碧の気のまぐれ1
いつも通りの街並み。
いつも通りの活気。
暗くなった通りは、酒場の騒がしさと漏れる明かり
で溢れ帰っている。
何一つ変わったことなどありはしないその通りを、彼はのんびと進んでいく。
いつもと違うのはただひとつ、今日が彼、アンジュにとって久々の休みであるということだけだ。
本当に久々の休みである。
前回いつ休みをとったかすら思い出せないくらい、実に久々で珍しい休みである。
アンジュは特にあてもなく歩いていた。
なにしろ休みが決まったのはついさっきなのだ。
本当ならば今頃はたいして仲もよくない同僚と夜勤
に励んでいるはずだったのだ。
アンジュは帝国アルケェイラの端、ルータスという地域の戦士である。
だがただの戦士ではない。
魔術の心得がある彼は、帝国を覆う結界の穴を一時的に塞ぐという大役を任された、ルータスでは本の一握りの戦士なのだ。
帝国アルケェイラはもともと複数の国、地方の集合体である。
帝国アルケェイラはそれらの連合国家ともいえる組織であり、また各々の国から独立した組織でもある。
地位はすべて与えられた星の数によって決まる。
最終決定権を与えられた9人のリーダーは最高数の9つの星が与えられ、そこから星の数が減るにつれて階級は下がっていく。
9人のリーダーには、誰もが認める実力者がつき、その星の数から九ツ星ナインスターと称される。
帝国アルケェイラに属する国に属する者には皆この階級制が用いられており、アンジュにもまた星が与えられていた。
彼の階級は三ツ星。
ルータスの王ですら五ツ星であることを考えればそれなりの地位である。
帝国アルケェイラには、その領土を囲むように結界が張られている。
九ツ星や、帝国本部の専門部隊が日々魔力を注ぎ込み、耐えることなく織り成すのだ。
結界とは魔力で編んだ布のようなものであり、その魔力の強さや織り方によって強度が変わる。
帝国アルケェイラの結界は弱くはないが、この広大な領土を覆うのだ、強力というわけでもない。
それゆえに時折外部からの攻撃によって穴が空いてしまうのだ。
この時、浸入しようとする敵を討伐し、補修がされるまでの間ふさぐのがアンジュの仕事である。
数年前に九ツ星の1人が亡くなってから、その忙しさは半端ではない。
彼の部隊はほぼフル回転で任務にあたっているのだ。
アンジュもいつも通り気合いをいれて出勤したのだが、今日は穴が少ないということで急遽休みになったのだ。
今日を逃せば次にいつ休めるかもわからない。
突然おとずれた休日だ、とくにやることもない。
もう少し早くわかっていれば何かしらの計画をたてていたかもしれないが、仕方がない。
こうして彼は突然暇人になったのだった。