表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

第30話 すれ違い

 人が行き来してざわめいているエントランスの、奥に位置するメインロビー。エントランスからの喧騒や視線を自然に遮れる様に何段か低く設計されている、その老舗ホテルのロビーを待ち合わせ場所に指定された美子は、和装で出向いた為、慎重に絨毯敷きの階段を下りた。

 吹き抜けの天井から吊るされている、やや照度を落とした照明の暖色系の光が、黒光りする漆塗りのテーブルに淡く映り込んでいる落ち着いた空間をぐるりと見回すと、ほぼ正面に位置する丸テーブルを囲むソファーの一つに、紺色のブックカバーを掛けた本を読んでいるスーツ姿の秀明が座っているのを見つけて、忌々しい思いに駆られる。


(居たわ。呆れる位、堂々としているわね)

 そのまま彼に近付いて行くと気配や視線を感じたのか、本から視線を上げた秀明が美子を認めて薄く笑い、無言で手元の本を閉じた。


(上手く私を釣り上げたと、ほくそ笑んでるのが丸分かりだわ。顔を見たら問答無用で蹴り倒しそうだったから、用心の為に着物で来たのは正解ね。……でもいっその事、顔面をスパイクで踏みつける位の事はしても良かったかも)

 そんな物騒な事を考えながら、美子はゆっくり足を進めつつ、周囲の様子を窺う。


(叔父さんからは『事務所の人間を、当日周囲に何人か配置させて貰う』と言われたけど……)

 不自然に見えない程度に問題のテーブルの周囲を確認すると、叔父の自宅や事務所で見た覚えのある顔を認めて、溜め息を吐きたくなった。


(あいつの周囲に、見覚えがある顔ばかり。『何人か』じゃなくて『何組か』みたい。ここはお互いに、知らないふりをした方が良いでしょうね)

 自分の動向を不特定多数の人間に注視されている事に心底うんざりしながら、美子は秀明が居るテーブルまで辿り着いた。


「やあ、久しぶり。元気そうだな」

「……どうも」

 苦笑混じりに声をかけてきた秀明から微妙に視線を逸らしながら、彼とはテーブルを挟んで向かい側のソファーに落ち着くと、様子を窺っていたらしいウェイターが、呼ぶ前に自然な動作で近寄ってお伺いを立ててくる。

「お客様、お飲み物をお持ちしますか?」

 その声に美子が頷いて注文を済ませてから、秀明が笑いを堪える様に言い出した。


「大仰なお供を引き連れて、大変だな」

「何の事かしら?」

 惚けようとした美子だったが、秀明は如何にも楽しそうに詳細を語った。

「約束の時間の二時間前からここに居るんだが、一時間前位にやって来た集団のうちの何人かが、俺の顔を見てギョッとした顔になって、笑いを堪えるのが大変だった。でもそっちに連絡がいっていない様だし、連中はばれたとは思っていないらしいな」

(早々にばれていた訳ね)

 軽く頭痛を覚えながらも、美子はあくまでもしらを切ろうとする。


「二時間前? 相当暇な上に、方々に顔が売れている人気者なのね。知らなかったわ。どんな人達に顔が売れているのかは知らないけど」

「れっきとした休日だからな。早目に来たお陰で珍しい見世物が見れて、今まで楽しませて貰った。その集団は俺の周囲に分散して座っているが、本当なら纏まって座って、俺が来る直前にわざと盗聴器を付けた席を一つ空けて、そこに俺を座らせる腹積もりだったんじゃないか? 段取りを潰してしまって、申し訳なかった。後から謝っておいてくれ」

 そこまで言われて誤魔化すのを止めた美子は、軽く顔を顰めながら感想を述べた。


「あまり趣味が良いとは言えないわね」

「その自覚はあるが、困った事に止められない。本当に美子の傍に居ると退屈しないな」

「呼び捨ては止めて」

「了解」

(全く、腹が立つわね)

