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「ふたご、菓子を食う」

-工場奥、タタミの間-


 ばたばたばた!


 スライド式のシャッターが、勢いよく開くなり「かいちょー!」「ちょー!」

 それほど広くもない工場を駆け抜けるは2匹のウリ坊……ではなく、ちっこい兄妹けいまい

 足音だけでわかる。

 だから、


「おう――」


 手も上げず、

『放っておけば、どうせそう(入って)くるだろうと思ってたよ。

 ……あいかわらずだな』ニタリ。


 なんてちょいと兄貴ぶった顔を作ってみせる(予定の)ヨシハルだった、が、

 目線をシャッターの方へと向けてみるも――そこに二人の姿はなく。


「……あれ?」


 おかしいなと思い、ふと、自分の顔が影を作っているであろう畳を見たのは別に意味あってのことではない。 

「……、」けれどもそこに落とす影の大きさは「?」明らかに自分の頭のサイズでは足りてないような。

  

 ”ガー……”


 どういうことか。  

 不思議に思う。するとその疑問を振り払うかのように、自分の背後からはささやかなプロペラ音が聞こえだし――。


「プロペラ? …… …… っぁハ!?」


 嫌な予感に目を見開くヨシハル。

 彼はその音の正体を知っていた。

 

(あれは、以前兄妹に!)


 そして、そんなプロペラ音が次の瞬間聞こえなくなったことが示す事実とはつまるところ、、、


「っ! やばっ! ……」


 寝そべった彼のそのがら空きの背中へ、迫る影の主。言うまでもなくちっこい兄妹が、


(っい!!!!!)


 ――降ってくるってことだから。



 



「○△■#$%!!!  ■#$!? 。。。。。。 !  ●●△■!!!!!」



 いやね。二人がいくらちっこいと言ったって、シンクロしてればそれなりの凶器にはなるもんで。

 うつぶせに寝転がっていたヨシハルの体は”ビキイ”と鈍い音を奏でると、顎とカカトを浮き上がらせることで見事なまでにU字となる。 

 金髪なだけに(?)”金のしゃちほこ”に見えなくもない。

 なんて。


「うが! うが!!」


 ピクピクと(し……、死ぬっ!)意識の端っこで呻くヨシハルは、指先に留まらず体全体を痙攣させている。


 唯一の救いは、いつ脱いだかは定かでないものの小さな靴が2組きちんと脱ぎ揃えてある事だ――。

 けれどそれが気休めになるのかは、はなはだ疑問である。




 ※ 


「こんにちわー」「にちわぁ」

「……ぜぇ……ぜぇ」

「こんにちわー!」「わぁー!」

「……ぜぇ」……ぜぇ」

「あれぇ」「れぇ」

「……ぜぇ」……ぜぇ」

「返事がないねぇ?」「ねー?」

 ……ぜぇ……ぜぇ。

「おなか痛いのかな?」「かなぁ」

 ………。………ぜぇ。


 背中からは降りずにヨシハルの身を案じる二人。

 その顔は至って真剣そのものだからか。不思議と引き付ける物があり、明らかにおかしい立ち居地もどこかメルヘンでありっちゃあり。


 しかしここは現実。

 そしてヨシハル生きている――


「き、きみたち……」


 ――ならばやはりここは大人として注意すべきだろうと思う。

 そこで「あ、起きたー」「きたぁ」パッと花開く双子の顔に「きみたち、い、家に、勝手に、あがってはいかんと」ゼハァ、ゼハァ。

 息切れヨダレをたらしながら、


「習わなかったかい……」


 横を向き片目で会心のウインクを決めてみせる。不気味。

 あきらかに不気味である。


((……っ!))


