現実ヲ蝕ム悪夢
明けましておめでとうございます……はい、遅いですね分かってますとも←分かってんなら更新を早くしろ
この話はプロローグ後半部分の四日前の話となります。
では、どうぞ
-七、その数字には一つ足りないという意味があるのは君でも知っているだろう-
-だから、私の呪名はその欠けた一つ足りない物を、それこそ永遠に探し続ける愚かな占神なのだろう。ああ、すまない。君からしてみればどうでもいいことだったな-
-つまり、私が言いたい事はその意味においては君は完成されているということだ。ただの偶然にしては総てが出来過ぎている。だが、それもまた予定調和の一つ-
-まぁ、まるで第一のヒトに限りなく近い君という存在をそのままにしてはおけない、という言いわけにしか聞こえないと言われれば言い返せないのだがな。とにかく私は君の存在が我々に必要だと断じた-
-故に私は君の誕生を消さないように仕向けたのだよ。こうなる未来が不鮮明とはいえ、見えていたのだからな-
-それに女神と彼の二人を護るのなら死神と魔神、あの二人と私だけでは些か心許ない。だから君のような者がいるのだよ。それこそどんな敵をも倒しうる闘争の化身が、な-
-君の神祖としてのその二つ名と呪名は伊達ではないと私は思うのだが、違うかね?-
-闘神、◼◼◼◼◼◼◼◼よ-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
本来の髪の色が分からなくなるほどに血に塗れた少女は少年の腕の名かで礼を述べた。
-ありがとう、ユウ。大好きだったよ-
「あぁ、ウワアアアアアァァァッッ!!」
織崎結名は自分の絶叫で覚醒する。近所の迷惑など考えていない音量で叫び、文字通り飛び起きた。
「ッガァ!?ハァハァハァ、ハァ……ハァ、またか。勘弁しろよ、ホントにさ」
結名は毎年物心ついた頃からこの時期、つまり5月くらいになると奇妙な夢を見る。
いや、もはやこれは夢ではなくなってきている。
織崎結名が見る夢。それは二人の幼なじみの一人、乙葉莉桜が死ぬ夢だ。厳密に言えば高校生になった莉桜が自分の目の前で黒いもやのかかった何かに殺される夢。
しかも、この夢はかなりおかしい。それは去年変わったばかりの制服を殺される莉桜が何故か着ているという疑問。そもそも、どうして五、六歳の頃の自分が莉桜や未来の自分が行く学校を知っているんだ、という疑問。そして、
「どうして莉桜の誕生日に近いこの時期に夢を見るんだということ」
結名は自身の夢を軽視できなくなっていた。それはこの夢が年を追うごとに鮮明になっていくからだ。だが、自分ではどうすれば良いのかが分からない。そして、そんな自分に苛立ちを募らせる。その悪循環が最近は毎日続き、今の結名は心身ともにかなり余裕のない状態だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おはよう、ユウ」
「おっはよー結君、いつにも増し増して辛気臭い顔だね~」
「おはよ、二人とも。あと辛気臭いは余計だ」
「でも、ユウ本当に顔色悪いけど大丈夫?休んだ方がいいんじゃない」
「いや、大丈夫だよ」
いつも通り、二人の幼なじみに挨拶をして三人で学校に向かう。
真条綾乃と乙葉莉桜。子供の頃から三人で連るんでいる。綾乃が悪巧みをして俺と莉桜がそれを慌てながら止める、そんな流れが俺達の仲で確立している。今は疎遠になっているが昔はここにもう一人いた。と言っても期間限定みたいなものだったが。
「早く良くなってよ、結君。じゃないと弄れないじゃん、主に莉桜ちゃんを」
「何で私っ!?」
「ああ、分かった。さっさと治すからしばらくは変なことやるなよ」
「りょーかい」
「ユウ!私は無視!?」
「うん、無視だ」
いつもと大して変わらない会話をしながら、いつもの道のりで学校へ向かう。
俺はこれから先この日を忘れることはなかった。だってこの日が俺にとって最後の『普通の日常』だったのだから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……ほう、それは本当ですか?」
『はい。そちらの雇った魔術師は全滅。こちらの護衛部隊も半数が死亡。『例の代物』も見つかっておりません。恐らくは……』
「恐らくは奪われた、ですね」
『……はい、申し訳ございません』
「ふむ」
『もう一つ報告があります』
「聞きましょう。何ですか?」
『犯人は恐らく奪った物とは別にもう一つ『例の代物』を持っています』
「……ハァ、そうですか。報告は以上ですか?」
『えっ、はっはい。以上で報告は終了です』
「分かりました。では、犯人の調査をお願いします。犯人は『例の代物』と共にこちらに来るはずです。ですからあなた方は犯人がどういう人物なのかだけを調べて下さい」
