第36話 感電ショータイム
この〈千鳥〉で放てる技、〈雷鳴衝〉の効果は配信で語った通り、
《刀に雷を纏わせて攻撃して、命中した相手にダメージと〈帯電〉という状態異常を与える》
というもの。
そして、〈帯電〉状態になったモンスターは、自らの身体に残った電気によって感電し、五秒の間、スタン効果と毎秒最大HP1%の継続ダメージを受け続ける。
早い話、攻撃を当てた相手を五秒スタンさせて5%のHP割合ダメージを与える技なのだが、配信では説明しなかったこともある。
――「感電」の効果は、伝播する。
〈帯電〉状態のモンスターに触ってしまうと、そのモンスターも、さらにそのモンスターに接触しているモンスターも全てが「感電」し、五秒のスタン効果と継続ダメージを受けるのだ。
まあ要するに……。
:要するに、ビリビリ状態の奴に触れると
触った奴もビリビリするのだ!
:セシル様解説助かる!
:さすが一流探索者!
:セシルさまかしこい!
:これは知力100!
:えへへへ
:セシル様ちょろすぎワロタ
:しかも最初の魔物に直接触ってなくても
巻き添えで感電した魔物に触れているだけで
アウトみたいですわね!
:じゃあこんな魔物ですし詰めの状態なら・・・
:誰か一匹が感電したら全員痺れる……ってコト!?
これはもちろん、一部屋にモンスターが異常に詰め込まれたこの状況だから出来る技だ。
普通は魔物を誘導しても、接触している状態になるのはせいぜい一匹か二匹。
有用なテクニックではあるが、小技の域は出ない。
だが、この全ての魔物が何かしらの魔物と接触しているこの状況なら話は別だ。
「――〈居合抜き〉!」
僕は完全に静止した魔物の大群の前で悠々と次の刀を取り出し、〈居合抜き〉を使って先ほど〈雷鳴衝〉を当てたゴブリンを斬り捨てる。
:ほ、ほんとに全員動いてない!
:でも、これからどうするんでしょう?
:そうだ、一度使うと耐性がついちゃうんだよね?
もしスタンが解けたら……
:ライ様、全員に襲われちゃうんじゃ?
:い、今のうちに攻撃するとか?
:五秒で全滅は無理だよ!
そして、この「小技」には続きがある。
この〈雷鳴衝〉で〈帯電〉させられた魔物は、耐性がついて同じ異常にかからなくなる。
だから連続で同じ相手をスタンさせることは出来ない……のだが、
「――〈雷鳴衝〉!」
ふたたび繰り出した雷の一撃は、もう一度魔物全体の動きを見事に封じてみせた。
:え?
:ま、また止まった?
:なんで!? 耐性できてるはずじゃ!
:どういうことなの!?
:推測ではありますが、原因は予測がつきます
似た事例が〈海神洞窟〉のボスでありました
この技で状態異常に耐性がつくのはおそらく
「最初に技をかけられた魔物」にだけ
巻き添えで感電した魔物に対しては問題なく
状態異常をかけられるのではないでしょうか
:長文ネキ!?
:長文さん、来ていたのか!
本番の前に「試し撃ち」をしたのは、リスナーへのサービスのほかに、仕様の確認の意味もあった。
試し撃ちの時に襲ってきた二体のスケルトンは、狭い扉に殺到したことで接触状態にあった。
だから僕が先頭のスケルトンに〈雷鳴衝〉を使ったら二体目もスタン状態になって、一体目が消え去るまで襲ってくることはなかったし、そのあとで二体目のスケルトンにも〈雷鳴衝〉を当ててみると、先ほどまでスタンしていたにもかかわらず、二度目のスタン状態になってその動きを止めていた。
つまり、〈雷鳴衝〉の仕様はゲーム通り。
直接〈雷鳴衝〉を当てた魔物以外をターゲットに取れば、無制限に相手をスタンさせ続けられるということ。
しかも、この戦術のメリットはそれだけじゃない。
:でも攻撃して減らさないと結局いつかは……
:いや、〈雷鳴衝〉には継続ダメージもある
:あ、そうか! 一本につき5%のダメージ!!
:20回当てれば100%ダメージだ!
:だから大量に買う必要があったんですね!
