無二ノ器
出ヒャッハー結名君
主人公の初戦闘シーンが暴走である。いや、うん、物語の展開上仕方なかったんだ……。
とりあえず本編をどうぞ
-久し振りだな。三百年ぐらいか?-
-私としてもなるべく貴様には会いたくないんだがな-
-フッ、そう言うな。それと、つまらない自虐はやめた方がいい。あまり生産的な行為とは言えないのだからな-
-確かに私が言うにはあまり相応しくないセリフかもしれない-
-しかし、生産的ではないという点については誰も貴様に比肩しないさ。私やシルヴィの方がまだ可愛いげがある-
-怒るなよ。貴様が本気になれば誰も相手にはならんだろう?無論、この私や『抑止力』とて例外ではない-
-貴様の神威には誰も、何も耐えられない。勿論、我々が危険視している『第九の祖』もな-
-誰も貴様には相手にならない-
-だから、だ-
-貴様は表舞台には立つな。今日はそれだけを言いに来た-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ガアアアァァァァァァァッッッ!!!」
叫びだけで大気が爆ぜる。それだけではない。地が裂け、服が破られ、建物が砕け散る。
ただの叫びでこれなのだ。これだけの破壊力があり、被害を出す。斬撃などの攻撃を食らえばひとたまりもない。本来ならば、普通のただの人間ならば。
「理性の無い奴を殺してもつまらねぇ、と思ってたが」
レオグルスと結名はお互い真っ直ぐに突進する。
「イイねぇそそるねぇ!オイッッ!!」
「グゥアアアッ!!」
レオグルスと結名の拳が重なる。破壊力、スピード共に結名の方がはるかに上回っている。が、
「アア…ァァァ」
「てめぇとは年季が違うんだよ、ガキ」
レオグルスはお互いの拳が当たる寸前に魔晶で拳を覆い結名の周りの大気を結晶化させスピードを落とさせていた。結果、レオグルスに軍配が上がり結名が倒れる形になる。
だが、その程度では狂乱の剣は止まりはしない。体から無数に伸びた剣をさらに伸ばし、レオグルスの首を穿つ為に狙う。
「チィッ!」
レオグルスはそれを跳躍しながら魔晶を飛ばし迎撃する。その程度では防ぎきれないと察したトールは魔晶を強化させ、相討ちにする。
「おう、助かったぜ」
「レオス、フェリス嬢。そろそろ十三器を解放した方がいい。今の織崎結名は同調率が低い状態で暴走したからあの程度ですんでいる。が、いつ安定した状態になるかも分かりません」
冷静に状況を見極め二人へと警告する。不安だ。あの少年は十三器を奪う以上に狂した行動をするのではないか?その結果、我々の誰かが殺されるのでは?そんな不安がトールの胸にある。そして、その不安は当たる。
「アア、ァァァァァ……アァァ……ァァァァァアアア"ア"ア"ア"ア"ッッ!AAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaッッッ!!!!!!」
怒りと憎悪と狂気が叫び哭く。
結名は無意識に、無理矢理に同調率を上げる。結名の意思に、殺意に、憎悪に呼応する魔剣は持ち手を更に狂わせ、人間を逸脱させる。
音速を越える疾走から繰り出される剣の嵐に対し、魔晶を周囲に展開させ串刺しを狙い、結名へと叩きつける。が、先程までならまだしも、今の結名にその程度の攻撃は意味がない。
この中で一番戦力が低いトールの首を撥ね飛ばさんと、剣を伸ばす。それは黒の槍に防がれる。防ぐということは相手に自分を意識させるということだ。狂乱した結名はアリアへと視線を移す。
「ッッヴゥァ!!ァァAAAAAaaaaaッッッ!!!」
二人纏めて殺す、その意思を表すかのようにトールとアリアの首に数十の剣が迫る。
『神祖への接続詠唱 我が名は第二の為の戦士 降臨せよ研ぎ澄まされた魔晶よ』
-バキィッ!ガギィ!