そう言って通信を一方的に終え、二人の男性と一人の少女に話し掛ける。
「計算外のトラブルが多少ありましたが、ようやく状況が動き出しました。ここからは我々のやるべき事は分かっていますね?お三方」
通信をしていた神父服の男は教会という場にはあまりにも場違いな二人の男に視線を向ける。傍らの少女には一瞥しただけだ。
「分かってんよ。何も心配は要らねぇ。アンタはアンタの仕事をしとけ」
「右に同じくですね。貴方の出番はまだ後半だ、神父殿。それこそ預言の変更がない限り我々に任せていただきます」
神父は微笑みを浮かべると二人に告げた
「私はアレの試運転をします。お二人にはそれを手伝って頂きたい。貴女もよろしいですね?いえ、貴女が一番大切な役割だ、彼女を頼みますよ」
「……はい」
少女は返答し、男たちは軽く頷くとその場から目的の場所へ向かった。
-さて、始めますか。このつまらない悲劇を、結末の決まった闘いを-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「織崎君。ちょっといいかな?」
「あっ、はい」
学校についたら顔見知りだが名前の知らない先輩に呼ばれる。周りの連中は告白だの何だの言っているが全て無視。一体の何の用なのか?
「フェリスさん、今日休みなのよ。だから、部活来なくていいって」
「そうなんですか。わざわざありがとうございます」
アリア・フェリス先輩。部員三名の名ばかりの部活である新聞部の先輩で、同学年以外では一番交流のある人物だ。放課後にはいつも勉強を教えてもらったり、その礼として彼女へケーキを持っていってそれを食べたり等かなり仲がいいと俺は思っている。
(今日は先輩が来ないから時間が余るな。なら、綾乃に頼んで少し調べて見るか)
自分の夢の謎を解き明かそう。教室に戻り俺はなるべく本当の事のように綾乃に聞いてみた。まず、俺の知り合いでこんな事を話して信じてくれる人なんて一人しかいない。そして、綾乃はその人じゃない。こんなことを話したら笑われるかもな、そんな自嘲感が胸を占めている。占めていたのだが、
「ふーんそっか、最近の結君が辛気くさいのは原因はそういうことだったのか」
「笑わないのか?こんなバカげた話。それに不愉快だろ、夢の中とは言え莉桜が誰かに殺されるわけなんだし」
「笑わないよ。嘘言ってる風には見えないし、それに仮に嘘でも結君は莉桜ちゃんが死ぬなんて嘘は言わないでしょ」
「確かにそうだけど……」
「という訳で信じるよ、その話」
このもう一人の幼なじみに信頼されているな、そう感じながら夢について更に細かく説明した。正直、信じてもらえるなんて思っていなかったからか、言葉がしどろもどろになってしまう。だが、目の前の少女はだいたい理解したようだ。
「結君の夢の中では莉桜ちゃんは決まった所で殺されているんだよね?なら、そこに行けばいいんじゃない」
「やっぱりそうなるか」
そう、莉桜は決まった所で殺される。だが、決まった場所といってもいくつか種類がある。綾乃はその場所の特徴を聞いただけである程度しぼりこんでくれたらしい(何故今ノートパソコンを持っているのかはあえて聞かない)。
「殺される回数が多い場所から行ってみればいいじゃん。というか結君って昔からそういうところあるよね。他人で自分がやらなきゃいけないことを再確認する、みたいな」
「……そんなこと、ないって」
本当は図星だ。確かに自分はそういうところが多々ある。
「ま、いいけどね。はいこれ地図。結君の言ってた場所から割り出してみた。あってるかどうかは分かんないけど一応の目星として使って」
「ああ、ありがとう。助かる」
「ん~気にしなくていいよ。その代わり、夢のことが解決したらケーキでも奢ってもらうから」
そう言って綾乃は俺の携帯に地図を送った。これからすべきことを考えながら地図をにらんだ。すると、
「ユウ、綾乃。どうしたの?さっきから二人でこそこそと」
「いんや、何でもないよ莉桜ちゃん。それよりどったの?私か結君に用?」
「ん、少し風邪引いたみたいだから早退するって二人に言おうと思って」
「へぇ、そうか。お大事にな莉桜」
「ありがと。また明日」
莉桜はそう言って他のクラスメイトに声をかけて帰った。莉桜を見つめていた俺に綾乃はいつもの軽い調子で声をかける。
「大丈夫だよ。家に帰るだけなんだから」
「……そうだよな」
俺は拭えない不安を胸に抱えながら莉桜を見送った。何もなければいいが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
放課後、さっそく地図の場所に来ていた。来たのはいいが、
「……どうすりゃいいんだ?」
そこである。ここからどうすればいい?どうすればあの夢の解明に繋がるんだ?そもそも夢の中の出来事を現実で解決できるのか?
