第34話 空裂く刃
(――七割引きで買える、っていうのはほんとにすごいな!)
実際に刀を買う段になって、あらためてその値段の安さに驚愕する。
標準価格の三割というだけで嬉しいが、ゲーム時代は当然のように最高値……つまりは標準価格の三倍で売られていたから、今はゲーム時代の10分の1の値段で刀が買えることになる。
ゲーム時代から考えるととてつもない進歩だし、この世界の普通の武器を使っている探索者の人たちと比べても、かなりのアドバンテージだろう。
(……とはいえ、だ)
ゲーム時代と違うのは、こっちの資金力も同じ。
あれもこれもと手を伸ばしたくなるが、お金には限りがある。
(〈水鏡〉なんかも欲しいけど、流石に今日はお預けかな)
僕の〈刀装備〉のスキルレベルは1。
〈似非剣豪〉の効果でスキルレベルを上げても、3以上のランクの刀は今だと装備も出来ない。
「じゃあ、皆さんにいただいたマナで、今日はこの〈千鳥〉と〈風絶ち〉をドドンと買っちゃいますね!」
とりあえずランク0の最強コスパ武器である〈千鳥〉を50本。
それからランク2なのでお財布に厳しいが、圧倒的な能力を持つ〈風絶ち〉を豪快に20本、どれも底値でまとめ買いする。
;大人買いだぁ!
:大胆な買い物は配信者の特権!
:これは見ていて気持ちいい!
:わたしもこれくらいの爆買いしてみたい
:同じ武器50本あっても普通は使い切れないから……
:普通なら二階層でこんな大金使っていたら破産待ったなしですわ
:薄々気付いてたけどサムライって金食い虫だよね
:ふおおおおおおおおおおおおおおお!!
:ひゃっ!?
:セシルさま!?
:なんぞ?
:セシル様が発狂した?
:ならいつものことか(感覚麻痺)
何か問題発生か、と僕もコメント欄を見守っていると、
:はははは! すまんな弱者女性共!
〈千鳥〉が落札されましたという連絡が来た!
今ライ様が買ったあの刀は私のものだ!!
:マ?
:それはすごい! おめでとう!
:すごい! すごいけど素直に褒めたくない
:さすが一流配信者、持ってるなぁ
:セシルさまなのに運がいいなんて・・・
:違うゾ☆ クズ運すぎて売ることすら出来ない刀みたいな
ゴミアイテムばっかり引き当ててるだけだゾ☆
:う、うるさい! それでも結果的に落札してもらったから勝ちだ!
どうやらコメント欄にいたセシルという有名配信者(なんでいるの?)が、僕の落札した刀の出品者だったらしい。
それに続いて、自分もマーケットを確認した人が増え、わたしもわたしも、という声があがる。
「それは……おめでとうございます?」
発生したのは問題ではなくて、どうやら祝福だったらしい。
いや、駆け出しならともかく、ある程度の探索者なら刀一本の値段なんて大したことないし、そもそも配信者に落札されたことって祝うようなものなんだろうかと思わなくもないけれど、本人たちが喜んでいるならいいだろう。
(僕としても、リスナーには喜んでもらいたいしね)
リスナーあってこその配信者。
配信スタイルは色々あるけれど、僕は見ている者と配信しているもので、お互いがお互いにいい影響を与えられるような配信者を目指したい。
(まあ、だったら次にやることも決まっちゃうよね)
というか、買い物のあとに配信者がやることと言えば、もうこれしかないだろう。
いまだに誰が落札しただの、セシル様本棚に小指ぶつけろだので騒いでいる画面の向こうのみんなに、僕は笑顔で声をかける。
「――それじゃあせっかくなので、本番の前にちょっとばかり試し撃ち、しちゃいましょうか!」
※ ※ ※
第一階層の扉の前まで来た僕は、買ったばかりの〈千鳥〉をインベントリから取り出した。
「では、まずは〈千鳥〉から試してみますね」
:わっくわく
:千鳥は攻撃した相手が痺れるんだっけ?
:あとオマケの継続ダメもついてるって言ってなかった?
:みんなよく覚えてるなぁ
:ライきゅんの解説、早口すぎて聞き逃してた
:やっぱライ様、刀めっちゃ詳しいよね
:そりゃ自分の武器ですからw
:あれ? でも何でライ様自分が持ってない
刀の技まで知ってるんだろ
:そういえば……
:たし蟹!