詠唱を紡ぎレオグルスが魔晶を解放する。
「おい、解放してやったんだぜクソガキ。もっと楽しませろよォッ!」
レオグルスの体から突出している魔晶が更に色を深くし、鋭利になる。その魔晶が鏃のような形となり結名を襲う。
「グァッ!」
十数本ほど直撃する。今の魔晶は普段の魔晶よりもはるかに硬度も殺傷能力も高い。
理由はトールだ。今のトールは十三器を奪われているため接近で戦えない。だから、二人の回復と十三器の強化にのみ徹している。結果、魔術の質が上がっている。それが、ここまで戦いが長引いている理由の一端だ。
『……神祖への接続詠唱 我が名は第四の代替 降臨せよ聖を貫きし魔槍よ』
アリアも魔槍を解放する。服の上からでは見えないが身体中に複雑な模様の刺青が走る。
ガギギギギギッッ!
不吉な音を発しながら、結名の体が更に変化する。
「殺ス」
体から剣が。その剣からまた剣が、枝分かれするように殺意の音を立て形成される。腕から、足から、腹から、背中から、肘から、膝から、頭から。百を軽く越える剣が結名の体を蝕み生える。
「殺ス」
理性の無い叫びではない。
「殺ス」
かといって意思の無い呟きでもない。
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス」
殺意を流れ出し続ける。家族のような少女をこいつらは目の前で殺すと言った。そして、俺も殺そうとした。なら、莉桜も殺すと言う発言も冗談ではすまない筈だ。そして、莉桜以外の俺の大切な連中を殺すんだろう?それならば、それが俺がお前らを殺す理由になる。違うか?違わないだろ。
今の結名はそれだけで三対一という不利な状況に挑んでいる。
「オ前ラニ、アイツヲ殺サセハシナイ。オ前達ナンカニ俺カラ奪ワセタリナンカシナイ」
バキッバキ
体の全てが剣に変革する。目の前の敵であろう存在を打倒するために。
「ア"ア"ア"ア"アアアアァァァァァッッッ!!!」
狂乱の剣は己の敵へと疾走した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
二人の男女が狂乱している剣の少年を見ながら話している。
「まさか、ああなるとわね。もしかして、あなたは知ってたの?」
「おい何でそうなるんだ。第一、知ってたら最初から手を打っている」
「ま、そうよね」
男は肩にかけた軍服を翻す。
「もう行くの?」
「ああ、どうせ遅かれ早かれ決着はつく。その瞬間を狙えばいい。なら、早めに用意するのは当然だろ。それに、あのエセ神父も動くだろうしな」
その言葉を聞き流し返答をすると、男は_グレイブはその場を去った。
「素直じゃないわね、いつものことだけど。……結名くん、か」
見た目はグレイブとほぼ同じ。グレイブと比べたら多少幼いが彼とは2Pカラーのようなものだ。しかし、グレイブとは明らかに違い、熱があり波がある。
「いいなぁ、彼」
-大切なもののために今の自分の全てを賭けれる。私もあんな風に成りたかった-
グレイブと共に行動するのなら結名とも親しくなれるはずだ。その時彼に色々なことを話したい、聞いてみたい。
「楽しみだなぁ」
生きてれば、否、生き残ればの話だが。しかし、確信している。彼はこんな所では死なない。死ぬはずがない。
少年を見つめる女の目はどこまでも優しかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ガァァァッッ!」
裂く。 弾く。 貫く。 回復。
「ハッハハハ、ラアアァァァ!」
斬る。 蹴る。 刺す。 強化。
「ハァァ!」
刈る。殴る。薙ぐ。防御。
「やれやれ、埒が明かないとはこのことですね」
戦闘開始からまだ十分も経ってないが、あまりにも戦いに進展が無さすぎる。今のままでも織崎結名のジリ貧で勝負はつくだろうが、それでは時間がかかりすぎる。人払いの効力が切れてしまう。それは不味い。
トールがこの戦闘をどう終わらせようか思案していた時だった。
「随分と乱戦になっていますね」
「神父殿……」
「エル、アンタ居たのかよ」
神父服の男_エルネストがいた。
