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「和風美人は汗をかかない?」

 ――アトヒロとは、

 跡地にある『広場』である。

 略してアトヒロ。決してカラオケ屋さんなどではない。


 田舎と言うには不釣合いな施設。

 準田舎などと言われるゆえんは主にこの施設があればこそ。


 つまり目立つのだ。

 ひたすらに。


 なんせ、もともとはある大企業の会長が(なんと自費で)自社の保養所として利用するため建設した”静養および総合運動施設”であったのだが、

 それも今は昔。


 現在では会長個人の資産として登録はされているものの、当の本人はまるで関わる気もなしと言った様子なので、

 実質街の管理下であり、時々(主に運動場を)利用されるに過ぎない。


 施設は”一応”きれいにしてある事もあり、

『新たにどこぞの企業が入ってくれればホントは一番いいのだが……』

 という街の本音も時々チラつくが、もともと立地的にあまりメリットがある場所とも思えず。

 あきらめている。



 

「あぁ、いたいた」


 中央運動場。

 その中でひときわでかいコースにて。

 

「おーい!」

 叫ぶヨシハル。



 ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア !!



 そこを一際大きな音で駆け抜けるバイクが一台。

 

「おお、オオヌキV4……」

 すでに生産終了して骨董品売り場に部品さえも出回っていない旧型バイク。


「美しい」


 ヨシハルは新型バイクの免許すらもってないけど、小さい頃祖父にもらった古いカタログに載っていたバイクに妙にあこがれたものだ――。




「、と」

 いけないいけない。

 つい見とれてしまった。

 本来の目的を果たさねば……。


 けれど。

「おーーーい!」

 駆け抜けるバイクにその声は届こうはずもなく。



 ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア !!



「……、おーーーい」

 何度か呼びかけるか次第にむなしくなって、素直にゴール付近で待つこととした。


「くっ。クソ暑いからバイクに来て欲しいのに」

 残念。

 

 仕方なしに、途中拾った若干きたなくも原型を”それなりに留めた”マンションの広告付きうちわをフリフリ。

 歩くしかない。


「あぁ、これだから夏は……」

 ぶつくさぶつくさ。

 夏場の、だれにともなく呟く文句。


 信号待ちで、こんな奴をたまに見かけると思うけど、

 多分太陽が相手だと思う。 




 ※


「ふぅ」

 ふわさ。

 飛び散る汗とフルマスクからふんわり流れ落ちる髪の毛は漫画みたい。


「(絵になるなぁ)」

 美人さんであるのももちろんだが、切れ長の目が花を添えている。


「ヨシハルさん」

 声も綺麗だ。

「ひさしぶりだね」

 

 フルマスクを脇に抱え、静かに、しかし印象に残る力強い声。 

 こういうのを和風美人って言うんだろうな。

 ヨシハルはしみじみと思い、うんうんとうなる。


「?」

 会ったばかりで早くもそんな調子のヨシハルに美人さんは疑問を感じるも、

 やはりいつものことなのだろう。


「……あぁ」

 と一言だけ残し、少しだけ可笑しそうに笑うと、

 スルーする。 

 


 

 ……。

 太陽は地面を焦がす。

 コースに立ち上る陽炎かげろう


「ほい、これ」

 ヨシハルは美人こと彼女、舵枝かじえ文香ふみかに一冊の本を手渡す。


「あ、」

 表紙にはなんだか古めかしい字面が並んでいるが本そのものは新しい。  

「うん。さっき、道すがら会ってね」


 尻餅をついたことはふせておこう……。

 

 屋科道場でのあれこれが脳裏を掠め、

 そっと。(無意識ではあるが)腰元に手を当て、お尻近辺を隠すヨシハル。

 だけどフミカさんてのはこういう時、


「あぁ、それで。おしり、汚れてるんだ」

 

 ――となる。

 よくお気づきで。


 さっきすれ違いざまに見たのだろうか。

「(どういう動体視力してんだろう)」

 つか、

「(気付いてたんならとまってくれりゃあいいのに)」

 

 プンスカ。


 だけどヨシハルくじけない。

 ぱんぱんとお尻を2,3払うと、話をそらす為、

「あいかわらずなようで」

 なんて、スカして言ってみる。


 すると、フミカ嬢も心得たもので(いい女だね)バイクに目線を流すと、

「ん」

 短く、はっきりと応える。


 まだ熱い、バイクのボディを優しく撫でながら。

「まぁね」

 とだけ。




 穏やかな時間。

 なんとはなし。とりあえず、太陽を見る。


「……暑いなぁ」

 何度だって言うよ?

 だって、マジ暑いんだもん。  


 季節は夏。当然っちゃあ当然だけれども。

「(セミだって、暑くて、しつこくも叫んどるではないか)」



 ミーンミンミン…… ミーンミンミン……



「あれ、羽音なんだよね」

「ん?」

 フミカは言う。

「だから、セミ」

 でしょ? 

 小首をかしげ、髪をたらす。


「……」

 心まで読むなよ。

「ま――」「ったく」


 くっ……!

 先回りされた。

 まったく恐ろしい娘御むすめごよ!




「いや、ヨシハルさん。口に全部出してるし」

 へ?


「だから」

 と言って、自分の口を小さくトントン。ノックする。

「全部、漏れてる」

 クスクス。


 ――マジか。

「マジだ」


 マジだ。

「うん」




「あぁ……、ふぅん。なるほどね」

 若干だが、妙に寒気を感じるヨシハル。

 負けじとクールを装い、腕なんか組んでみるが、額には先程までとは違う汗が流れているのを彼は知っている。


「ふふふ」

 どっちが年上だか。

 弟でも見るかのように微笑むフミカはなるほど、和風美人である。


 しかしヨシハルよ。

 ”ひょっとして、家でもなのか?”

 ”あれや、これ、聞かれちゃってる系? やばくね?”

 とか。

 あまりに今更過ぎる疑問を、またも口に出していることに、はたして彼は気づいているのだろうか。




 ※


『コレ、届けるの?』

『うん。通り道でしょ?』


『……それじゃあ』

『うん、またね』


 


 ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア !!



 やや遠く、すでに施設は角を曲がったことで頭の部分しか見えない。

「あちー……」

 首元がちりちり。

 それでも振り返るヨシヒロ。



 ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア !!



「舵枝文香」

 あいかわらず、つかめない子だったな。


 ヨシハルは、自身より年下のフミカの事を、あまり知らない。

 会う時は今回のように頼まれごとをして、ここに来たときだけだから。

 

 知っていることといえば、

 この猛暑の下。ライダースーツを着て、きっと明日もあさっても走り続けるだろうという事に過ぎない。




 クールな和風美人、とりあえず。 

「ただもんじゃーないね……」


 お尻のポケットを探ると、入れた覚えのないハンカチが入っており、

 ヨシハルは感謝しながら汗をぬぐい、一路、双子の家を目指す――。

 


 

 

 

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