由をここにも書いておきます。
トールは生粋の魔術師な上、魔術師の中でもエリート魔術師ですから魔力の量が多いのは当然です(パラメータ基準で言えば普通の魔術師は4~6)。魔防の高さもそれと似たような理由。大抵の魔術は理解しているので、防ぐのは容易いという事。
あそこまで結名君にあっさり殺されたのは、
・結名君が不意打ちで殺しにかかってきたから
・魔力での強化を結名君が魔剣にしたから
・十三器を失い肉体や、生命維持機能が魔術師としての本来の強度(それでも魔術師の中ではトップクラス)に戻ったから
・そもそも戦闘は専門じゃない=戦いに慣れていない
と、まぁ。こんなところです。