レオグルスとアリア、トールは戦闘を中断したが、三人が止まったぐらいで狂剣は止まるはずがない。次なる標的へと剣を向ける。
「ガア"ア"アアアァァァッッ!!」
「ふむ」
エルは迫り来る狂剣をつまらなさそうに見つめながら詠唱を紡ぐ。
「さあ、起きなさい---アッティス」
「■■■■ーー」
「!?」
何処からともなく現れた屍の戦兵が腐臭を放ちながら起き上がる。その手には屍兵の身の丈と同等以上の質量を持つ鉄塊が指で抉り込むように握られていた。
屍兵はその鉄塊を振るい結名を弾き飛ばす。
『創れ血よ 階位十二位『魔面』』
エルネストの詠唱が紡がれた直後、屍兵の顔に五つ目の仮面が覆う。その目はいずれも結名を捉えて離さない。神父は更に言葉を紡ぐ。屍兵に十全の力を出させるために。
『神祖への接続詠唱 我が名は第七の狂信者 降臨せよ自我亡き魔面よ』
-ヴォォォン
「■■■■ッッッ!!!」
「ガアッ!?」
強化されたレオグルスや狂化している結名を越える速度で結名に迫る。回避しようとするが遅い。狂剣の全身に有り得ないほどの質量が堕とされる。
狂剣は鉄塊に叩き潰される形で屍兵に下された。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、魔剣が宿主を守りましたか」
十三器にとっては宿主など替えのきく起動装置でしかない。その十三器が宿主を守ったのだ。つまり、この少年こそが我々の鍵。
「予言通りですね、ここまでは」
まだ戦いは序盤にすら入っていない。だが、
「おい、エル。まさかと思うがこのガキが予言の体現者か?」
「私はそう睨んでいます」
こいつが?、レオグルスは怪訝そうに言葉をもらし人の姿に戻っている結名を見る。眠るその瞬間まで戦う意思があったのだろう。その手には通常状態の魔剣が握られている。大したものだ。
「どうなさいますか?神父様」
「フェリス。貴方はどうしたいですか?今ならしばらくの間この少年を好きなようにできる。思い人を自分の意のままにできるというのは中々魅力的な話だと思うのですが」
「神父殿、その前に僕が先だ」
トールが譲れないという意思を示すように前に出る。
「彼に聞きたいことがある。昨日もそう申し上げたはずだ」
「ああ、そういえばそうでしたね。しかし、貴方の聞きたい問いの答えは貴方も分かっている筈だ。乙葉莉桜が生き残ったのは計算外でしたが、これが答えです。『予言の体現者』。ならば、人払いの一つや二つ無視できても不思議ではない。俗な言い回しを選ぶなら、運命レベルのご都合主義とでも言いましょうか。
トール、貴方の技術が劣等だとは言わない。ですが、技術と才能では越えることが不可能な奇跡は現実に存在するのですよ」
「そう……ですか」
渋い顔になりつつ結名を睨むトール。
「おい、ならこいつは生きててりゃ何してもいいんだよな?」
「言ったでしょう。好きなようにしていい、と」
「そうかい」
レオグルスは嗜虐的な笑みを見せ眠っている結名を品定めするように見回す。
「器ってのは強い方がいいだろ?俺がこのガキ鍛えてやろうか?ハハハハ、まぁ途中で死んじまうかもしれねぇけど」
「その必要は無いでしょう」
レオグルスの軽口を流し、魔剣に触れようとする。しかし、それは叶わなかった。
「なるほど、貴方は私に触れてほしくないのですか」
爆発で腕が飛ばされたと思った。確認しても自分の目が数瞬の間信じられずにいた。
それほどの力で拒絶された。しかも、魔剣はエルから逃げるように結名の体へと戻っていく。
「嫌われたものだ。いや、彼を限度知らずに愛している言うべきでしょうね……呆れるべきか、流石と言うべきか」
魔剣は完全に宿主である結名の体へと吸収された。皮肉にも、そのお陰で結名を運ぶことができる。
「フェリス、織崎さんを頼みましたよ」
「分かりました」
その言葉を聞くとアリアは結名を肩にかけ立ち上がる。
「……」
結名は目を覚まさない。死んだように眠り続けている。血塗れの姿が死体のような様に拍車をかけていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
声が……聞こえる。いや、思い出していると言うべきか。