 真面目くさって頷いた秀明に余計に苛付きながらも、ここで先程注文した珈琲をウエイターが恭しく持って来た為、美子はひとまず口を噤んだ。そしてブラックで一口珈琲を飲んで、気持ちを落ち着かせてから早速本題を切り出す。


「あんな物を叔父の所に送りつけるなんて、一体どういうつもり?」

 単刀直入な問いかけに、秀明も淡々と言い返した。

「あれは要らなかったか?」

「必要だったかもしれないけど、あなたが気にする事では無いでしょう?」

「気にするさ。君の実の叔父と従兄弟の事だからな」

 如何にも当然の様に告げられた美子は、思わず舌打ちしたくなったが、何とかそれを堪えて慎重に話を進めた。


「それから……、あのデータは他にもあるの?」

「いいや? あれだけだ。俺には価値の無い物だからな。あれは倉田氏が好きにすれば良い。外部に漏らしたがる筈は無いが」

(本当に? コピーも取らずに、あれだけだと?)

 密かに気合いを入れた尋ねたものの、あまりにもあっさりと返された為に美子の疑念は深まったが、ここで秀明が思い出した様に尋ねてきた。


「そう言えば、あの気の毒な彼はどうしているんだ? おそらくあの後、大切な彼女に振られただろうし。いや振られる以前に、一方的に音信不通になったとか?」

(つくづく嫌味な男ね!)

 わざとらしく世間話の一つの様に尋ねてきた秀明に、美子は自分の顔が強張ったのを自覚しながら言い返した。


「あなたらしくないわね。自分の行為に対して、今更罪悪感でも覚えたと言うわけ?」

 秀明がそれに対して、不思議そうな表情で応じる。

「どうして俺が、罪悪感を覚える必要がある。単なる好奇心だ。何も無かった事にして丸く収める手腕が有るなら、拍手喝采の感動物だからな」

 平然と言い切った秀明に、美子は軽く呼吸を整えて平常心を心掛けてから、硬い表情で事の顛末を口にした。


「女性の方はどうなったのか全く分からないけど、俊典君は叔父の私設秘書を辞めて、ベトナムの合弁企業で働くそうよ。今日の午前中に出国したわ。向こうの生活が落ち着くまで、暫く帰国できないかもね」

 それを聞いた秀明は幾分驚いた表情になると同時に、思わずと言った感じで小さく口笛を吹く。

「それはまた……。随分急な、文字通り新天地での再出発だな。直接の面識は無いが、一応君を通して縁があるから、健闘を祈ろう。しかし倉田議員は他人に厳しい以上に、身内に厳しかったと見える。さすが社長の実弟だな」

(とぼけてるの? あの時、ボールをぶつけて来たわよね?)

 素で感心した様に呟いた彼の表情を見て、美子は無意識に鋭い視線を向けた。


「……本当に面識は無いの?」

 探る様に言ってみたものの、それは秀明に平然と返されてしまう。

「一企業の課長職の男と代議士の秘書との間に、そうそう接点があるとは思えないが? ああ、今では“元”秘書様だったか。肩書無しでどうにかやっていけるなら甘さも抜けて、何とか実家の役に立てる人間位にはなれるだろうな」

 そして面白がるようにくすくすと笑った相手に、美子は徐々に怒りを駆り立てられた。


「あなたね……。人一人の人生を狂わせておいて、他に言う事は無いわけ?」

「もっと正確に言わせて貰えれば、自業自得な勘違い間抜け野郎だったな」

「それは確かにそうかもしれないけど、もう少し言いようって物があるでしょう!?」

(駄目だわ、怒りに任せていたら、相手の思う壺よ。冷静に、冷静に)

