第31話 伝説
みんなが生着替えだなんだの言うから何かと思ったら、
「――ちらっと装備の下が見えた、だけぇ?」
僕が装備変更を押した瞬間、新しい装備に切り替わるまでの一瞬の間に、装備の下のインナーがほんの少し見えた、というだけの話だったらしい。
(い、いや、そりゃこの世界は男性の裸に免疫ないのかもしれないけどさ)
インナーと言ったってタンクトップにハーフパンツという感じで、正直エロ要素は微塵もない。
センシティブに対して敏感すぎることで有名な、前世の動画投稿サイトも鼻で笑うレベルの過敏さだ。
ただ、そう思っていたのは僕だけだったらしい。
:は? だけ、じゃないんだが?
:ライ様はことの重大さがまるで分かってないようだな
:男性氷河期時代の女を舐めるなよぉ!
:こんなんもう伝説の配信だよ!
:M5000 ありがとうございます!ありがとうございます!
:この流れでスパチャは草
:ぽまいら欲望に忠実すぎるだろ! ・・・ふぅ
:M5000 エッチなのはいけないと思います!
:満額のスパチャ投げつつ注意しても説得力ないんだよね
:こらぁああ、お姉ちゃんストーーーーップ!
もう!! お姉ちゃんはライきゅんをそんな子に育てた覚えはないよ!
そういうえっちなのは二人きりの時に……じゃなくて
人前でやるのはゼッタイにダメなんだからネ!
ああもう、ほんと、ほんとにもう……ごちそうさまでした!!
:お姉ちゃんさん!?
:おい自称お姉ちゃん!
:エロはこうも人を狂わせるのか
:元からおかしかった定期
コメント欄はあれだけのことを、まるで一大事でもあったかのように盛り上がっている。
(う、うーん?)
まだ納得は出来ないし、そういうつもりは全くなかったのだけど、エロで釣ったような形になったのなら反省するべきだろう。
「え、ええと、すみません、でした? その、次からは映像切って着替えることにしますから」
:ええっ!
:そんなー!
:バカなことは……
:そんなん世界の損失だよ!
:そのままの君でいて
:次も生着替えでお願いします何でもしますから!
:ん? 今……
:そんあ気にすrことないんjないかなぁ1!”
:焦りすぎてて草
「……いや、どっちなのさ」
乙女心(?)はフクザツ、ということなのだろうか。
流石に僕が少し呆れていると、
:いやいや、むしろなんでライ様はそんな平然としてるのさ
:私弁護士だけど、リアルだったら着替え要求した時点で
ガチの逮捕案件になるからね!
:おかしいのはライ様定期
:普通はもっと取り乱すんだって!
とは言われても。
男性女性の感覚が違う、というのにも加えて、配信に乗せている姿は前世の自分とはいえ、僕自身の身体じゃない。
そのせいで現実感が薄い、というのもあるかもしれない。
ま、要するに、
「所詮バーチャル体だしなぁ」
:久しぶりに出たなバーチャル設定
:はいはい
:それだけのリアリティがあればバーチャルでも
:そもそもバーチャルってなんなのさ
:リアルでもそんなだと襲われちゃいますよ!
「残念。リアルだとクラスメイトの女子にも興味持たれてないですからね」
:いや、それ……
:あっ(察し)
:それ絶対嫌われたくなくて全力で猫被ってるだけですわよ
:というかライきゅん共学校なんだ
:どこ校? わたしそこに転校する!!
:私が同級生なら秒で襲ってる
:ほ、ほんとに気を付けてくださいね!
コメント欄のみんなはいつものように大げさに騒ぎ立てるが、
(あぁ。この人たちはまだ、「探索者が全員百合」ってことを知らないんだな)
なんて思えば、不思議と慈愛の心すら湧いてくる。
「はいはい。そうですねー」
と、適当に手を振って流す。
そもそも、だ。
「というかですね。インナーがダメだって言うならこの服だって大差ないじゃないですか」
そう言って、僕は自分の〈強化道着〉の袖を持ってぴらぴらと振る。
:確かに……?
:言われてみれば?
:気付いてたけど言わなかったのに!
:実は密かに堪能してましたすみません!
なんだか懺悔しているコメントもあるが、そういうことではないのだ。
自分たちの感覚がおかしくなっているとただ自覚してほしいだけ。
「これだって生地も薄いし、袖の先から肌見えてますし、それに胸元も……」
言いながら襟に手をかけると、
:あっちょっ!
:いけませんあーいけませんお客様!
:エッッッッ!
:だ、大胆すぎるッ!
:ちょ、ちょっとライ様!?
焦ったようにコメント欄が騒ぎ出すが、僕は取り合わなかった。
多少荒療治かもしれないが、こういう杞憂は一掃しておくに限る。
「大丈夫ですよ。ほら」
首の生地を引っ張るようにすると胸元の肌面積が増えるが、ただ鎖骨が見える程度で何が起こるという訳でもない。
「ね? こんなの別に――」
――なんでもない。
そう、続けようとした時だった。
――ブンッ。
突然そんな不吉な音がして、視界の端に映っていたコメント欄が消える。
「あ、え……?」
何が起こったのか。
呆然とする僕の前に表示されたのは、たった一行の文。
過度に性的なコンテンツが含まれていたため、このライブ配信は終了しました
こうしてこの日、僕は「世界で初めてセンシティブ判定でBANされた男」として、ダンチューブの歴史に新たな伝説を刻むことになったのだった。
ダンチューブちゃんは思春期!!




