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「ふたご襲来」

※ 


 あぢい。


 あぢぃ。


 あっぢい。



 ――頭の中で、いろんな発音で暑さを表現してみせるヨシハルではあるも、

 成果などあろうはずもない。


「うう、ん」

 おばあちゃんが帰ってから30分ほど時間がたった今。

 ヨシハルは縁側えんがわより更に奥のたたみ部屋でごろり。

 寝転がっている。


 しかし猛暑。

 寝てごまかそうにも眠れやしないのも道理であり――。

 そればかりでない。


(なぜ、虫は耳元ばかり狙いますでしょうか)


 敵は暑さだけではないと来ている。

 たまらない。 


 全身からは汗がとめどなく流れ落ち、畳に染み込み(どうにも古臭い表現だが)地図を作っている。


 けれどもこの汗に関してだけ言えば、

 ひたすらにリコの運んでくる冷えたお茶を”わんこそば”のごとく飲みまくっているのが原因なのだから猛暑にばかり責任を押し付けては猛暑も迷惑というものだろう。


 まぁ、 

 そんなヤツは。

 もうしばらくしたらば、天罰を――具体的に言えばお腹をわかりやすく壊す事になるだろうからして……。


 むろん彼も大人だ。そんな事くらいはわかっている。

 ……わかっちゃいるけど。


(く、あ、あ、あ)


 やめられない止まらない。


 もはやうめく事もかなわず、目を開けるだけでも苦痛なヨシハルにとって、近い未来にお腹を猛烈に襲うであろうことなど”所詮”未来の話でしかない。


 ならば決まっている。

 飲むのだ。

 機械的に、ぐいっと。ぐいっとね。


 そうした姿に対し、同じく暑さに耐えながらも凛とした佇まいで家事をこなすリコが、せめてもの優しさで(女神か!)あえて冷やさずぬるいままに差し出したりもするのだが、

 いかんせん彼女はヨシハルに甘いらしく。


 ぬるいお茶を飲んだ際の”死んだ魚のような目”を見れば文句も言えず。

 2、3逡巡したのち、結局冷たいお茶を出すのであるから――。

 どうしようもない。

 


 こうして、ダメダメな時を過ごすヨシハル。


 ダレてダレ尽くす彼であるが、

 この瞬間も時間は進むし、どこかで誰かが歩いてる。


 つまり、

 こんなヨシハルくんのもとへと。

 今、再びの来客が「迫ろう」としていることを彼はまだ知らない……。




 ※

 -台所-



 ピンポーンペーン



 あら?

 リコは振り返ると、


「会長 、お客様ですよ~」


 隣の部屋にいるはずの会長、つまりヨシハルへと声をかける。


「……う~ん」


 けれど返事はなく、返ってくるのはうなり声。

 きっとまただらしなく倒れているのだろう。


「(もう)」



 ピンポーンペーン



 自分が出てもいいのだけれど、

 来客への対応はヨシハルの係となっている。

 だから根気よくも「いいんですか?」声をかけるのだが、


「……」


『だって体が動かないんですもの』

 ヨシハルのやはりだらのしない(心の)声が脳裏へと流れ込んでくる(気がする)のだからどうしたものか。

 


 ピーンポーンペーン ピーンポーンペーン



 仕方なしに二人のいる部屋を塞ぐスライド式の扉を少しだけ開け、

「ほら、」と口も開きかけるものの。


(う~ん、あとちょっと)


 待てませんかね。

 ちょうど首だけ動かしているヨシハルと目がばちっと合い、上目づかいで訴えられてしまうと、彼女はどうにもならない。


 正直、

 ――汗まみれでダレまくりの20過ぎた男の上目づかいなど、

 かわいくないどころか若干不快に感じるだけでしかないと思うけど……。


 それどころか、なんだろう。

 なんか沼地に生息するモンスターのような、そんな感じにすら見えるのに。

 優しいリコさん。偉大である。

 

 あるいは、なにか掴まれているのだろうかと疑念を抱いてしまいそう。

 


 ぴーんぴーんぴーんぴーんぴーん



 ついにチャイムを連射し始めるお客さん。たまりかねたのだろう。


「「くーださーいなー!」」


 声がする。


 子供の声だ。

 それもずいぶんと幼いのが二人。


 どちらも声だけでは女の子なのか男の子なのかも、はじめて聴いた人では判然としないに違いない。




(私が出ちゃおうかしら)


「でもあとがめんどくさいしなー」なんて、ほんとに小さく、ち~さく心の隅のほうで考えるリコでもあったが、

 まぁなんとなく。今の声で客が誰なのかわかったので、


(まぁ、いいか)


 などと案外ヨシハルっぽい事を考えるお気楽リコさんでもあった。


 ……。 

 …… ……。

 …… …… ……。




 -工場前-


 ジージジー。

 暑い日差しと蝉の合唱降り注ぐ中。


「「くーださーいな」」


 蝉の声に負けないように、大きな声で呼びかける子供たち(ふたり)。

 

 ひとりは女の子みたいなおかっぱ頭の男の子。

 ひとりは男の子みたいなショートカットの女の子。


 声だけでなく、どちらもまるでお人形のようにかわいらしいという点で共通している。

 ひと目ではどちらが男の子で、どちらが女の子かまずわかるまい。 


 シュワシュワシュワ


「出ないねー」「ねー」

「いるはずなのにねー」「ねー」

「もっかい呼んでみるー?」「うんー」

 頷きあい、


  

「「くださいな!」」



 ジーーーーーーーーー……

 ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……

 

「……」「……」


 やはり、返事はない。


 そんな店主の態度に二人の子供は愛らしく、

 やはり一緒に胸の前で腕を組むと。


「これってさー、」 

「うん」

「”たいまん”だよねー」「たいまんー」


 どこでならったのか難しい言葉を言いながら、彼らなりの難しい顔でお互いの顔を確認しあう。


「じゃあさー」「うん!」

 クスクス。クスクス。



「おしおきがひつようだー!」「だー!」



 はいっちゃえー! 

 おー!

 

 気合を入れる子供らに、

 暑さなんて関係ない。


 元気いっぱいな子供たちの手がシャッターにかかり……。

 そして、





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