prologue”雨月物語”
この物語はフィクションです。作品に登場する人物、団体、事件、『刀』等は実在のものとは一切関係ありません。
また、今作の執筆に当り、時間をかけ過ぎてしまい、特に月城先生のファンの方々にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。
ここに希有の物がたりの侍る。妖言ながら人にもつたへ給へかし。此の里の上の山に一宇の蘭若の侍る。故は小山氏の菩提院にて、代々(よよ)大徳の住み給ふなり。今の阿闍梨は何某殿の猶子にて、ことに篤学修行の聞えめでたく、此の國の人は香燭をはこびて歸依したてまつる。我莊にもしばしば詣で給うて、いともうらなく仕へしが、去年の春にてありける。越の國へ水丁の戒師にむかへられ給ひて、百日あまり逗まり給ふが、他國より十二三歳なる童兒を倶してかへり給ひ、起臥の扶とせらる。かの童兒が容の秀麗なるをふかく愛させたまうて、年來の事どももいつとなく怠りがちに見え給ふ。
さるに茲年四月の比、かの童兒かりそめの病に臥けるが、日を経ておもくなやみけるを痛みかなしませ給うて、國府の典藥のおもだたしきまで迎へ給へども、其のしるしもなく終にむなしくなりぬ。ふところの璧をうばはれ、挿頭の花を嵐にさそはれしおもひ、泣に涙なく、叫ぶに聲なく、あまりに歎かせたまふままに、火に燒、土に葬る事をもせで、臉に臉をもたせ、手に手をとりくみて日を經給ふが、終に心神みだれ、生てありし日に違はず戲れつつも、其肉の腐り爛るを吝みて、肉を吸骨を嘗て、はた喫ひつくしぬ。
〜上田秋成著 雨月物語 卷之五『青頭巾』より〜
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世界には非日常の顔がある。
一般の常識では考えられない超常的な力、そして、その力を行使する者が確かに存在するのだ。
その存在は、普段は一般人と何ら変わりのない生活を送る人間である事もあれば、世界各地に伝承される神や天使、そして悪魔や魔物といった人間ではないモノであったりする。
それは絵空事ではなく、真実。
それは世界の裏の常識であり、現実。
これは世界の表と裏、その狭間の物語。