後奇心
南国住まいのアナタから、牢獄住まいの私へ電子メールが届いた。
「最近、元気でやってるの?」
牢獄住まいの私に元気はない。
でも、今日は壁に唾で絵を描いたのよ、それが少し楽しかった。
「何の絵を描いたの?」
牢獄住まいの私は外の世界を知らない。
だから扉の絵を描いた、外の世界へ行くための。
「外の世界は怖いわよ」
牢獄住まいの私は中の世界しか知らない。
だから怖くてもいいの、怖いということを知りたいの。
「きっと後悔するわよ」
牢獄住まいの私は外の世界で感じる後悔を知らない。
牢獄住まいの私は知らないことだらけ。
もちろん牢獄のことならば、南国住まいのアナタより詳しいけど。
「陽の当たらない牢獄は、きっと怖いトコロでしょうね」
牢獄住まいの私は怖いと思ったことが一度もない、楽しいと思ったこともないけれど。
「知る恐怖と知らない恐怖、どっちが怖いのかしら」
牢獄住まいの私は知る恐怖と知らない恐怖を知らない。
ただ、壁に描かれた扉をいくら眺めても、ココロは満たされないのよ。
そう、牢獄住まいの私は何もかも知らない。
「でもアナタは”私”を知っている」
牢獄住まいの私は南国住まいのアナタを知っている。
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イマのアナタは過去の私、ミライのアナタはイマの私。
扉は開くだろう。
やがて後悔するだろう。
電子メールのプロトコルを作り、記憶をリセットするだろう。
そして届ける。
南国住まいの私から、牢獄住まいのアナタへと。
数年前の自分に電子メールを送れたら…、と思うことがしばしばあります。
しかし、過去の自分なんて他人みたいなもので、
言うことを素直に聞いてくれるのかわかりません。
私の場合なんて、特にそうかもしれません。