 しかしそれだけにインパクトだけは間違いない。

 ごらんよ、双子も止まった。

 これなら――、


「しらぬー!」「ぞんぜぬー!」


 ……。

 ……。

 ……うん。


「……だよね」


 ……ぜぇ……ぜぇ。ぜぇ。

 撃沈。



(うぅ)


 うなだれながら、双子の顔を眺める。

 ――双子の兄妹。


 菖蒲しょうぶ菖蒲あやめ


 よく似たかわいらしい姉妹のようだが、れっきとした兄と妹の兄妹だ。

 

 とにかく元気なお兄ちゃんのショウブ。

 とってもかわいらしいが、別に女の子女の子した格好というわけではない。

 ただなにを着てもかわいいというだけ。

 

 あとから追うようにしゃべるのが妹のアヤメ。

 舌足らずが特徴の、兄同様、異様なほど元気でかわいい女の子。

 お兄ちゃん大好き。

 なんでもかんでもマネっこしたいお年頃?


 二人はいつも一緒で仲良しで、地域のアイドル。

 近所のおじーちゃんおばーちゃんなどはみなファンであり、このチビ二人のかわいさにコロっとだまされちゃっている。


「……ぜぇ……はぁ、ふぅ。まったく」


 だまされていると言っても、自らだまされに行ってる感があるから、

 若干違う気がしないでもないけれど。

 

 ヨシハルは兄妹の背中についた小さなプロペラに目を向ける。

 アレは少し前に、ある有名アニメをこの子らと見ていた時に「自由に空を飛びたいな」と影響され作ったもので、正直見せ掛けだけのおもちゃのつもりだったんだけれど、


(……一応、飛べたな)


 ほんの2、3秒なので飛んだというよりジャンプの延長線みたいなもんだったけど……。

 疲弊しながらも、少し満足げなヨシハルであった。



「ごほっ、ごほっ」


 まぁ、なんにせよだ。

 とりあえず背中からはどいてほしい。

 そう心から思うヨシハルは、このクソ暑い残暑の影響か、妙に興奮するウリ坊……ではなく、小さな双子のお客様を刺激しないよう、なにか適当に気を引ける言葉はないか考えていたわけだが、

 

 ――なんてことでしょう。

 先ほど飲みまくっていたお茶が胃の中で荒れ狂っていたが為「……げふぅ」変な声が出てしまう。

 するとどうだ。


「なんだそれー!」「それー!」


 テンション爆上げな双子。

 これは……。


(これはひょっとして……)


 ひょっとするの?

 クスクスと小さな笑い声が聞こえた次の瞬間には、またもプロペラの音が……。

 

(まじか!)


 まじだ。体が動かん、避けきれん!

 中空では双子がきれいに横にならんで再びの落下。

 それすなわち、ボディープレス!


(……っっっ!!)


 胃の中のものが、出口を求め食道を駆け巡るのと、


(あぁ、)


 なにやら星がチラついたのは同時であった。


(魂が一瞬体から剥がれかけた気がする……)


 それに、ちょっとだけだけど口の端っこからナニか漏れた気がする……。




 ※


「かいちょーーーさんーーーん!」「ちょーーーさぁーーーん」


 追い討ちをかけるように、なおも体の上でジタバタと暴れる双子は止まらない。

 なおかつ、開きっぱなしであるシャッターの向こうから届く蝉の声も、また騒々しいことこの上なく。


(うぅ)


 ひたすらに嘆くヨシハル。

 このままではヨシハルのライフポイントは限りなくマイナスへ――。

 このままでは、


(もう、ダメだ)


 自分の力では。

 ならばと最後の力を振り絞り、情けない顔をして顔を上げるのにはワケがある。 

 するとそこにはいつのまにやら台所から出てきていた女性がいて……

 

 そう、

 こんな時こそ頼りになるのが、


(あついよ、つらいよリコさん!)


 なのだから。


『仕方がないのね』

 目が合った彼女がこう思っていたであろうことは、おそらく間違いない。



「あーリコさんだぁ~」「さんだぁ~」


 こんにちわぁ!

