かくれんぼ
はーい!麦畑だよ(u_u)
設定だけじゃんじゃん浮かんで、ストーリーが完成しない…。しかも設定案がキャラごとに偏っているのはどうしてだろう?
少女は、エレンという名の者の手を取るか悩んでいた。正確に言えば、エレンを信用していいのかを悩んでいるのである。
エレンから感じる第1印象は「純粋」。しかし、瞳は何かを探す執念に似た炎が宿っている気がする。
「?どこか痛いのか??」
その場で固まってしまっている少女に、エレンは首を傾げた。
「…いえ。お気遣いありがとう。」
とりあえず、森に挨拶を返すとしよう。
少女はエレンの手を借りて立ち上がった。
「挨拶が遅れてごめんなさい。私は、フリージア・ノア・ヴァールハイトと申します。これからよろしくお願いいたしますわ。」
フリージアは慣れた様子でにこりと微笑む。
「フリージア・の…ヴァ…??」
エレンにとって、彼女の名前は長すぎたようだ。復唱して覚えようとするが、そもそも脳にメモすら残せていない。
「フリージア、でよろしくてよ。貴方はミドル・ファミリーネームをお持ちかしら?」
ミドルネーム、ファミリーネーム。いわゆる、ファーストネーム以外の名前のことだ。ファミリーネームとは、その名の通り家名を表す。そのため、ファミリーネームはその家族全員が保有している。
フリージアを例にしよう。
【フリージア】はファーストネーム、
【ノア】はミドルネーム、
【ヴァールハイト】はファミリーネームである。
つまり、フリージアは"ヴァールハイト家の娘"ということだ。
フリージアはエレンの所属を明らかにしようとしていた。考えたくはないが、所属場所によっては自らを狙っている連中の者の可能性もあるからだ。
もっとも、追っ手から身を隠してくれた森の中に居た時点で可能性は限りなく低いが。
「ファミリーネーム?…ああ!レイが言ってたやつか。それなら無いぞ!」
「あら、そうなの。…ん?レイ??」
ここで、エレンの口から新たな情報が出てきた。
「レイは、オレのたった1人の家族。毎日、色んなことをオレに教えてくれるんだ。」
エレンは満面の笑みで話す。
どうやら"レイ"はエレンの育ての親に近い存在のようで、エレンに生活や戦闘などのあらゆることを教えているらしい。
「そのレイというお方は今どちらに?」
それとなく聞いてみるが、エレンは「分からない」と項垂れた。
「レイとは家族だけど、一度も顔を合わせたことが無いんだ。やり取りは、この魔法の羊皮紙でだけ出来る。」
エレンが取り出したのは、それはそれは上質な紙だった。
「何これ!?こんな状態が良いのは珍しいわよ?元々の素材の良し悪しだけじゃない。物凄く綺麗に加工されている…!!」
フリージアは驚愕した。羊皮紙の素材に関しては、どの場所でも低価格で大量に売っているし、もっとお金を払えばより上質な紙が手に入る。しかし、加工に関しては一筋縄ではいかないのだ。特に、"魔法加工"を施すには。
魔法加工は王城を始めとした重要機関がよく施している術で、物質に対応した魔法ならば付与することが出来る。対象が連絡手段に使える物である場合は、その殆どが【隠蔽魔法】が施される。情報は政治にとって最も重要な要素の1つだからだ。
もちろん、魔法加工を施すには魔法が使えるのが必須条件。これは、少なくともフリージアの出身国である【ノストラダムス王国】では満たされている。
問題は、魔法加工に必要な魔法レベルが極端に高いことだ。
「魔法加工に必要な魔法レベルは10段階中の7。普通の人なら良くて5、重要機関に仕えられる者なら6〜7ってところなんだけど。レイさんってもしかして、お偉いさん?お城の衛兵とか宮廷魔法使いとかさ。」
確かに、この不思議な森に住んでいるエレンを教育している者だ。魔法レベルが高くてもおかしくはないだろう。
「魔法レベル?レイ、そんなの言ってたっけなぁ…?」
エレンには思い当たる節がないようだ。
「そう。まあ、それはそれとして…。」
フリージアはエレンをジッと見つめた。エレンも同じように見つめてみた。しかし、彼女がそれ以上何かをする気配はない。
「…?」
エレンは不思議に思った。レイ曰く「相手を観察するのは相手の能力を測るため。そして、大体が戦闘態勢に入っている。」らしい。また、「戦闘態勢に入っている奴は大小あれど殺気が込められているからお前なら気づける。」ともエレンは言われていた。
その上でエレンは彼女を観察するが、彼女が殺気を発しているようにはまるで思えない。寧ろ、目が潤んで…。
「…泣いているのか?」
フリージアは静かに泣いていた。エレンを見つめたまま、泣いていた。
