第32話 対策
(……ヨシ!)
僕は覚悟を決めると配信開始のボタンを押し、先制攻撃とばかりに笑顔で声を張り上げた。
「魔王城からこんにちわ! バーチャルダンチューバーのライです! 今日は以前予告した通り、お買い物配信をやっていこうと思います!!」
:始まった!
:おつとめご苦労様ですwww
:鎖骨神様だ!
:何事もなく始まって草
:BAN様来たよBAN様!
:よかった! 配信再開して安心しました!
:あれれ~? おっかしいなぁ
お買い物配信はもうやったはずなのに、あれぇ?
:あれはひどい事件だったね・・・
:ファンネームが鎖骨フェチに決まったことについて一言!
:鎖骨神様待ってました!
「ぐっ。さ、鎖骨神様とかBAN様とか、ちょっと何言ってるか分からないですねぇー」
笑顔でそう言い切りながらも、僕は分の悪さを感じざるを得なかった。
(くっそぉ。やっぱり何も起こってなかった体で仕切り直すのは流石に無理があるかぁ)
前回、エロコンテンツ扱いされて配信を突然止められた時は焦ったが、初犯だったことと、元からアドサガの配信システムでBANなんてほぼ想定されていなかったこともあり、僕のアカウントへのペナルティはなかった。
前回のアーカイブが公開不可になっただけで配信禁止措置もなく、こうしてすぐに配信を再開することが出来たのは、本当に不幸中の幸いだったと言える。
……しかし、この一件で僕が受けた傷は決して浅くなかった。
僕が配信を再開するまでのほんの三十分ほどの間に一連の流れはネット上で拡散され、「鎖骨事変」とか面白おかしく言われてネットの海に拡散されてしまったらしいのだ!
(まったく、これまでは全然僕の話題なんてなかったのにさぁ! ほんっと、ネットの民たちって奴は!)
こういうやらかしに対するネット民の嗅覚は、前世でも今世でも変わらないということか。
配信再開直前に軽くエゴサしただけで、「BAN」とか「鎖骨」なんてワードと合わせて、僕の話がわんさかとヒットするようになってしまった。
……まあ、確かに?
今回の一件は僕のミスというか、やらかしてしまったことは疑うべくもない。
ただ、一つだけ。
――絶対にゲーム時代はあんなんじゃBANにならなかったじゃん!
ということだけは、声高に主張したい。
一応「あまりにも公序良俗に反する配信をすると、AIによって配信がBANされる」というシステムがあったのは知っているが、ゲーム時代、エロでBANされたのなんて僕が知る限りでは一例だけ。
それも胸元がどうとかいう次元ではなく、悪ノリした女性プレイヤーが「くっころ配信」と銘打って「水着アバターでわざとオークの攻撃を受けまくってエロ漫画っぽい台詞とか喘ぎ声とかを連呼しまくる」という、誰が聞いてもあかんやろというレベルのエロをやってしまった結果だった。
そもそも、アドサガには先述した水着系の装備のような「インナーよりももっと露出度の高く、装備するとなぜかインナーが見えなくなる装備」は山ほどある。
当然ながら、たかが鎖骨程度でBANされるはずがない。
(ない……んだけど)
ただ、この配信システムは当時のゲームの配信システムそのものではなく、それをなんとなくのイメージで人間が魔法で再現しているだけ。
今世の人たちの価値観が反映された結果、「こんなんアウトだろ!」と判断されてBANされてしまったということだろう。
しかし!
「前回のことでは、皆さんにご迷惑をおかけしました。けれど、二度とあんなことが起こらないように、しっかり対策をしたので安心してください!」
僕は失敗に学ぶ男。
前世の先人〈クッ☆コロ姫〉さんに倣い、これ以上BANされないようにすでに対策は打ってあるのだ。
「この配信、前回と何か変わったと思いませんか?」
:え?
:いつも通りに見える
:ライきゅんがいつもよりカッコイイ、とか?
:ライ様はいつもかっこいいだろうが!
:えー、何か変わったかなぁ?
:あ、分かった! 鎖骨が見えてない!
:草
:座布団一枚!
:もうやめたげてよお!
:ん? これ年齢制限ついてない?
「それです!」
途中大喜利と化したコメント欄にビキビキしながらも、僕は正解のコメントを拾い上げる。
「実はこの配信、R12で年齢制限かけて配信してるんですよ!」
これこそが先人の知恵。
エロ音声でBANをくらった、かの〈クッ☆コロ姫〉さんも、BAN明けに年齢制限をかけて配信しなおすことでくっころ配信を完遂出来たのだ。
ここでミソなのは、R12というところ。
ステータスカードを取得出来るのは12歳以上なので、配信には実質的に影響がない。
しかし、前世では十二歳より下もゲームが出来た関係から、「十二歳以上のみ視聴可能」の条件をつけるだけでもAIにエロ耐性がつく、というのは明らかにされているのだ。
:なるほどなぁ
:かしこい!
:対策できてエロ……えらい!
:でもその割には道着の下ガッツリ着込んでない?
「あはは……。それは、まあ」
そう笑ってごまかす今日の僕は、完全防備。
何しろ僕は失敗から学ぶ男。
年齢制限だけでも十分だとは思いつつも、万が一にも肌の露出でBANされないように、一度家に戻って〈強化道着〉の下に長袖を着込んできたのだ。
これでようやく、心置きなく本来のお買い物配信に戻れる訳だが……。
「というか皆さん、忘れてませんか? この配信がお買い物配信で、このお買い物配信には大きな目的があったことを!」
:もく・・・てき・・・?
:え? ライきゅんのエッチな姿を楽しむ配信じゃなかったの?
:ライ様はこの配信で、私たちにスパチャを贈る理由を
与えてくださっているのですよね!
:推しが散財するのを楽しむ以外に目的はないが?
「……はぁ」
あまりにもノリと勢いだけで生きているコメントに頭を押さえながらも、僕は告げる。
「このお買い物配信の目的は、戦力強化。次の攻略に向けた足がかりです」
この前の配信では逃げ帰るしかなかった、魔物だらけの大部屋。
その攻略の鍵になるアイテムは、おそらくマーケットに眠っている。
だから、ここからが本題。
「――巨大モンスターハウスを攻略するための刀を、これから皆さんにお見せします!」