『ユウ、ネクタイ曲がってるよ』
『アハハ結君はいじりがいがあるね』
ああ、この声に懐かしさすら感じる。昨日までは当たり前だった日々。つまらなく平凡で退屈で面白味に欠けていて、それでも俺が大切にしていた日常。あと一年先まで、卒業するまで続くと思っていた普通に生きていく、普通の世界。
-紡ぐのは詠唱
『織崎君、そこの問題間違えているわよ』
『えっ、嘘』
『ふふっ、これだよ』
友人として慕っていた。先輩として尊敬していた。なのに何でアンタはそんな所に立っているんだ?そこがアンのタ本当の居場所なのか?アリア先輩。
-繋ぐのは克我
『本来なら百回以上殺されていますよ、貴方』
『嬲るのは終わりです。死になさい少年』
『ま、根性だけなら認めてやるよ、クソガキ』
ふざけんな。何でお前らみたいな狂人が俺の前に出てくるんだ。お前らはこんな退屈な日常に居ていい連中じゃない。どこか遠くで誰にも迷惑が掛からないような場所でやれ。それが出来ないならさっさと死んでしまえ。人として生きるな。
-創るのは戦器
『ありがとう、ユウ。大好きだったよ』
どうしてだ。どうして、お前はそんな笑顔で殺されるんだ。駄目だ。死なないでくれ、頼む。俺が守るから。俺が守り抜いてみせるから。だから君は生きてくれ。笑っていてくれ。俺を含めた誰かの日常であってくれ。
-意思を強く創造しろ
だったら俺はあいつらと戦わなければならない。俺の日常のために。俺を日常としてくれている誰かのために。戦って、勝って生き残らなければならない。それが例え誰かを殺すことになっても。
-素材は血と魂、そして己の全て
分かっている。だって喚いていやがる。魔剣が体のなかにいるのを感じているから。奪う形で手に入れたこの魔剣、使わない手はないだろう。今はどんなものでも利用する。生きるために。
『紡ぐのは詠唱、繋ぐのは克我、創るのは戦器』
なるほど、アンタの言ったことが少しは理解できたよ、そっくりさん。魔剣の、魔刻十三器の創り方が。使い方が。
『意思を強く創造しろ 素材は血と魂、そして己の全て』
うるせぇ黙れよ。言われなくても分かっている。お前を使うために、お前に俺を喰わせればいいんだろ?くれてやる。俺の血で創り上げろ。魂で形を成せ。
-克我へと接続しろ 神無き詠唱を独白え。さすれば血で創られし戦器は汝に力を与え給わん
-結名君
一瞬、ほんの一瞬だけ最も慕う人の笑顔が俺を呼ぶ声と共に過る。それを気づかないふりをした。
体が、意識が覚醒する。現実の敵と戦うために。俺はその時、自覚的に人を捨てた。人として生きるために。
「アク……セス__マァインドォッ!」
人として生きるために人を捨てる。そんな矛盾を抱えながら魔法の言葉を叫び上げた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『創れ血よ』
「え」
覚醒直後、詠唱を口からこぼす。俺を肩に掛けていた先輩と目が合う。だが、今はそんなものを気にして入られない。神父もトールもレオグルスもいるのだ。
口から自然に詠唱が紡ぎ出される。
『階位四位『魔剣』』
先輩を払い飛ばし、先輩を除いた三人を視界に入れる。神父は死体野郎を起こし、レオグルスは体に結晶を生え伸ばす。レオグルスだけならともかく、あの死体野郎も加わったらまず勝ち目はない。なら今は、
『克我への接続詠唱』
トールの姿を視界の中心に捉える。今からやることは賭けだ。上手くいく保証なんて無い。でも、まともに戦うよりかはマシだろう。
『我が名は無二の器 降臨せよ裂き乱れる魔剣よ』
黒いコートのような鎧が俺を覆う。紅く煌めく黒い長剣。トールが使っていたときよりもやや長く、更に紅みがかっている。
-ドクン
魔剣が黒い波動を脈打ち、力を跳ね上げる。レオグルスが悪鬼のように嗤いながら迫り来る。それをすり抜けるように躱して、剣を思いきり振り抜き死体野郎の体制を崩す。神父は動かない。ならこの瞬間しかない。
「ハアッ!!」
剣を突き出し斬撃を飛ばす。狙いは一人だ。この中で最も肉体強度が低いであろう奴。今、直接戦うことが不可能な男へ。
「は?ッ!?」
-ズバァンッ!