「え、えーっと…涙。そう、涙を拭えば…。」
エレンは戸惑いつつもフリージアの目の前に手を翳し、視界を遮った。
〔風の音、水のせせらぎ、蝶の舞。心荒む者に休息を与えよ〕
エレンが手を退かすとフリージアは目を丸くしたまま固まっていた。
「…貴方、」
「おっ。泣き止んだな!」
エレンが嬉しそうに笑う。その笑顔が、とても眩しい。
フリージアは自分が言おうとしていたことを忘れてしまった。
「あ、ありがとう。」
フリージアは恥ずかしそうに下を向いた。
「気にすることはないよ。ところで、どうして泣いていたんだ?」
エレンは彼女が泣いた理由を聞くことにした。
フリージアは俯いたまま話し始める。
「私はね、自分の記憶が一部抜け落ちているの。そして、その中には誰かに会えない苦しみが埋まっている…。確証は無いのだけれど。」
エレンは彼女の話を黙って聞いていた。周りのことを忘れ、ただ彼女の話だけに集中していた。
「無意識に貴方と自分を重ねてしまったのよ…。ごめんなさい。」
フリージアは謝るが、エレンは特段気にしている様子はなかった。
「別に謝んなくて良い。オレはレイに直で会いたいし。でも、フリージアが来てくれたから今はあまり寂しくないんだ。」
エレンは微笑む。
「そ、そう…///」
フリージアは自分の頬が赤くなるのを感じた。
「それに、記憶が抜けてる…だっけ。そーゆーのって、キオクソーシツって言うんだろ?それならオレもだよ!」
「…えっ?」
あっさりと放たれる、重大な情報。
「…貴方も、記憶喪失なの?」
フリージアは半信半疑で聞き返すが、エレンは変わらずにニコニコとしている。
「ああ!それも『丸ごと』だ。」
さらに追加される、事の重み。
「え、あ…そう。」
もしかして、"ファミリーネームが無い"と言ったのはそもそも覚えていないからという意味合いではなかろうか。
「レイに聞くまで自分の名前すら覚えてなかったんだよ。でもレイは覚えてたんだ。流石レイ!」
どうやらレイは記憶喪失のエレンを介護していた面もあったようだ。
「えっと。記憶喪失の人に聞くのも変だけれど、レイさんと貴方って付き合いは長いの?」
「家族だし多分長い!でも、覚えてない!!」
大丈夫かしら。
フリージアは心配になった。レイを疑っているわけでは決してないが、エレンがこの調子ではたとえ嘘の情報を渡しても意味が分からないまま頭にしまってしまいそうだ。
「…そうね。なら、私達は記憶喪失仲間ね。」
フリージアは母親気分で優しく言った。
「キオクソーシツ仲間…!」
エレンはとにかく嬉しそうだ。
「それじゃあ、フリージアは失くした記憶を探してたのか?」
エレンはフリージアに興味深々になって話しかけてきた。
「そ、そうね。そんなところよ。」
足元の草木が妙にうにょうにょと動いている気がする。フリージアは、これからこの森で何が起きようとも驚かないようにしようと心に決めた。
「あ、フリージアが来たのは誰かから逃げてたからなんだよな?あんなヤバそうな奴等は久々に見た!」
突然、エレンは思い出したように言う。
そうだった。うっかり身の上話に夢中になってしまったが、それどころではない。今は何故か追っ手を撒けているけれども、いつ勘付くかは分からないのだ。
「多分、暗殺者だと思うわ。私を殺したがっている方々は沢山いらっしゃるので。」
ここは冷静に。先程までの会話や行動でエレンがおそらく敵ではないと判断したので、これまでのことを簡単に説明しておこう。
「うわぁ。お姫様にとっては、きっと最悪の気分なんだろうね。」
そう。まさに最悪である。せめて静かに、安らかに殺してくれるのならまだしも、炎や毒矢って。殺意が高すぎる。こちとらか弱いお姫様…
「って、あれ?エレン、今…『お姫様』って言った??」
フリージアは驚いた…が、別に驚くことではなかった。何故なら、自己紹介をした時に普通に本名を名乗っていたからだ。
「ヴァール…なんだっけ。それって王様の家族の名前なんだろ?レイから聞いたぜ。」
追っ手から逃げられて安心しきっていたのだろう。フリージアは大事な個人情報を最初から渡してしまっていた。
「あー…やっちゃった。」
この失態には頭を抱えるしかない。
「フリージア…。もしかして、おっちょこちょい?」
エレンが苦笑いをする。
恥ずかしい。非常に恥ずかしい!
フリージアにはこれ以上耐えられそうになかった。
「うわぁぁあああぁ…」
遂に彼女はその場に座り込んで丸まってしまった。
あーあ。やっちゃった、やっちゃった!みんなはフリージアちゃんみたいにならないように個人情報は大事に管理しよう。