 元気のよい挨拶が背骨を伝う。

 二人は彼女とももちろん顔なじみでよくなついている。 

 

「こんにちは」  


 ニコリ。

 応えるリコの穏やかな笑顔。

 子供ならずとも惹かれる。近所の石井さんも言っていた。

 リコはその手に乗ったお盆を前に出すと、


「さ。ショウブちゃん、アヤメちゃん」


そこから二つ。なにやら棒状の袋を手に取り、


「アイスをどうぞ」


 笑顔を深くして差し出す。

 夏場のアイドル。

 アイスさんを。


「あぁっ!?」「アイスだぁー!」


 とたんに”パァっ”と二輪、花が咲く。

 よぽど嬉しかったのだろう、ここに来てはじめてアヤメがショウブよりも大きな声を出してみせる。

 

「どうぞ」

 

 もはやヨシハルの事など目もくれちゃいない。

 たたっと小走り。受け取るなり、せかされるようにぺこりと小さくお辞儀。

 袋を破き、

 しゃく。しゃくっ! とかじる姿は小気味良い。



「おいしぃ!」「おいしぃー!」

「ふふ」


 心からおいしそうに食べる兄妹に、見ているリコもつられて微笑み手を頬に添える様は、保母さんを通り越して母親然としている。

 そしてその母性は相手を選ばないらしく、 


「ヨシハルさんもどうで……」

 どうですか。 


 たった今苦行から開放されたヨシハルへ、ねぎらいの意味も込め、差し出そうとするリコ。であったが、


「リコさん!! 僕も! 僕も!!!」


 浅ましきかなヨシハル。

 言うより早く、


「あ! サイダー味。ラッキー♪」

 

 双子以上のテンションで――足元に迫って来ていた。

 上半身だけ異様に持ち上げて。

 ゾンビみたいに。


「……」


 これぞ我が会長。

 彼女がそう思ったかは定かではないが「……、もう」手渡す。


 まぁ。

 それこそ今更だし。何も言うまい。 

 リコはお盆に載った最後の一つを手にとると、シャクっ。

 三人とは違いあくまで上品に、お気に入りのイチゴミルク味をかじる表情は、


「ふふ」


 この場にいる誰よりも眩しい。




 ※

 

 ジーーーーーーーーーーーー。 ジーーーーーーーーーーーーーーーー。


 しゃくしゃくとアイスをかじる音(ヨシハルのみ、3つめ)。

 蝉の声。

 それに子供たちとともに観ている、アニメ声。



『ラブリー魔女★TENGUガール♪ ベルベルモーニン♪♪』

『お、おのれぇぇぇぇ、ラブリー魔女★TENGUガール! ベルベルモーニン!!』

『オシャレ嫌いの悪党さん! 今日もベルベルモーニンがTENGUファッションにメタモルフォーゼ♪』



(奇抜なアニメだなぁ)


 丸テーブルに肘をつき、双子らと一緒にレトロな旧型風テレビ(現在は立体ディスプレイが主流)に映るアニメを観ているヨシハル。


 アイスを食べてる間に、奇妙な時間帯から始まるアニメを思い出した双子の提案で観ているのだが、

 どうにも自分が見ていた時代に比べ若干内容がファンキーになっているようで、なかなかのジェネレーションギャップを感いている最中。


(なんで倒す相手を着替えさせるんだろう)


 それも斜め上の”TENGU(天狗)”ファッション。意味がわからない。

 ちなみにTENGUファッションとは。

 子供たちのアイドルが発した「これからは天狗だよね」の一言がが発端となったもので始まったファッションブームの事であり、街は天狗になりきる子たちで溢れている。 

 ――とテレビではよく紹介されている。

 ホントならば海外からの渡航者はさぞや驚く事だろう。 

 