「悩んでも仕方ないか」
今は何だっていいから手がかりが欲しい。もともと、そのために廃工場へは来たのだ。入らない手はない。
(あれは誰だ?)
中に入り、すぐに人影を見つけた。三人ほどいる。だが、そんなことは問題じゃない。問題はそいつらの前にいる奴だ。
(莉桜……!)
昼間に帰ったはずの幼なじみがそこにいる。何故だ。何故あいつがここに?
(まずいな、夢みたいな展開じゃねぇか。しかも莉桜はなんかに操られている様子だし、あいつ今意識あるのか?)
莉桜に意識をとられ過ぎたせいで腐臭に気づくのが遅れる。俺は後ろから振り向くと、
「え」
奇妙な五つ目の仮面をつけた化け物がいた。陳腐な言い方だが化け物としか言いようがない。五メートルを越える腐臭を放つ巨人なんて化け物でしかないだろう。そして、こいつは恐らく死体の塊だ。でなければこんな腐った肉体と臭いなんてないはずだ。
「◼◼◼……」
言葉ですらない音を発しながら死者がこちらに来る。そこでようやく俺は気づいた。
「ッ!?アンタっ!」
「気づくのに時間がかかりすぎですね。本来なら百回以上殺されていますよ、貴方」
神父服の男が背後に立っていた。それだけじゃない。チンピラ風の男と神経質そうな優男、そして
「アリア……先輩?」
「どうして君がここにいるの織崎君?」
「おやフェリス、この少年は貴女の知り合いでしたか。彼はそこでこそこそしていたので捕まえたんですよ」
神父の言葉が耳に入らない。その代わりと言わんばかりに友人に近かった先輩の姿が目に映る。
「まぁ、いいでしょう。トール、彼を殺してください。レオグルス、少女を安全な所へ避難させて下さい」
「チッ、分かったよ」
そう言って苛立たしげにチンピラは莉桜を掴み上げ連れ去っていく。駄目だ。これでは夢が現実になるだけだ。
「待て!おい!」
「おっと、威勢がいいのは好ましいですが、君の相手は僕だ、少年君。そこを履き違えてはなりませんよ」
「黙れブサイク!今どき一人称が僕だなんて流行んねぇんだよ!」
「ブサッ……!調子に乗りましたね少年君」
神経質野郎は俺の言葉に軽くショックを受けた素振りを見せると、怒りを隠しきれていない口調で俺を睨む。
「少年。貴方の敵は目の前の一人だけではありませんよ」
神父の声に呼応するように死者は思いきりその大腕を振るう。避けられたのは神父の警告のおかげだ。奇跡でも起きない限りもう一度避けるなんて不可能だろう。
「やはり、口だけでしたね少年君!」
「なっ!?」
蹴られた。だが、なんだこの痛みは。まるで体に大穴を空けられたかのような激痛だ。痛すぎて悲鳴すらでない。こいつは、いやこいつらは本当に人間なのか?
