1話
◇
───樹海。
視界いっぱいに拡がる木々の地平線、雲を突き抜ける山脈の壁が遙か彼方にみえる。
その少女リッカは山の頂で景色を見渡していた。
「…………爛華はどっち?」
「僕にわかると思うリッカ?」
少女の肩に乗った相棒──ラッカがリッカの赤い髪の毛をかき分け顔を出す。
ラッカ、赤い鱗を持った蜥蜴の様な生物に羽が生えている。
所謂、火炎龍の子供。
リッカの魂の片割れである。
「あの山って黒帝山かな?」
「………たぶんそうじゃないかな?」
この山の頂も1㎞位はあるのではないのだろうか。
なのに遙か彼方に聳える3㎞級の山脈に囲われているせいで小山に感じてしまう。
100㎞以上離れているであろう場所に聳え立つ一つの山へと指を指す。
「……じゃあこっちが爛華?」
「そういう事になるね」
反対方向を向く。
そちらにも同じような光景が眼に入る。
どとらにしても進むしかない、リッカが樹海に入って数カ月、もうそろそろ1年になるかも知れない。
母国“爛華”での食事が恋しく感じる。
物資も尽きてきた。
リッカは今、熱烈に望んでいる物がある。
「………待ってて調味料」
調味料が尽きて2カ月程、ただ焼いた肉しか食べていない。
食材でなく料理が食べたくなっていた。
それに久々に柔らかなベッドで寝るのも悪くはない。
「………フフフ」
「僕は寝るよ………」
『そしてリッカ達は目的地へ向かいだす。
果たしてその先は爛華なのか!!
リッカが望む料理はその先にあるのだろうか!
乞う御期待!!』
───三ヶ月後。
リッカ達は未だ樹海。
「………美味しくない」
「そうかな?悪くないと思うぞ」
巨大な蜈蚣種の魔蟲。
その死骸を椅子代わりに、焚き火の前で焼いたその肉を食べていた。
調味料は無い、よって素材そのものの味。
「……塩が恋しい」
この魔蟲は先程襲ってきたので仕留めた。
殺したら食べる、命を無駄にしない。
齧り付き空を見上げる。
背の高い木々の間から覗く空と雲、豆粒大に見えるほど天空を飛ぶドラゴン。
「…………飛べる?」
「僕だけなら」
「………だよね」
食後の休憩とのんびりするリッカとラッカ。
たわいの無い会話をし、英気を養っていると、少し離れた場所から魔獣の気配が近づいてきた。
「………何か来た」
「複数いるみたいだね」
殺気が徐々に、リッカ達へと滲み寄ってくる。リッカは慌てず、それどころから未だ座ったまま。ラッカが僕の出番だねと、羽をひろげ宙へと浮き立つ。
現れたのは7匹の魔獣“水狐”。
大きい魔獣ではないが、油断は出来ない。
半透明な白毛の躰に青色のラインがはいった狐。
「…………任せた」
ラッカは低く唸り息をもらす。その息は平時と違い既に高温と化していた。躰も次第に白熱していき、ラッカの周囲の空間は高温で揺らぎ陽炎めいている。
「燃えてきたね!」
リッカの赤い前髪が揺れる。
その表情、赤い瞳からは相変わらず感情は読めない。
無言で肉を齧る───。
最初に動いたのは水狐。合図もなく、役割分担された連携。ラッカの視線を誘導し、惑わせる。
そして視線の外からの水流。鋭く、速い、対象を貫く為の高圧の水の槍。
ラッカはその水の槍を意識し───避けなかった。
「……おお」
水が表皮に降れる手前、その熱された空気圧と触れた瞬間――爆ぜた。
地面は抉れ、水流は瞬時に蒸発し、白煙が弾け飛ぶ。
衝撃と轟音に一瞬動きを止める水弧、そして戦闘に一拍の間が生まれる。
そしてラッカの──火炎龍の獰猛な瞳が一匹の水弧を捉える。睨まれただけ、ただそれだけなのに、水弧の躰は硬直してしまった。
「僕の熱はさませないみたいだね」
一息で肉薄したラッカ、躰を捻り、火炎を纏わせた尻尾で水弧を叩く。
炎の軌跡と共に吹き飛ぶ水弧。
樹木へと叩きつけられ、半ばまでへし折り地面に堕ちる。
「…………後6匹」
残る水弧達は距離を取ろうと散開する。
その瞬間ラッカは嗤った。
一瞬、獰猛な捕食者としての本能が顔を魅せる。
地面を踏み抜き、低空で這うように飛行し、一匹の首元に噛みつく。
首筋の鱗の隙間から一瞬白熱がもれると、火炎を水弧へと流し込んだ。
内側から焼かれ爆発か霧散か一瞬で消し飛ぶ水弧。
「もう1匹追加………さぁどうする?」
水弧達の判断は早かった。
格の違いを実力差を知ると、逃走へと判断を切り替え、動きを変えた。
「逃げるなら追わないよ、僕らは無駄な殺生はしない主義だ」
「………お腹いっぱい」
逃走する水弧を見送る二人。
『強者の矜持を魅せるラッカ!だがそんなことより何所なのだ此処は?!樹海まだ樹海、見渡す限りの自然!国は町はその影すら見えない!リッカの味覚は限界だ!早く樹海からでてくれ!次はでれるのか?乞う御期待!!』
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