 思わずテーブルを掌で叩いてしまった為、周囲からの視線を集めてしまった事に気付いた美子は、慌てて自分自身に言い聞かせた。その上で、再度慎重に問いかける。


「もう一度聞くけど、どうして叔父のところに、あんな物を送りつけたわけ?」

 すると秀明は薄笑いを完全に消し去り、真顔になって告げた。

「前々から、お前の父方に釘を刺しておきたかったのが一番の理由だが……。今回のあれこれは、強いて言えばお前が一番悪い」

 それを聞いた美子は、本気で首を傾げる。


「はぁ? いきなりわけが分からない事を言わないで。どうして私に非があるのよ?」

「俺からの電話やメールをずっと着信拒否のままにしていながら、男と出歩いてヘラヘラ笑っていただろうが」

「……え?」

(確かにこの人の電話もメールも、マンションに出向いてからこの前まで着信拒否のままにしてあったけど……。ちょっと待って!)

 ここで秀明が口にした事で確信した内容について、美子は盛大に非難の声を上げた。


「『男と出歩いてヘラヘラ』って、やっぱりこの前ペイントボールをぶつけて来たのは、あなた達ね!?」

「それがどうした」

 その指摘にも平然と応じる秀明に、美子が徐々に目つきを険しくしながら糾弾する。


「何開き直ってるのよ! まさか八つ当たり? それだけの事で、あれだけの騒動を引き起こしたわけ?」

「事実誤認も甚だしいな。俺は親切にも周囲に知られて騒ぎになる前に、隠されていた真実を倉田議員に教えてやっただけだ。馬鹿な事をしでかしたのは、あの考え無しの恥知らず野郎だ」

「それでもあれはやりすぎでしょうが!」

 すると秀明は軽く眉を上げ、不愉快そうに美子を見ながら尋ねてきた。


「あいつに密かにコケにされていたお前は、腹が立たないのか? 愛人を容認する、都合の良い女扱いされたんだぞ?」

「……はっきり言われたわけじゃないし、正直実感が無いわ」

 目の前の相手から視線を逸らしながら美子が若干困り顔で本音を述べると、秀明は苛立たしげに吐き捨てた。


「これはまた随分と、お優しい事だな。血縁関係がある分、甘いのか? 俺は自分の女をお飾り人形扱いされて、何もしないで傍観している程の阿呆じゃない」

 しかしその主張は、彼以上に硬質な声で美子にはねつけられる。


「私は誰の女でもないし、第一あなたとの初対面の時、私の事を面と向かって『一番凡庸だが愛人を囲っても喚き散らさない程度の世間体を保てる女』と言ったのを忘れたの? 実際にするかしないかの問題じゃ無くて、そういう目で見るってだけでも同類扱いして良いわよね?」

「…………」

 言い終えた美子が鋭い視線で秀明を睨みつけると、彼も無言のまま視線を返す。

 そのまま数十秒、双方一歩も引かない緊迫した睨み合いを続けてから、秀明が根負けした様に彼女から視線を逸らした。それと同時に、先程本をしまった鞄に手を伸ばし、その蓋を開けて中から黒い革製の高級そうなリングケースを取り出す。

 次いで無言のまま、それをテーブルに乗せて自分の目の前に押しやった為、容易にその中身の見当が付いた美子は、僅かに顔を顰めながら問いかけた。


「何? これは。黙っていないで、ちゃんと説明したら?」

 皮肉気に言われた秀明はそれを気にする事無く、再び美子に視線を合わせて、真剣な表情と口調で申し出た。

「俺と結婚してくれ」

 しかしそれを聞いた美子は、軽く溜め息を吐いて応じる。


「良くできました。……と、言いたいところだけど、他の女の人はどうするの? 全然知らなかったけど、付き合っている女性とは全く別の女性と結婚するのが、最近巷で流行っているのかしら?」

