1位の執着心
雲1つない快晴
27℃は確実に超えている気温の中で私は黙って走る。
今日の体育はよりによって、持久走。
元から体力のない私、その上この前軽トラックに轢かれるという事故にあったため普通より足が動かない。安定の女子の一番後ろ、最下位。
歩いているのか、走っているのか分からないスピードで、坂を上っていると
後ろから声をかけられた。
「おい、暗いぞ?」
「裕也・・・・そんな私、暗い顔してる?」
「してるしてる」
ニッと笑う。
運動部に所属しているのに、他の男子のように焼けていない肌。
続と違い、優しい目
しっかりとした筋肉がついた体
ふさふさした茶色の髪
この男は黒須 裕也。
誰にでも優しく接してくれる皆の兄のような存在
密かに女子からの人気が高い
・・・・幼馴染でもある
同じく間宮家に仕える分家、黒須家の当主の血筋を持つ。
私が続のことを好きということを知っている。
「もしかして・・・・アレのことか?」
裕也は察しがついているようだ。
私は無表情で
「ご察しの通りよ。」
「あ、あははは、そうか」
「もう女子に追いついたの?」
この学校の持久走の距離は、女子は8キロ。男子は9キロ。
なので現在、女子の後ろに男子が走っている状況だ
「裕也が男子のダントツの1位? めずらしいわね、いつもは少し後ろで・・・続が走っているのに」
「寝不足で本気が出せないんだろう。すっごい目つきで俺の後ろで走っているよ。」
私はチラッと後ろを振り返ると20メートル離れた所に続がすごい顔で走っていた。クスクスと私は笑いながら、
「1位以外は、全てクズという教えを幼い頃から植えつけられているからね、
彼。」
「よっぽどクズになるのが嫌なんだろ」
「でもね、1位ではなくてもすごいらしいよ私達の成績。・・・他の人から見れば、すごいらしい。」
「・・・え?」
裕也はこちらを見たので私は恥ずかしくて、そっぽを向く。
そう、私の・・・私達の家は1位以外はクズという教育だった。
私は、音楽で1位を。続は、学力で1位を。裕也は、運動で1位を。
皆、それぞれの能力を活かし、1位を獲っていた。
この前、裕也は陸上で2位を獲ってしまい、黒須家の当主・・・自分の父親に、すごい怒られていた。その大会の表彰式で、他の人には分からないだろうが私や続には分かった。
彼は絶望していた
今にでも倒れそうな顔色で・・・・・
「・・・・・・・。
だから2位でも十分すごいよ。」
「・・・・、気を遣ってくれたんだな。ありがとう。
先にいくよ。無理すんなよ」
そういって彼はスピードを上げ、私をあっという間に抜かした。
「はやっ」
彼の背中を見送り、俯く。
普通の人から見たら2位でもすごい、これは本当だ
では何故、親は・・・私達の家は1位に執着しているのだろう・・・?
たぶん、私達・・・柊、月宮、黒須の苗字を広げたいのだろうと、私達3人は考えている。
皆、自分ではなく後ろにある苗字しかみていない
誰も自分自身をみてくれない
皆にとって、後ろにある苗字が私の本体なのだろう
だが、彼女は違った。
間宮家の血を受け継ぐ、間宮 優花だけは。