「あっ……アアッ」
「喘がないで下さい。僕は君を嬲るつもりなんですよ。そんな声を聞いたら殺したくなるでしょ……うッ!!」
「ガアァァッ!」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛みで意識を失えない。神父と死体はただ見ているだけだ。アリア先輩も同様に見ているだけ。
(俺はこれからどうなる?莉桜はどうなった?)
絶え間なく続く痛みの中でそれだけを思考する。幼なじみのこと自分のこと。
「気に入りませんね、その目。嬲るのは終わりです。死になさい少年」
「ッ!待て、トール。彼は我々の計画に関係ない。今目立つのはまずい。彼を殺すべきではないだろ」
「もう一人くらいなら死人が増えても大丈夫でしょう。ねぇ、神父殿」
「ええ、彼には黙って貰いましょう」
その神父の言葉を聞いた瞬間トールと言われた男は、嫌な笑みを浮かべた。
「さよならですよ」
「死んで……たまるかァッ!」
足を掴むが軽く振り払われ、頭を踏まれそうになる。俺の抵抗も無意味に終わろうとした。だが、
ドンッ
瞬間、屋根を壊しながら二人の男が降ってきた。一人は先程のレオグルスと呼ばれたチンピラ風の男。そして、もう一人は
「お前は……!?」
「……俺?」
自分がそこにいた。厳密に言えば自分をあと四、五年ぐらい年をとらせたような青年だった。黒い軍服を羽織っているのが印象的だった。
「無視とはいい度胸だなァッ!」
「チッ!」
青年はレオグルスの攻撃を避け、俺を掴み距離を取る。速すぎてそれしか分からない。
「貴方ですか?いえ、貴方ですね?魔刻十三器を奪ったのは?」
「ああ。だったらなんだ?」
「いえ、ただの確認です。お気になさらずに」
(まこく……じゅうさんき?)
なんだそれは、その疑問が口に出そうになったとき青年から話しかけられた。
「外に少女がいる」
「!!莉桜か!?」
「分からないが恐らくそうだろう。お前はそいつと共にここから去れ、そのあと」
「おいおいだから、シカトすんなつってんだろうがッ!」
レオグルスが俺達に向かって疾走してくる。青年はそれを迎え撃つように投げ飛ばす。
「レオグルスの援護を」
「◼◼◼……◼◼◼◼◼◼ッッッーーー◼◼◼ッッッ!!!!」
神父の男の命令に従い、死体の男も動く。それだけでなく、先輩やトールとか言う奴もこちらへ向かってくる。
「逃げろ、死ぬぞ。こんなところじゃ死にたくないだろ」
「……アンタは?」
「俺は後から逃げる。どうせこの数じゃ遅かれ早かれ逃げなげればならない」
そう言って軽く構え臨戦体勢をとる。本当に四対一、いや五対一で戦う気なのだろう。数の不利は明白だが、今はありがたく逃げさせてもらおう。正直、ここにいても彼の足を引っ張るだけだ。
痛みを無視して立ち上がり走り出す。
「紡ぐのは詠唱、繋ぐのは克我、創るのは戦器」
「あぁ?何だそれ?」
「一応覚えておけ」
一番最後に意味の分からない言葉をかけられるが、構わずに外へ痛みを堪えながら走り、途中で莉桜を拾って家に帰った。
(夢のようなことにはならなかったが、まずいな)
莉桜は死ななかったが、依然として奴等に何故か狙われている。しかも、そこに俺まで追加された。あの青年が五人を倒してくれれば万々歳なのだが恐らくそれはないだろう。逃げると言っていたし、それに五対一じゃ分が悪い。最悪あの青年が死んでいるかもしれない。
(さて、どうすればいい?)
考えても埒があかず、その日は夜を過ぎ朝になる。俺はどうすればいいのかがまだ分からなかった。
ついでに痛みのせいで一睡もできずにいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔刻十三器
第一位「??」
第二位「??」
第三位「??」
第四位「??」
第五位「??」
第六位「??」
第七位「??」
第八位「??」
第九位「??」
第十位「??」
第十一位「??」
第十二位「??」
第十三位「??」
一番最後はふざけてるわけじゃなくて真面目に現状の結名は魔刻十三器の名前を知ったばかりなのでこうなりました