この戦法で一番怖いのは、中途半端にモンスターを倒して、敵と敵との間に隙間が出来てしまうこと。
部屋の敵が丸ごとスタンしているのは、あくまで敵と敵の間に隙間がなく、びっしりと敵が密集しているから。
だから、下手に攻撃して耐久力の低いモンスターが死んでしまうと、感電が全体に行き渡らなくなり、一気に均衡が崩れてしまう。
――しかし、だからこその割合ダメージ。
最大HPの割合に応じて与えるダメージなら、どんなにHPが多くても、どんなに防御力が高くても関係ない。
全てのモンスターが同じタイミングで倒れるため、モンスターの密集状態が解消されることがないのだ。
(あとは、ミスなく〈雷鳴衝〉を当て続けるだけ)
僕は冷静に二体目の敵を斬り捨て、さらに次の獲物へ。
「これで、三つ! ――〈雷鳴衝〉!」
ほとんど作業のような様相を呈してきたが、緊張がないかと言えば、正直嘘になる。
全容が見れて分かったが、この部屋は〈風牙断空閃〉でも奥まで届かないほどには広い。
そこに隙間なく魔物が敷き詰められているのだから、その圧迫感は半端じゃない。
でも……。
(リスナーのみんなが見てるんだ! 下手なところは見せられないよね!)
そんな緊張をおくびにも出さず、僕は淡々と魔物たちに〈雷鳴衝〉を浴びせていく。
:すごいすごいすごい!!
:あんだけいた魔物たちが、一歩も動けてない!
:行ける!これ行けるよ!
:今何本目?
:17、かな? あ、これで18
:じゃああと二本!!
:いえ、見ていると大体四秒に一回のペースで
〈雷鳴衝〉を更新しています
性質上重ねがけ出来ないタイプの異常だと思われるので
〈雷鳴衝〉一回のダメージは最大HPの4%程度
推定で25回前後の攻撃が必要と思われます
:長文ネキ冷静だ
:頑張ってライ様! あと一息だよ!
「これで、24! 〈雷鳴衝〉……えっ?」
しかし、事故はゴール直前、二十四回目の〈雷鳴衝〉で起きた。
「しまっ!?」
〈雷鳴衝〉を当てたゴブリンが、〈帯電〉状態になる前に技のダメージで死んでしまったのだ。
このままでは、全体にかかっているスタン状態が途切れる。
:えぇっ!?
:あ、感電が終わっちゃう!
:ライ様、逃げて!!
「くっ!」
混乱は一瞬だった。
僕は即座に新しい〈千鳥〉とポーションを取り出し、
「間に、あええええええ!」
消滅していくゴブリンの隣のゴブリンにポーションをぶちまけ、HPを回復させてから、〈雷鳴衝〉をぶち込む。
:危ない!
:ギリセーフ!!
:心臓止まるかと思ったー!
:でも〈雷鳴衝〉でも倒せるくらい弱ったってことは
:そうだよ!
:あっ、見て!!
:モンスターたちが・・・
無事に感電を更新出来たとホッとしながら、流れ作業のように〈雷鳴衝〉を当てた敵を斬り捨てた時だった。
「あ……」
大量にいた魔物たち。
スタンして動けなかったはずの魔物たちがガクリと崩れ落ち、その身体が消えていく。
:おおおおおおおおおおおお!!
:やったああああ!!
:完封! 完封だ!
:88888888888
:これは偉業ですよ!
:まさか、こんな攻略法があったなんて
:普通の人には全く参考にならないけどね!!
大量にいた魔物たちが光の粒子に変わっていくその光景に、ようやく肩の力を抜いた、その時、
「……え?」
――銀光が、煌めく。
反射的に引いた半身の上をすべるように、巨大な剣が僕の身体をかすめていく。
「な……!?」
いつの間に、接近されていたのか。
突起の生えた兜に、肩当とマント。
それから、身の丈を超えるような巨大な剣。
まるで英雄のような装備で身を固めたスケルトンが、深淵のごとき真っ暗な瞳で、じっと僕を見据えていた。
「なん、で……」
いや、そのスケルトンだけじゃない。
片目が潰れたオークが、長身で引き締まった身体のコボルドが、七色のスライムが、まるで〈雷鳴衝〉のダメージなんてなかったような力強さで、僕を包囲しようと近付いてきている。
:どうして!? 全部倒したはずじゃ!
:あいつら、どう見ても二階に出てくるような敵じゃないよ!?
:そもそもあんな奴ら見たことないんだけど!
:見たことがなくても無理はありません!
スケルトンヒーロー、オーククルセイダー、コボルトレネゲイド……
そのほか、どれも低階層で1%未満のごくごく低確率で出現すると
言われるレアポップモンスターです!
:最悪だ! 私の記憶が正しければ厳しいぞ!
何しろあいつらには……
(……変異、モンスターか)
ゲーム時代には、ほとんど出会うことがなかったレアモンスター。
厄介なことに、奴らはその全てが例外なく元の魔物よりも数段強く、そしてその特徴として、奴らには……。
:割合ダメージが、効かない
「割合ダメージが、効かない」
決戦、おかわり!!




