第30話 お買い物配信の衝撃
(――そんなに時間が経った訳でもないのに、なんだかすごく久しぶりに感じるな)
やたらと懐かしく感じる配信画面を開き、配信開始をタップする。
一瞬で画面が切り替わると、
:キター!
:始まった!!
:待ってました!
:ハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタ
:M5000 お通し
:配信やったああああああああ!!
:お通しが重すぎるッピ
:久しぶりのライ様が五臓六腑に染みわたる!
:はぁイケボすぎてつらい
:一億と二千年前から全裸待機してました!
:お姉ちゃんも探索サボって見てるよ☆
:生配信初めてです!!応援してます!!
視界に流れるのは、嵐のような配信コメント。
歓迎されているのが分かって、抑えようとしても顔がにやけてしまう。
「魔王城からこんにちわ! バーチャルダンチューバーのライです!」
それでもなんとかお決まりのあいさつをこなしたあと、これだけは言わないとと注意事項を付け加える。
「ええと、喜んでくれているところ悪いですが、すみません! 今回の配信は事前の告知通りお買い物配信で、ただマーケットで買い物するだけです! それでもいいよ、という人だけ見てください!」
ぬか喜びされても申し訳ないので、初めにそうきっぱりと言い切った。
……のだが、
:大丈夫だよー!
:声が聞けるだけで百点満点
:むしろそれがイイ!
:とんでもねえ!待ってたんだ!
:お買い物配信すこ
:M5000 私たちがスパチャしたお金で推しの装備が整っていく
私たちはそういうことに喜びを感じるんだ
:文はキモイけど同意
:お買い物楽しみです!!
本当に買い物配信を喜んでくれているらしい。
(うーん。女の人って買い物好きだし、その感覚の違いなのかな?)
正直買い物配信の良さは今一つ理解出来ていないけれど、喜んでくれているならそれでいい。
(まあ、たまにはのんびりする配信があってもいいか)
現在地はいつものダンジョンの出入り口で、魔物が来る危険はない。
というか、ダンジョン内でないと配信が出来ず、安全地帯でないとマーケットが開けないので、ここしか選択肢がなかった。
「ええと……これでいいかな? 見えてますか?」
予習した通りにマーケット画面を呼び出して、配信にも見えるように設定する。
:見えてるよー
:画面共有助かる
:ガチマーケット画面だ
:バーチャルとは?
:やっぱり本物?
:今日は何を買うんですか?
僕がマーケット画面を共有したことで、僕の実在を疑っている層が少しだけざわついたようだけれど、反応は概ね良好だ。
こういう時は深掘りせずに流すに限る。
「じゃあまずは消耗品。それから防具を見て、最後にメインディッシュの武器を見ていこうかと思います!」
:やっぱり武器最後かぁ
:刀楽しみだけどまあそうよね
:ポーションはちゃんと持っておいてもらわないと
:連続使用できないとはいえ、あるとないとじゃ大違いだからね
:大丈夫? メインディッシュ行く前に資金枯渇しない?
:M5000 大丈夫!いくらでも足せる!
:力強い満額スパチャ
まあ、消耗品については盛り上がる部分はない。
さらっと流して次に行く……はずだったんだけど、
「ええぇぇ!? 初級ポーションの在庫がいちじゅうひゃくせんまん……え、六十万!?」
実際にマーケットを開いてみると、とてもスルーなんて出来なかった。
ゲーム時代、こういった消耗品はかなり絞られていて、マーケットでも取り合いになっていた。
それが、六十万超えの在庫というとんでもない数の備蓄。
「って、こっちは〈毒瓶〉に〈麻酔ダーツ〉に〈睡眠薬〉に……え、〈煙玉〉まで在庫こんなあるの!?」
さらに、ゲーム時代は品薄で売り切れ常連だった攻撃アイテムまで、数万単位でダブついている。
これが浦島太郎現象という奴か。
環境の違いを感じて、僕は初っ端から叫び倒してしまった。
:テンション上がっててかわいい!
:そこまで喜ばれるとこっちも笑顔になっちゃうね!
:推しの笑顔・・・てぇてぇ!
:そういえばマナなくてマーケット使えなかったんだっけ
:M1000 これでもっと買って!
:M5000 ああ、おかわりもいいぞ
:M2000 これはおねえさんも投げ銭せざるを得ない
:確かに微笑ましいけど、見てるもんは凶悪なんだよなぁ
「んー。こほん。まあただ、今必要なものはあまりなさそうですね」
ジェネレーション(?)ギャップには驚かされたけれど、とはいえ、どれも単体もしくは数人相手に使うアイテムなので、全ての部屋がモンスターハウス化している現状、あまり役立ちそうなアイテムはない。
唯一汎用性のありそうな〈煙玉〉とポーション類を買って、消耗品部門はサクッと終わりにすることにした。
「では次は防具……なんですが」
:サムライの防具ってなんなんだろ?
