第38話 勝利者
――〈居合抜き〉と〈風牙断空閃〉。
二つの技が合わさって生まれた巨大な風の刃が、視界内の全ての魔物を一匹残らずに捉えていた。
(どうだ!?)
会心の手応え。
生み出された刃は、明確に過去最強。
自分でも息を呑むほどの強度の魔力が刃となって魔物を切り裂き、吹き飛ばすのが分かった。
一瞬遅れて風が吹き荒れ、それぞれのやり方で僕に迫っていた変異モンスターたちを追い散らす。
:やったか?
:フラグ立てようとしないで!!
:冗談にならないからやめてね
吹き飛ばされ、地面に転がる魔物たちは全てがボロボロで、今すぐに立ち上がりそうな個体はいない。
それでも油断は出来ない。
僕は即座に新しい刀を呼び出し、次の戦闘に備える。
……しかし、何秒、何十秒待っても、懸念していた反撃は来なかった。
倒れ伏した異形の魔物たちは一匹たりとも立ち上がることなく、そのまま光の粒子となってダンジョンの闇に溶けていく。
そして、
――テッテレー!!
間の抜けたクソデカレベルアップ音が、僕の勝利を告げるファンファーレとなって無人の広間に鳴り響いた。
(……勝った、かぁ)
そこでようやく……。
ようやく僕は脱力して、そのまま地面にへたりこむ。
同時に、今までは意識して視界から追い出していたコメント欄が、狂ったように文字を吐き出すのが見えた。
:うおおおおおおおおお!
:8888888888888888
:やった!やったぁ!
:無事でよかったです!!
:勝っちゃった! 本当に勝っちゃったよ!!
:これは……素直に脱帽だな
強いとは思っていたが、あの絶望的な状況を覆すとは
:セシル様も認める強さ
:あったりまえだよなぁ?
:ライ様やば!結婚して!
:M5000 感動しました
:すごい! 上手く言葉にできないけど、ほんと!
ほんとにすごいよライ様!
:やはり最強か……
:ライ様最強!ライ様最強!ライ様最強!
:M5000 生きててくれてありがとう!
:M2000 大作映画を一本見終わった気分です
:スパチャ攻勢すごい
:M5000 これで刀を補充してください!
:M1500 そんだけの価値がある配信ってことでしょ
:てかさっきまでお通夜だったのに急に元気になって草
:テノヒラクルーはリスナーの特権
:でも今回は本当に心臓に悪かった
:見ているだけで何度か心臓止まったゾ☆
:成仏して
(……よかった。ちゃんと好評みたいだね)
流れてくるコメントを見るとはなしに眺めて、ほっと胸を撫でおろす。
ずっとコメントは確認出来ていなかったが、あれだけ頑張って「撮れ高なかったじゃん」とか言われていたら悲しすぎる。
:私、伝説を目撃しちゃったかもしれない
:息をするように伝説を作る男
:変異モンスター複数体撃破はジッサイスゴイ
:まず出会うところが難易度Z級
:いやいやいや、一般探索者を代表して言うけど
あんなん出会ったら普通は死ぬからねマジで!
:それね
:あとさっきクソデカレベルアップ音してたからまたレベル上がったよね
:ほへ? じゃあライきゅんもうレベル9なの?
:探索者二年目の私、今日ついにライ様に追いつかれたと思ったら
その日のうちにもう抜かされたんだが!?!?!?
:配信者の最短レベルアップ記録とか狙えるかも?
:大部屋いっぱいのモンスターとか複数の変異モンスターとか
前代未聞が多すぎてもう何が何やら分からなくなってきた
:真面目に考えちゃダメだよ頭おかしくなるから
:それ言ったらそもそも人類初の男性ダンチューバーだし
:たしかに!! それに比べたらこれくらい普通……?
:普通とは?
:バーチャルだからへーきへーき!
:だからバーチャルってなんなんだよ!
(盛り上がってるなぁ……)
絶え間なく流れてくるコメントの山。
本来なら丁寧にコメントを拾って返事の一つでも返すべきところだが、今はその気力すらない。
それでも、視界に入ってくる能天気でにぎやかなコメントの数々に、ささくれていた気持ちが落ち着くのを感じる。
「……ふふっ」
これを見て「帰ってきた」なんて思えるのは、僕もなんだかんだで配信者という仕事が板についてきた証拠だろうか。
(……よし、と)
戻ってきた気力をかき集めて立ち上がると、僕は配信画面に向かってニカッと笑顔を作った。
「ということで、今日はかねてからの計画通り、二階層の攻略をお届けしましたが、楽しんでいただけましたか?」
:ゴリ押しで草ぁ!
