ショウとライ
午前8:15分。糞ロリコン工業高校生である牧尾障の 目覚めは最悪だった。 鳴り響く目覚まし時計を手探りで止めてゆっくりと 目を開けると、何かがそこにいた。 枕元にあった眼鏡をかけて「それ」をはっきり確認 すると、障は思わず叫んでしまった。
「…っ!うわあああああああっ!!」
そこにいたのは身長40cm程の人形…いや、人形と いうのはいささか語弊があるかもしれない。何故な ら「それ」の顔は生気に満ち、脈があったからだ。 そして何より、自らの意思で動く事ができた。手も …足も…勿論口も。
「君が障?ふーん…たしかにこいつ、ロリコンだね 。」
…一言目で「ロリコン」と突き放されても、障とし てはそんなことを気にしている余裕はない。
「な、な、な、何言ってんだお前!て、てか誰だよ !」
「ん?私?あ、き、ら。下等亜鬼羅だよ。冥界から 来たロリコン達ののパートナーでーっす!」
亜鬼羅と名乗った「それ」は軽くお辞儀をして障の 体に乗り上げた。
「まぁー、なんだ。取り敢えず私の話、聞いてくれ る?」
亜鬼羅の口調はまるで障が昔からの知人のようなふ うであった。 亜鬼羅が「話」を始めようと口を開くと、一階から 声がした。
「ショウー?どうしたの?ご飯よー?」
声の主は、障の母親だった。 障が時計を見ると、長針がすでに6の数字を越えて いた。
「やっべ…もうこんな時間かよ!早く飯食って学校 行かねぇと!おいお前!俺は忙しいの!話があんな ら後にしろ!」
そう言うなり障は階段を駆け降り、朝食と着替えを 済ませ家を飛び出した。 運動は苦手だが、今回ばかりは仕方ないと普段の通 学で歩き慣れた道を駆け抜ける。
学校に着いたのは、余裕で遅刻の8:50だった。
「ハァハァハァ…間に合った…。おはよう松尾氏。 」
障の席には学校のロリコン仲間、松尾儡が座ってい た。
「お、牧尾氏。てか間に合ってはないでこざるよ。 まぁ、担任居なくてよかったな。」
「そうだな…」
彼等がたわいもない会話をしていると授業が始まっ た。
…しかし障はほとんどの授業を寝てすごしたため、 気付けばその日の授業は既に終わっていた。
「おーい牧尾氏、逮捕ー寄って一緒に帰ろうず。」
「逮捕ー」とは「逮捕ーステーション」、二人が常 連のゲームセンターのことである。
「おう。久し振りに行くか。」
校門を出た障が儡とロリ談義に花を咲かせていると 、背後から聞いたことがある声が聞こえた。
「二人共、気を付けてね。奴等そろそろ何か仕掛け てくると思うから」
二人が振り向くと、後ろには亜鬼羅が浮遊して二人 に付いてきていた。
「うわっ、お前…夢じゃなかったのか!」
思わず二人は後退りする。
「おい!もう驚くのは疲れた!今朝言ってた話って の言えよ!」
障は面倒事が嫌いだった。
「わかってるよぉー。でもそれより、前見てみ?」
言われるがまま、前を向く二人。 するとそこには人のような形状をした黒くて異臭を 放つものが立っていた。 だが立っていたのは束の間のこと。怪物は障たちと 目が合うなりグロテスクな両目を光らせ、奇妙な緑 色の液体を吐き出した。 しかし、亜鬼羅が液体を呪文のようなもので障達か ら逸らした。 咄嗟に亜鬼羅が指をさし、叫ぶ。
「二人共、そこの角曲がれば廃工場があるから、走 って!逃げるよ!」
「お、おう!」
障達は、日頃の運動不足を恨みながらも何とか小屋 に行き着き、怪物をやり過ごすことができた。
「ふぅ~、それにしてもなんで俺達が狙われたんだ ?なんか悪いことしたかぁ?」
障は乱れた髪を手でとかしながら亜鬼羅に問いた。
「んーと、それは…今から私が話すことに関係して るんだけど…。」
亜鬼羅の息だけは乱れていない。まぁ、当然ではあ るが。
「なら、なんで朝のうちに言わなかったんだよ!」
亜鬼羅の勿体ぶった態度に障は苛立ちを覚え始めて いた。
「だってぇー、後にしろ!…って言われたんだもん 。まぁ、いいか。じゃあ、単刀直入に言うよ。」
亜鬼羅の表情が少しだけ真剣になる。
「君達は、このままじゃ殺される。」
…唖然、いや、茫然である。
「ち、ちょっと何言ってるかよくわかんないでござ るよ?」
儡が子供を諭す様に聞くと、亜鬼羅は喋りだした。
「…先月冥界で選挙があったんだ。勝ったのはフケ セン党。圧倒的勝利でさー、与党が伝統あるロリコ ン党からフケセン党に政権交代したんだよー。」