顔面に吸い込まれるように斬撃は当たり、首から上が水風船のように爆ぜる。ただし、割れて飛び出たのは水ではなく、血と肉と骨だ。
「!ッテメェ!!」
レオグルスが何かを喚いているが無視して壁を切り裂き、そこから逃げる。音を置き去る速さでその場を後にした
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
トールの死体を見つめながら二人の男は話す。
「まさか、こうなるとはな。エル、アンタは知ってたのかよ?」
「予想の範囲内の予想外ですよ。これまでも彼の方の予言が外れることはあった。これもその一部でしょうね。しかし、殺されるとは思ってもみなかった」
「どうだかな」
仲間が死んだというのに彼らは笑う。まるでトール・クライソンの事など、どうでもいいかのように。
「フェリス。レオグルスと共に織崎さんの監視を」
「……はい」
「トールの事なら気にすんなよ三位。アイツも戦ってたんだ。殺される事ぐらい想定に入れていた筈だぜ。入れていなかったならあの野郎は戦場を甘く見てたって話だ。アイツが悪い」
「レオグルスの言う通りですね。彼の死はショックではありますが、悲しむ必要はない」
それは神父としては相応しくないセリフで、昨日まで一緒に酒を飲んでいた戦友として酷く冷めたセリフだった。
しかし、それが彼らにとっての『常識』であり、『普通』だった。それはアリアにとってはとても受け入れがたい思想でもあった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ハァ、ハァ……アァ」
トールは多分倒せた筈だ。あれで死んでいなかったら、もうどうしようもない。
「ハァ、ハァ」
どれだけ逃げた?どこまで逃げた?奴等は来ているか?もし、来ていたらどうする?戦えるか?こんな血塗れで怪しまれて無いだろうか?
「あぁ……あ」
意識が途切れそうになる。考えてみれば当たり前だ。暴走して、潰されて、敵を殺して、全力で走ったんだ。今までの人生で最も疲れた。いや、疲れたとか言うレベルじゃない疲労と倦怠感だ。正直、今すぐにでも意識を手放したい。
「ぁ……あ」
眠い。でも眠ったら駄目だ。あいつらに狙われるかもしれない。それは許すわけにはいかない。それを許したら莉桜や綾乃に、別居している両親に、そしてなによりあの人に危害が及ぶかもしれない。それは、絶対に避けなければならない。
と、考え歩いている時だった。
「お疲れさん、とりあえず今は寝とけ」
全く気配を感じなかった。
「ぁ」
俺と似たような声が聞こえたと思うと、首もとに衝撃が走る。次の瞬間には俺の意識はなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて、どうしたものか」
ここでこいつを殺すのもある意味一興だろう。だが、それでは-
「本当にどうしたものかね、これは」
決断力が無くなったものだな、そう自嘲しながら詠唱を紡いだ。
『創れ血よ 階位十三位『魔銃』』
「なぁ、お前はどうされたい?答えろよ織崎結名」
グレイブ・ステンベルグは魔銃を結名に向け、引き金を指にかけた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔刻十三器
第一位「??」
第二位「??」
第三位「魔槍」アリア・フェリス 『第四の代替』
第四位「魔剣」織崎結名 『無二の器』
第五位「??」
第六位「??」
第七位「??」
第八位「??」
第九位「魔晶」レオグルス・ゴーラル 『第二の為の戦士』
第十位「??」
第十一位「??」
第十二位「魔面」エルネスト・ブローリュク 『第七の狂信者』
第十三位「魔銃」グレイブ・ステンベルグ
グレイブさんは撃つんでしょうかねぇ?(邪笑)←笑うな、気持ち悪い
そしてトールさん退場。かませ犬にさえなれなかった。以下、彼のプロフィール
トール・クライソン A型 元・魔刻十三器第四位
世界最高峰の魔術師。そのため戦いは本来なら専門外。どちらかと言うと、後方支援や諜報の方が専門。エルに依頼され予言の達成に協力する。アッティスの防腐の術も彼が神父に教えた。
魔剣・魔槍・第七位・第十位は彼が見つけた。(第七位はグレイブによって奪われたが)
魔剣はあくまで護身用のために持っていたため魔剣の能力を十全には引き出せない。
結名に頭部を破壊される形で死亡する。
見て分かるようにこの人、本当は凄い人です。ただ、バトルは畑違いでした。あと名前だけはこれからもたまに出ます