 そんな中ブームに乗っかって作られたアニメこそがこの『ラブリー魔女★TENGUガールベルベルモーニン』


 内容はファッション業界に巣くう悪者をTENGUファッションに変え(るというか天狗そのものに変え)使い魔にすると言うもの。

 やはり意味がわからない。 

 けれど、


「がんばれモンスターファッションガールベルベルモーニン……」「ベルベルモーニン……」


 けれど。そんな意味のわからないアニメではあるけれど、双子が手に汗握って観ている以上、これで正解なのだろうとヨシハルは思う。 



 そうこうして今は1時20分過ぎ。アニメも佳境へ。


『げぇええええ!お、おしゃれにぃ!私の格好がおしゃれにぃぃいいい!』


 そしてついにTENGUファッションへと変えられてしまう敵幹部。

 あぁ、しかも化け物タイプだ。

 これは恥ずかしい。  

 ラストは決まって、


『ファッションチェンジで悪いハートとバイバイ★ 今日からベルベルモーニンのお友達♪』 


 この台詞。

 う~~~ん。

 敵のなんとも哀れなことか……。

 なぜか自身と重ねて敵に感情移入してしまうヨシハル。


 あとはたわいもない会話の流れのままに、

 ED曲『ラヴ・ファッション★ドリーミー』へと突入するのみである。


 余談だが、これまでTENGUファッションに変えた敵とヒロインたちがなかよく歩いている様子をバックに流れるこの曲。

 古さと新しさを併せ持つ名曲として、アニメファンとは別にコアなファンがいるらしいがそのことをヨシハルが知る由もない。

 

(――終わった)


 普段アニメを観ないヨシハルもだいぶ集中していたのだろう。

 あっという間の出来事に感じたらしく。

 衝撃的な内容ではあったけれど、思いのほか満足感に包まれる。

 横目で双子を見てみれば、


「あ~おもしろかったね~」「ねぇ~」


 彼らもやはり満足そうである。


「でも」


 ん?


「TENGUファッション変だよね」「ねぇ~」

 

 ……あぁ。

 なるほど。


(そこはやっぱヘンなのね)


 自分の感覚が決しておかしいわけではないらしい。

 なんだろう。安心した途端に肩がこってしまったヨシハル。


(次回は、ついに敵ナンバー2か……)


 う~ん、と腕を天井にむけ伸ばせば、”ゴキゴキ”鳴って気持ちいい。

 その際、 


「う~ん」「う~ん」


 よほど気持ちよさげな顔をしていたか。

 肩こりなどとは無関係なショウブらもまた「う~ん」などと言って真似ており、


(……こりゃあ、おじーちゃんおばーちゃん癒されるわけだわ)


 と一人納得する。

 そうして一呼吸置くと、


「さて。じゃあキミたち」

「ん~?」「ん~?」

「アニメの時間は終わった事だし……」


 そろそろ何をしに来たのか教えてください。

 なんとなくだけど今日はアイス食べに着ただけじゃない気がしたので尋ねてみることにした。

 するとどうだ。

 大当たり? 二人はクリクリっとした目を更に丸くして、


「あ!」「あぁ!」


 最後まで聞くでもなく。

 ヨシハルの言葉にようやく本来の目的を思い出したのか、二人は声を上げる。


「おやつのじかん!」「じかんー!」

「……。まぁ、そんなところだろうとは思ってたよ」


 さっき食べたアイスはなんだったのか。 

 言うが早いか、これまた同時に立ち上がると。


「またねー」「ねー」


 とててて。

 小さな足音とともに、早々に帰ってしまう。



「あ」


 伸ばした手はむなしく。

 ガラララ。ピシャリ。


(ちゃんと閉めては行くんだね)


 感心しつつも嵐のような時間は、こうして唐突に終わりを向かえたわけだが……。

 コレは……。


「追いかけて行った方が?」


 少し離れた横の方。

 静かに座り、夏にも関わらずなにやら編み物をしているリコの様子を窺って、


「――いいよね、うん」


 頭をポリポリ掻きながら準備を始めるヨシハル。

 言うまでもないとはこの事か。


「さて、」

 

 こうして、

 残暑の物語が今――始まろうとしていた。


 


 ※


 ヨシハルが外へ出た後のこと。


『……次のニュースです。

 またもや早乙女重工による買収です。

 早乙女重工といえば環境汚染の観点から国連から直々申し入れがあったばかり……』


 編み物をしていた手をいったん止めると、


”……ぴ”


 映像を消す。

 見つめるその目に感情はなく。


 ……

 ……

 …… …… ……。



 

 消える画面に残像が残る時代は、とうに過ぎ去っているけれども。

 消した後に残るむなしさまでは失くしてはくれない。

 

 



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