「あ、ロリコン党ってのは現在の冥界を造り上げた ロリ家が、冥界ができるのと同時に造った党ね。フ ケセン党っていうのは600年くらい前から出てきた 熟女好きによる党。んで、ロリコンっていうのは元 々ロリ家の血筋の人を指す言葉なの。」
「何故ロリ家の人が冥界を造り上げることができた のか。それはロリコンは産まれながらにして特殊能 力が使えるからなんだ!」
身振り手振りも使い必死に伝えようとする亜鬼羅は 、はたから見れば滑稽なものだ。
「まぁそれで、私は一応ロリコンに仕える下等家の 一員だから年末の仕事で人間界のロリコンの数を調 べてたの。そしたらビックリしちゃって!」
「なんと、現在人間界で生存しているロリコンは君 達二人だけだったんだよ!!」
「生存…?その、ロリコンの人たちは…皆年寄りだ ったのか?」
と障が問うと、亜鬼羅は蔑むような目で言い放った 。
「バカ、少ない脳みそでよく考えなさいよ。…殺さ れたのよ。フケセン党の回し者に。」
二人は戦慄した。そして考え、1つの答えに至った 。
「…どうすりゃ怪物どもを倒せんだよ?」
パッと亜鬼羅の表情が明るくなる。
「おお!戦ってくれるの!?いゃー、飲み込み速い 子は助かるねぇ!冥界的にも筆者的にも!」
「では教えよう!君達はね、さっきも言ったように あのロリ家の末裔なんだよ。つ、ま、り、産まれな がらして特殊能力の種を持ってるってこと。」
「その種を開花させるのが私たち下等家の役目。っ てことで早速特殊能力、開花させるねー。」
そう言うと亜鬼羅は障と儡の額に触れ、なにやら独 り言…いや呪文を唱え始めた。
呪文が唱え終わると障と儡の身体が光を放ち、数秒 すると光が収まった。
「なんだコレ…身体が軽い…!!」
「俺は重いでござる牧尾氏…」
「障にはスピード、儡にはパワーの種があったわ。 それじゃ、私はこれで♪」
そう言うと亜鬼羅は光に包まれて消えていった。
「あっ、おい!!…自分の身は自分で守れってか… 。無責任だな、冥界ってやつも。」
言い終わらない内に障は、あることに気づいた。
━━━━━━━━さっきの怪物の気配がする。
それも、1,2,3,…20体。先程の襲撃の比ではない。
「いきなり実戦かよ…。いいぜ。来い!この程度で くたばってロリコン名乗れるかよ!!」
「牧尾氏の言う通りでござる!」
二人が戦いの構えを取ると、怪物たちは律儀にも一 匹ずつ襲ってきた。 咄嗟に障が飛び出し、怪物の顔面にストレートを決 めると儡がもたつきながらもつかみかかり、頸をへ し折る。 倒れた怪物は光りながら消えていった。
「…一匹目!」
「行けるでござる!」
次の怪物は槍を装備していた。しかし、臆すること なく障は飛び掛かる。 障が拳を握った瞬間、怪物は得物を捻るように突い てきた。 障は自慢のスピードでなんなく避ける…が、初めか らその一撃は、障を通り越して儡を狙ったものだっ た。
「まずいっ…!松尾氏!避けろ!!」
…既に遅かった。
ザシュッ……
床一面を彩る、血の絨毯━━━━━━━━
「松尾氏ィィィィィィイイイ!!!」
物凄いスピードで怪物に攻撃を叩き込み、怪物が消 えるのを確認してから障が駆け寄る。
儡の意識は、辛うじて少しだけあった。
「ハァ…ハァ…牧尾氏…俺は…守れなかった…ロリコ ンとしての……誇りを…そして…牧尾氏……を」
「な、何言ってんだ松尾氏!救急車呼ぶから!それ まで耐えてくれ!」
携帯をいじる障の手を儡が止める。
「牧尾氏…もういいんだ…自分の死期ぐらい…俺に はわかる…」
「高校一年生…ロリコン、ロリコンと…俺…が虐め られ…ていた…時…」
「俺も、ロリコンなんだ!エロい話しょーぜ!…っ て…俺を優しく…仲間に…して…くれた…こと…」
「今でも…覚え…てる…ぜ…」
「あり…がとう牧尾氏…お前…のお蔭…で俺…、ここ ま…で思い詰め…ずに生き…てこれ…た。」
「牧尾氏…だけ…でも…ロリコン…の血統…守って… く…れ……」
そう言い終わると、儡は静かに息を引き取った。
「……そうか、松尾氏…分かったよ…」
障は立ち上がり、落ちていた槍を拾って怪物に向か い、構えた。
「俺は、ぜってえ負けねえ!松尾氏!見ててくれ… !!」
「ロリコンの血統!この俺が守るっ!!」
━━━━━数分後。
血の絨毯と山のように積まれた屍の上に立つ者は、 たった一人のロリコンだった。
END