:甲冑とか?
:今着てるのってただの布の服だよね?
:ド直球な初期装備
:ちゃんと防具スキル取ってる?
そういえば話していなかったなと、コメント欄に答えるようにうなずく。
「ああ、はい。実は〈サムライ〉の防具って二種類あるんですよ」
一つは重装備で、専用防具である〈甲冑〉でガチガチに防御を固めるルート。
ただ、甲冑は防御はめちゃくちゃ上がるが、その分敏捷性が大きく下がるし、顔がよく見えなくなるから配信映えしない。
だから僕が採用したのはもう一方。
「軽装で、防御はあまり高くないですが、動きを阻害しない〈道着〉です」
言いながら、道着カテゴリでマーケットをソートする。
マーケット画面に無数の道着カテゴリの装備が表示されるが、
「あー。流石に消耗品ほどの数はないですね」
ものによっては数千単位で在庫はあるものの、流石にポーション類のような在庫のダブつき具合はない。
:装備って消耗品に比べてぜんっぜん落ちないから!
:道着はほかにも装備できるジョブあるしね
:マイナーではあるけどね
:器用補正があるものが多いから愛用してる
:道着はグレード比で性能がよいものが多くて好きですわ
:はっ! 待って閃いちゃった!
今私が着てる道着をマーケットに流せば……じゅるり
:おまわりさんこちらです
:もうお前は閃くな
:道着勢と変態ウキウキで草
:いくらなんでも変態と一緒くたにしないでいただけませんこと!?
「あはは。それじゃ、この中で選んでいきましょうか。まあ、とは言っても……」
〈道着〉カテゴリの装備はもともと数が少なく、さらに今の僕の〈道着装備〉のスキルレベルは1。
選べる余地はあまりない。
ランク0の〈道着〉は初期装備クラスだし、選べるのはその一つ上のランク1の道着になるから、選択肢は実質二つ。
「――この〈武道着〉か、〈強化道着〉ですね」
性能で言えば〈強化道着〉の方が一回り上。
ただ、一回りしか性能が違わないのに値段は三倍高いのがちょっとモヤっとくるところではある。
ここはコスパ的には圧倒的に〈武道着〉なのだが……。
:絶対〈強化道着〉の方がいいよ!
:お金をケチるな命をケチれ!
:M5000 ほんとそれ。お金なら私がいくらでも貢ぐから、ね?
:M5000 高い方買って!
:M5000 隙を見せたな!スパチャをくらえ!
:M300 支援です!
「わ、分かりましたから、スパチャは無理のない範囲でお願いしますね!」
かつてのスパチャ乱舞事件はちょっとしたトラウマになっている。
これ以上スパチャが過熱する前に、僕はささっと〈強化道着〉を購入してしまった。
(……参ったなぁ)
視聴者のみんなとあーでもないこーでもないとじっくりと装備を選ぶはずが、思ったよりもずっとすんなりと進んでしまっている。
(――あ、そうだ!)
だがそこで、僕の頭に閃きが走った。
お買い物配信の醍醐味は、散財だけじゃない。
マーケットで買ったものはすぐにインベントリに転送されるため、その場で試してリスナーに見せられるのだ。
「せっかくなので、早速こいつに着替えちゃいましょうか!」
新しい装備を着てみせれば、それなりに配信映えするし、尺も稼げるはず。
当初の予定にはなかったけれど、オリジナルチャートを発動させて少し寄り道するのもいいんじゃないだろうか。
そうと決めれば善は急げ。
僕はコメント欄の反応を確かめる間も惜しんで、マーケット画面を開いたままインベントリを呼び出す。
「……ええと、〈強化道着〉装備、と」
ゲーム装備のいいところはワンポチで着替えられるところ。
僕が「装備」を選択すると、一瞬で今までの〈布の服〉がインベントリにしまわれ、代わりに〈強化道着〉が身に着けられる。
「どうです? 結構いい感じに……あれ?」
僕は自分の服装がきちんと変わっているのを確認して、笑顔で呼びかける。
……だが、そこで異変に気付いた。
――コメント欄の勢いが、異様なのだ。
一体何が起こってしまったのか。
僕が嫌な予感を覚えて、コメント欄を覗き込むと、
:ほああああああああああ!?!?!?!
:まずいですよ!!
:あわわわわわわわわ……
:み、みえっみえっ……
:マジ!? マジなん!?
:ひええええ・・・
:エッッッッッ!!
:きゃあああ!きゃあああああ!!
:なっなっ生着替えだああああああああああああああああああああああああああ!!
なぜか全員が混乱状態になっていて、買い物どころではなくなってしまったのだった。
†ライ†「何もしてないのに壊れた」