 秀明の言葉に微塵も感銘を受けた様子を見せず、それどころか若干呆れた様子すら見せながら美子が皮肉を返したが、秀明は気を悪くした風情は見せずに言葉を重ねた。


「この際他の女とは、全員完全に手を切る」

 それを聞いた美子は、軽く溜め息を吐く。

「全員、ね。別に無理して切らなくても、構わないのよ? 私のせいで別れたと、後からグチグチ言われるのはまっぴらだし。そもそも本気で言ってるわけじゃないでしょう?」

 そう言って苦笑した美子に、ここで初めて秀明が不快そうに顔を歪める。


「……俺は本気だが?」

「偶然ね。私もなの」

「…………」

 ここで二人は無表情に近い状態で見詰め合ったが、先に根負けした美子が若干疲労感を漂わせながら言い出した。


「見合いをした直後に私の家に出向いた時には、自分の計画の駒の一つとして私を利用する為。課長就任後に乗り込んで来たのは、私の反応を見て面白がる為。今回改めて結婚を申し込む理由を、是非聞かせて貰いたいんだけど?」

「……ムカついたから」

 心底面白く無さそうに呟いた秀明に、美子ははっきりと顔を顰めた。


「私に腹を立てたなら、尚更結婚を申し込んだりしない方が良いんじゃない? 限りある人生を、無駄にする事は無いわ」

「確かにお前に腹を立てたが、そうじゃない」

「万人に理解できる日本語で喋って頂戴」

「お前の隣に、他の誰かが居るのは許せない。しかも俺以外の男に笑いかけてるなんて、冗談じゃない」

 本気で腹を立てている様に見える相手に、美子は正直うんざりした。


「……馬鹿じゃないの? 世界で私と二人きりにでもなりたいわけ?」

「それも良いかもな」

「少し頭を冷やすのね。寝込んで以来、常軌を逸してるわ」

 素っ気なく切り捨てた美子に、秀明は一瞬眉根を寄せたものの文句などは口にせず、唐突に横の椅子に置いてあった鞄を手にして立ち上がった。


「まあ、いい。それは渡しておくから、次に会う時まで考えておいてくれ」

「ちょっと! そんな勝手に押し付けないでよ!!」

「一ヶ月は日本に戻れないから、その間にゆっくり考えていれば良い」

「日本に居ないって……、しかも一ヵ月ってどういう事?」

 慌ててリングケースを押しやろうとした美子が、秀明の台詞に怪訝な顔になると、彼は淡々と今後の予定を口にした。


「社長の手腕は相当だな。恐らく弟から話を聞いてから、即行で話を纏めてねじ込んだんだろう。南米四ヶ国視察の仕事が、管轄外の部署の俺に回ってきた。来週から取引のある提携企業や、現地の生産工場を視察しながら、1ヶ月かけて複数の契約を締結してくる強行軍だ」

「……ご苦労様です」

 思わず顔を引き攣らせた美子に、秀明は小さく笑い返す。


「そして俺が日本に居ない間に、倉田議員が俺の周囲を徹底的に探らせて、変な所に繋がってないか確認を取るつもりなんだろうな。探られても別に痛くも痒くもないが、徒労に終わる部下やスタッフはご苦労な事だ」

「…………」

 その光景を頭に浮かべて、とんだとばっちりを受ける羽目になった関係者の面々に、美子は申し訳ない気持ちになった。そして一歩足を踏み出した秀明が、思い出した様に足を止めて振り返る。


「ああ、そうだ。何か土産に欲しい物はあるか?」

「別に無いわ」

「そうか。それじゃあ、帰国したら連絡する。どうせお前の携帯は、俺からの電話やメールは受け付けないままだろうから、家の固定電話にさせて貰うからな」

 言うだけ言って再び歩き出そうとした秀明を、美子は座ったまま反射的に呼び止めた。

「ちょっと待って!」

「何だ?」

 再度足を止めて振り返った秀明に、美子は一番気になっていた事を口にした。


「その……、叔父の事務所に送りつけられたデータは、本当にあれだけ? 他にコピーとかは……」

「さっき、無いと言った筈だ」

「それはそうだけど……」

(確かにそれも気になっているけど、大体どうしてこんなタイミングでまた結婚を申し込んでくるのよ。お父さんや叔父さんからしたら、まるでデータと交換に結婚を強要されてるみたいじゃない)