:マーケット使ったことない、とも言ってましたよね
どうしてあんなにたくさん刀持ってるんでしょう?
(――やっば!)
僕に刀の知識があるのも、僕が最初から刀をたくさん持っていたのも、どちらも前世のゲーム由来だ。
答えられるはずがない。
「それはまあ……バーチャルなので!」
:うわでた!
:ライ様、バーチャルって言えば全て済むと思ってない!?
:バーチャルってそこまで万能じゃないんだよなぁ・・・
:いまだにライ様って謎が多いよね
「あはは。……じゃ、開けますねー」
突っ込まれたら困る流れは、インパクトでごまかすに限る。
僕はすかさず部屋の扉を開ける。
その奥にいたのは……。
「――スケルトンか!」
:外れじゃん!
:さすがに骨に電撃は……
:これは感電無理だね
:セシル様のクズ運移っちゃった?
:なにおう!?
そう騒ぎ出すコメント欄に力を得たかのように、重なり合うようにして扉に駆け込んでくる二体のスケルトン。
ただ、
「刀気解放〈千鳥〉――〈雷鳴衝〉!」
こちらが放った一撃は先頭のスケルトンの身体を捉え、
:えぇっ?
:動けなくなってる!?
:マジで!?
:骨なんですけど!?
見事にその骨の肉体を痺れさせていた。
(よしよし、想定通り!)
〈雷鳴衝〉が思惑の通りの効果を発揮したのを見届けて、先頭のスケルトンの首をばっさり。
続いて、一体目が倒れてからようやく襲いかかってきた二体目のスケルトンも、もう一本取り出した〈千鳥〉で痺れさせて実験終了。
「ほい、っとね」
最後は〈風絶ち〉をインベントリから出し、いまだに痺れたままのスケルトンを居合で切って戦闘を終わらせた。
:えぇぇ……
:麻痺えぐすぎィ!
:五秒って短いと思ったけど……
:確実に一回攻撃を当てられるってだけでも
すごいアドバンテージですね!
:連続で麻痺は出来ないらしいけど
これは定番武器になるのも分かる!
コメントの反応も概ね良好だ。
女の人ばかりのリスナーが武器の細かい性能に興味があるか少し不安だったけれど、流石にこういう配信を見に来る層。
僕の予想よりもずっとスキル性能に踏み込んだ内容を話している。
「一見痺れそうにない相手ですけど、低階層のスケルトンって特に雷耐性もスタン耐性もないんですよ。なので、普通にこの技も効きます」
それなら補足した方がいいだろうと解説を加えてから、次の部屋へ。
「それじゃ、次は本命。〈風絶ち〉を試しますね」
:来た!
:ライ様が強いって言ってるくらいだし相当強そう
:どんな効果の技が使えるんですか?
「この技は分類としては遠距離攻撃技ですね。使い勝手としては一番〈血風陣〉に近いかな?」
技の説明はシンプルで、「直線状の敵に風の斬撃でダメージを与え、吹き飛ばす」とある。
:うーん?
:説明だけだとあんまり強そうじゃないけど
:風の刃を飛ばすよくある奴だよね?
:斬撃の威力がすごい、ってこと?
コメント欄の反応も今一つだ。
やっぱり、これはもう見てもらうしかない。
「おっと」
今日はスケルトンデーなのか、新しく開けた扉には、スケルトンが三体。
扉を開けた瞬間、仲良く並んで駆け寄ってくる。
余計な前置きはなしだ。
「じゃあ、瞬きしないで見ててくださいね! 刀気解放〈風絶ち〉!」
宣言と共に、振り上げた刀に風が集まる。
そして、扉を通ろうと、スケルトンが縦一直線に並んだ瞬間に、振り下ろす。
「――〈風牙断空閃〉!」
瞬間、空が割れた。
空間に縦一直線に線が走った、そう認識した時、
:は?
:ふぁっ!?
:なんとぉ!?
:えっえっえっ?
もう視界に、走り込んできたはずのスケルトンの姿はなく……。
ただ、中心を真っ二つにされた骨の残骸だけが、部屋の隅に転がっていた。
チート技炸裂!
次回、いよいよ第二階層リベンジ!




