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第二話

 直ぐに頭に浮かんだのは、携帯端末に目を落としながらクレームを言ってきたあのエルフの嫁さん。 


 そう、あの新婚旅行の客が頭に浮かび、特にあの嫁の嫌な顔がボンと浮かんだ。


 案の定、徹底的に罵られた。

 隣の旦那はただオロオロして、いかに嫁の機嫌が損なわない様にする事だけに集中していた。


 この状況に少しの光明をと思い、すぐさま社長に連絡を取ってみたが、明らかにこの店の確認ミスオーダーミスだった。

 その事が分かったとはいえ、席が空くわけでもなく、ただ眼の前を他の客が入店して、満足そうに出て行くところをただ見ているだけしかなかった。


 この店のキャパは決まっているわけで、席以上の客が座るところなんてどこにも無いし、時間単位で、次の客がその席に座る。


 いくら待っても、事態が好転することは無い。


 ただ、店の入り口で、ツアー客に平謝りに、謝った。

 どんなに自分が頑張っても、他の要因で自分がそのミスを負わなければならない理不尽さに涙がこぼれてきた。


 そうしている私の背中を、ポンポンと叩く人がいた。

 あの年配のご婦人だった。

「そんなにしょげないで。」

 と、明るく言ってくれた。

 その、言葉にオアシスを見つけたかのように、救われた。

 何か声を掛けてくれることが、これほど心強いことは無い。


 婦人の片手には携帯端末があった。

「この近くで、私の馴染みの店が、丁度キャンセルが出たから席の準備ができるって。行きましょう、そこのお嬢さんたちもお腹ペコペコでしょうから。」

「え。」

 私は信じられなかった、そんなご都合主義の話が。


 ご婦人は、まだ立腹中のあの嫁を、促しつつ、王都大学のグループと家族のグループを先に立たせ、その店に向かった。

 歩いてもすぐの距離にあったことも幸いした。

 先のお店のゴミゴミした雰囲気から一転、落ち着いた雰囲気のお店だった。

 この地方の郷土色が嫌みでない位、自然な感じのお店。


 凄い、単純にそう思った、もしこんなお店がツアーに組み込まれたら、きっと人気が出るに違いない、でもこんなお店、良く受けてくれた。

 お客様が楽しんでいる間にお店の事務所に行き、すぐさま挨拶と、この度のお礼を丁重にいって、ここはダメもとで、今後のビジネスの話をしてみた。

 店長は始めは、びっくりしたような顔をされたけど、それ位のガッツが無ければ成功しないな。

 と、返事イエスとも、ノーとも取れる、はあやふやな返事だった。


 食堂に戻ると、何だか盛り上がっていた。

 家族のグループの、お父さんが合流したのだ。

 あッと思い、お父さんの席を作ろうと、厨房に駆け付けようとしたけれど、

 あのご婦人が、私に目配せしてくれた。

 すでに、お父さんお前にはみんなと同じ、郷土料理が鎮座していた。


 もう、何から何まで。


 本当にありがたかった、でも、ここで、一つ疑問が。

 なぜここまで、手を打ってくれるのだろうか。

 ここまでしてくれるのだろうか、と。


 旅行で。


 料理はツアーの中でもかなりのウエイトを占めている。

 その料理が、満足いくものなら、それはほぼ成功と言っていい。

 そしてこのツアーはその成功の部類に入った。

 あの口うるさい、嫁も手のひらを返したように、ご機嫌になっているようで、隣の旦那の安心しきった顔は、きっと仕事場では見せない顔だろう。

 という位の安堵した顔だった。



「以前、私は夫とこのツアーを利用したことがあって、そう、おたくの会社でね、その時ガイドさんが一生懸命でね、多分そんなに慣れていなかったのかしら、とってもミスが多くて。」