:こんな計画通りがあってたまるかw
:そりゃ攻略自体は計画してたけどさぁ!
:ハプニングってレベルじゃねーぞ!
:さすがライ様、全てを見通されていたのですね!
:ほらぁ、信じちゃう子もいるんですよ!
:ライ様狂信者、こわい・・・
打てば響くような反応ににんまりとはしたものの、正直限界だった。
流石に疲れたし、眠い。
僕は最後の気力を振り絞り、早口で締めの言葉を口にする。
「じゃあ無事に目標は達成出来たということで、少し早いですが、今日の配信は終わりにします! では、また次回の配信で!」
それだけを何とか言い切ると、僕は崩れ落ちる身体を支えるようにして、配信停止のボタンを押し込んだ。
※ ※ ※
「はぁぁぁ……」
自室のベッドに背中から飛び込んで、大きく息をつく。
(……流石に今回ばかりは、ちょっと無理しすぎたかも)
結果だけを見れば、ほぼ一撃で一方的に敵を倒したとも言えるが、内容的には紙一重の戦いだった。
壊れ性能な〈サムライ〉だけれど、あいにくと防御力に関しては平凡だ。
あれだけの数の変異モンスターに同時に襲われて、無事に切り抜けられたとはとても思えない。
一撃で全員を葬ることだけが、あそこで選び得る勝ち筋だったのだ。
(まあ、火力が高くて防御が弱いっていうのは、変異モンスターについても言えることだけど……)
変異モンスターは一般のモンスターよりもずっと強く、時にボスを超えるような一芸特化の能力を持っているものも多い。
ただ反面、耐久力については通常モンスターよりは高いものの、ボスには遠くおよばない。
何しろ変異モンスターの出現は完全ランダム。
ボスのようにしっかり戦闘の準備を行って挑む存在ではないため、長期戦をする想定の敵ではないのだ。
(それに、ギリギリだったのはそれだけじゃない)
右手を持ち上げ、いまだに痺れたような感覚が残っている手の平を見る。
二つの技を組み合わせた時、今までにない魔力の暴走を感じた。
無事に技を成立させられたのは奇跡のようなもので、あれをもう一度やれと言われても上手く抑え込める自信がない。
MPについてもそうだ。
ポーションで回復したはずのMPがすっからかん。
単純に〈居合抜き〉と〈風牙断空閃〉を合わせたものと比べて、大幅にMPが削れてしまっていた。
(システム外のことをやろうとすると、相応のコストがかかる、ってことかな?)
なんにせよ、もしもあの時もう少し僕のMPが少なかったら、技が発動せずに変異モンスターに殺されていた可能性だってあった。
――全てにおいて、薄氷の上での勝利。
リスナーのみんなは盛り上がってくれていたようだけれど、実際にはそれが、今回の戦闘の真実だった。
正直反省点は無数にあるし、やらなくちゃいけないことも無限にある。
(……でも、まあ、今はいいか)
僕は生き残ったし、コメント欄はみんな楽しそうだったし、撮れ高もあった。
反省は明日の僕に任せて、今日はこれで良しとしておこう。
(まあ少なくとも、次回の配信のネタにだけは困ることはないし、ね)
このまま三階層に進んでもいいし、今回のことでたくさんレベルが上がったからビルド相談をしてもいい。
そして、それより何より今回の探索で手に入ったのは、経験値だけじゃない。
――変異モンスターの、ドロップアイテム。
僕はインベントリに入った「とっておきの品」を思い浮かべてニヤリと口元を緩めると、そのまま夢の世界へと旅立っていったのだった。
戦士の休息!
とうとうカクヨムの方の最新話に追いついちゃいましたね!
次の話(掲示板回です!)はもう完成していて、マスカレードナイト仮面が一段落ついたら向こうで連載再開する予定なので、しばらくお待ちください!
あ、応援のために評価や感想をぽちぽちしてくれると続きが早く来るかもですよ!(露骨な宣伝)