 咄嗟に自分の気持ちを上手く表現できなかった美子が、口ごもってしまうと、そんな彼女を見下ろした秀明の表情が、いつもの取り繕った冷静なものから、若干傷付いた様なそれになった。


「……そんなに信用できないって言うのなら、俺の居ない間に本格的に家捜しでも何でもしたらどうだ? お前の叔父なら伝手を使ってどうにでも令状は取れるし、警察も動かせるだろう。構わないから安心できるまで好きにしたら良い」

「それは……」

 さすがにそこまでするつもりも、させるつもりも無かった美子だったが、秀明はあっさりと踵を返して立ち去って行った。そして美子は呆然としている間に指輪を返すのを忘れていた事に気付くのと同時に、後ろめたい思いに駆られる。


(何よ。いつもふてぶてしい顔をしてるのに、こんな時だけあんな顔しなくたって良いじゃない)

 そして無言でケースを凝視していると、隣のテーブルに座っていた清原が歩み寄り、腰を屈めて恐る恐る美子に声をかけてきた。


「美子さん、何か不都合でもありましたか?」

「いえ、大丈夫です」

 清原がチラッとテーブル上のリングケースに視線を向けつつ、心配そうな顔を向けてきた為、美子は慌ててそれを掴んで、ハンドバッグにしまい込んだ。すると続けて清原が、最大の懸念を口にする。


「それで……、例のデータに関しては……」

「コピーの類は無いし、彼がどこかに持ち込む可能性は皆無ですから、安心して下さい。勿論あれを叔父さんに対しての、何かの取引材料にするような真似もしませんから」

「あの……、それは本当に?」

 彼らの立場からすれば不安が拭えなかったのは十分理解していたが、美子は疑われた事に腹を立て、反射的に清原を睨んだ。


「私の保証では、信用して頂けませんか?」

 若干棘のある言い方になってしまったと美子自身分かってはいたが、清原以下、事の成り行きを見守っていた面々にそれが分からない程鈍い者は皆無だった為、慌てて皆一斉に謝罪の言葉を口にする。


「いっ、いえ!! とんでもございません!」

「本日はご足労頂いた上、色々とお手を煩わせて申し訳ございませんでした!!」

「ご協力、感謝いたします」

「ご自宅まで、お送りしますので」

 自分の座っている椅子をぐるりと取り囲んだ男達が、一斉に自分に向かって頭を下げた事で、周囲からの視線で悪目立ちしている事を悟った美子は、更に怒りを募らせながら静かに立ち上がった。


「いえ、結構です。それでは失礼します。叔父に宜しくお伝え下さい」

「あのっ! 美子さん!?」

 表面上は穏やかに、しかし断固とした口調と態度で、追いすがる清原達をホテルの車寄せにいたタクシーに乗る事で振り切った美子は、後部座席に一人きりになってから、張り詰めていた気を漸く緩めた。そして帯の形が崩れるかもしれない可能性を考えずに、乱暴に背もたれに身体を預ける。


(確かに傍若無人で物言いが一々ムカつくし、無駄に行動力と判断力があるせいで、やる事なす事節度が無いし、根性が曲がってるから隠し事はされたけど……。よくよく考えたら他の人に対してはともかく、少なくとも私に対しては、これまで嘘を吐いた事は無かったかも……)

 その結論に達した美子は、先程の自分の振る舞いについて素直に反省した。


(あからさまに疑っている口調で、繰り返し尋ねたのは悪かったかもしれないわ。でも……、これまでの行動が行動だし、信用できなくても仕方ないじゃない。俊典君じゃないけど、自業自得だわ)

 秀明に対して罪悪感を覚えた美子だったが、それは短い時間に過ぎず、すぐに相手に責任転嫁した。しかしどうにもすっきりしない気分と理由の分からない苛立ちを抱えたまま、美子は帰宅した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