 そう声を掛けてくれたのは、お客さんがお腹を満たして、談笑しだし、ほっこりとした空気になった頃、あの年配のご婦人が私に。


「他のお客さんから、それは、それは散々で、それでも歯を食いしばって頑張ってやり遂げてた。」

 そう言いながら、遠くを見るような目で。


「その姿を見てね、もう一度やり直そうと、主人と話し合って。

 その当時、私たちの会社がダメで、もうどうしようもない位。」

 そして私の目を覗き込むように。


「元気を貰ったの、このツアーで。」

 一息をついて。


「そこから、一念発起、何とか立て直して、今では十の会社と、二十の持ち株会社を娘たちに後を譲って。」

 ペロッと舌を出して。


「この料理店も系列会社なの。」

 もう一度一息ついて。


「起死回生のチャンスをくれた、元気を貰ったこのツアーにもう一度行こうねと、約束して・・・。」

 そこまで言って声を詰まらせて。

「分かった時には、余命わずかだったの。みるみる、体力が無くなり、あっという間に。」

 暫くの沈黙の後。

「思い出深い、このツアーに娘時代、新婚時代、短かった家族の時間を思い出させてくれたわ、ありがとう。

 人生は天気のよう、雨もあれば、嵐もあれば快晴の時もある。

 予測は付くけど決して確実じゃない。」

 スッと立って、私に向かってパッと両手を広げた。


「この私のように。ね。」


 私も何だか、目に涙が溜まって来て、ポロポロ涙がこぼれてきた。



 気が付けば雨は止んでいて、太陽が傾き夜の帳が下りようとしていた。



 明くる朝。

 明日は、二の太陽の日。

 だから、多分外出そのものが出来なくなるほどの日光量となるはず。

 ツアーの日程も、ここまで。

 それぞれのツアー客は、またそれぞれのツアーに合流する。

 あの新婚カップルや、女学生グループ、親子グループもそれぞれのツアーに戻って、それぞれの日程で、今後旅を続けて行く。


「楽しかったわ、またここに来ようと思います。」

 そう、年配のご婦人が声を掛けて下さった、そして続けて、「頑張ってね」とも。


 私は、元気よく「ハイ、ありがとうございます。」と。


 バスに乗り込む、婦人に元気に返事をした。


 その時、遠くから「おくさまー!」と叫ぶ声が。

 専務である社長夫人が駆けてきた。

 乗りかけた婦人は、バスの運転手に一声かけて、バスから降りてきた。

 と、同時に専務は夫人の傍まで駆け寄り。

「奥様とは知らず、大変ご無礼致しました。」

 と、平身低頭謝っていた。

 いつも、社長を尻に敷いているハーフエルフの専務から、出る言葉と態度では到底思えなかった。

 婦人は少し微笑んで。

「あなたも、元気そうで何より。元気はあの時そのままかしら。

 その元気が、社員にも良いように継承されているのかしら。」

 頭を掻きながら、専務。

「まだまだですよ。こいつは。」

 と。


 あ、やっぱりいつもの専務だ。


 今度はクスクス笑いながら、婦人は、バスの手摺に手をかけながら、

「今度は、娘夫婦と一緒にゆっくり来ることにするわ、その時はガイド、お願いね。」

「はい、是非。」

 と、答えたと同時に、バスの扉は閉まり、ゆっくりゆっくり、その場所から離れていった。

 窓には婦人の姿を残して。


「あの」私。

「報告」専務。

 同時に言葉が重なった。

「料理屋でのブッキング、報告は!」専務。

「はあ、社長に言いましたけれど!」私。

「聞いてませんが!」専務。

「知りませんて!報告してますって!指示が無かったですし!」私。

「あんの、宿六が!」ボキボキ腕を鳴らしながら、専務。


 もしかしたらエルフって、儚いイメージ有るけど、本当はとっても強いんじゃ・・・。

 と思っていたら。


「何か言った!」専務。

「いえ何にも。」私。


 あーあ、明日の天気は、二の太陽の日。

 多分、外出そのものが出来なくなるほどの日光量となるはず。

 明日はじっくり、社長は専務の説教コース確実ね。


 大好きなこの広い観光地を横切りながら、そう思った。


【続く】


拙作に続けて目を通して下さりありがとうございます。本当に有難うございます。

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