あとがき
陰陽道は日々進歩する学問と同じ。つまりは、新しい事象に出会ったとき、その思想は、それを『陰陽道』的に解析して、『陰陽道』として吸収していくのである。
と、稚作にて書いていることは、陰陽道の歴史を独学ながらに勉強(と、仰々しく言えるものかどうかは置いておいて…)して、自らが辿り着いた持論です。
ということは、現代日本に至るまで、本格的に、特に魔術的な側面の陰陽道が脈々と続いていたとしたのならば――おそらくは、いやさ間違いなく、他文化をいともたやすく受け入れる国風とあいまって、西洋・東洋を問わず、さらにはブードゥなどの土着宗教や、マイナー宗教なんかにおける呪術的なものまで、陰陽道は貪欲に解析・吸収し、発展してきたであろうと世木は考えるわけです。
さてさて。しかし、自作『現代滝口譚』に置ける陰陽道はどうでしょう?
あっさりと結論を述べてしまうと、残念ながら、その持論を明確に表現するほどの陰陽道の表現は成されていません。
『現代滝口譚』という作品の設定では、『新たな魔術的事象の解析と発展を行うだけの優れた陰陽師が、陰陽道の最盛期以後、ほとんど現れなかったため』としています。
言い訳がましく聞こえるかも知れませんが、これは中世期以降、優れた陰陽師が少数しか存在していないという事実が、歴史的にも証明しているわけです。故に世界的に見ても素晴らしく、そして、万能、下手すりゃ最強にさえなれたという魔術体系を有しながらも『陰陽道』という思想は、廃れてしまったわけですね。
…と、建前はさておき、『現代滝口譚』という作品は、すでに前提から『if』を語っている(主役たる滝口からして、その『if』ありきで作られている物語ですからね…)現代猟奇ファンタジーなわけですから、陰陽道が、それこそ歴史の裏で発展し続けてきても良かったワケですよ。今回登場した『占事略决』が、適合者を必要とする難物なシステムではなく、単に代々の陰陽頭が使えるモノだと設定してしまえば、永久に『安倍晴明』と同能力の人材が確保できてしまうワケですよね。これで人材不足もねぇだろう!ってな、コトになりますw
では、それに自分で気付いておきながら、何故にそれをしないのか?しなかったのか?
……現状、できないっす(泣)
それを再現しようとすれば、それこそ世界中の魔術体系を熟知し、自分なりに陰陽道に解析、つまりは応用した上で、さらには作品中で解説しながら表現しなくてはならないわけですよ!
それは理想です。
それは、いつか自分が書きたいと思う理想の陰陽道なのです。
もっと勉強して、知識と応用力と表現能力と…様々な足りないものを補って、いつかは挑戦したいと思うものなのです。
さて。なんでこんな話をわざわざコラボ連載でのあとがきでするのか?
その陰陽道というものの魔術体系が、世木維生という拙い趣味作家が、月城柚氏のファンになったという理由だったからなんです。
それは、初めて長編(というよりも小説自体)というもの、『現代滝口譚1』を書いている時のことでした。
ある方から作品の雰囲気(決して文体などではなく、設定的な雰囲気が、だと思います。僕には月城氏のような緻密でありながら、読みやすい文章は書けませんので…)が、月城柚氏の『世界の狭間』に似ていると言われたんです。
近親憎悪、ってあるじゃないですか…正直ね、初めは、あまり乗り気で読んだわけではなかったんですよ。
ただ似ていると言われた以上、真似になってないことを祈りつつ、今後、真似にならないようにチェックしとこう…と。
半ば作業的な…
しかし。
しかし、見事にハマリました(笑)
『世界の狭間』は非常に面白い!(月城氏の他作品もしかり)
僕は現代を物語の舞台にする以上は『リアルさ』は不可欠である考えています。
「メラ!」と言ったから火の玉が出る。ではなくて、なんで火の玉がそれで生じるのか?という理由が『しっかり』欲しいと思う、納得したいと思う偏屈者なんです。
極論で言ってしまえば、それがないなら現代を舞台にする意味がない、とさえ思います。
その点、『世界の狭間』に於ける魔術設定・解説ならびに描写は正に見事です。
現代社会という舞台に違和感なく魔術が存在して、物語の中核をなしています。
ああ、勘違いのないように補足すると、魔術は科学社会に於いて異能ではあるので、本来の意味での違和感は、作品中に当然あります。あって当然です。だって現代社会が舞台なんですから。
しかし、月城氏はこれも見事に描きます。主人公である時津カナタ、或いはミサト以外のジャベリンメンバーを使って、それを物語として表現しているんです。それこそタイトルである『世界の狭間』なんですから。
日常と非日常の狭間の物語なわけですね。
そして、僕が、この月城柚という作家さんに一番に驚かされたのは『世界の狭間2』に於いて、だったのです。
そう。癸チドリという陰陽師に非常に驚かされたのですよ!
彼女は僕の理想とした『現代社会に存在すべき発展し続けた陰陽師』だったんです!
彼女は西洋魔術の技術・知識を融合させ、さらには『サンスクリット語』という日本の魔術である陰陽道魔術の基礎言語『かな』を使わずに陰陽道の呪術・秘術・魔術を行使します。
凄い!これ凄いです!これですよ!
感心しました。感動しました。尊敬しました。
この作品、面白い上に凄い!!
それが月城柚氏のファンが、新たに一人、出来上がった瞬間です(笑)
それ以降、メッセージを送らせていただき、交流させてもらえるようになり、そして今日、その交流の集大成であるコラボ作品完結に至ったわけです。
全体の展開を考慮しつつ、話数を合わせたりするのは大変ではありました。事実、その為に執筆に時間をかけすぎてしまい、特に月城氏のファンの方々には多大なる迷惑をかけてしまったと申し訳なく思います。
ですが、非常に楽しかったです。アイディアの出し合いから始まり、物語の展開の打ち合わせ、執筆中のやり取り。時間が許されるならば、個人的には、またいつかやりたいですね。
あくまで『時間が許されるならば』ですよ?(笑)
さて。というわけで、今回、物語の最後までお付き合い頂いた皆様、本当にありがとうございました。重ね、今作は執筆に非常に時間をかけてしまい、申し訳ありませんでした。特に月城氏のファンの皆様には、しつこいようですが、申し訳なく思います。
いつもでしたら、ここで『でわ』なのですが、『セカイノハザマ』とのコラボということで、オマケを僕も作ってみました。コラボで心残りだったことを叶える、自己満足のため…で、ありますがw
僕にとっての『世界の狭間』の象徴ともいうべき彼女を扱った、コラボの後日談…ということで、よろしければ、もう少し、お付き合い下さい。
では。