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第25話 説明会


「――はなー! やっばい! やっばいって!! 男子だよ! 男子!」

「はいはい。聞こえてるから」


 同じパーティの美弥みやの大声を片耳を閉じて聞きながら、適当な相槌を打つ。


 学校に男子生徒が来るかもしれない、という驚きのメールを見終えた直後、未来をはじめとするパーティメンバーたちからすごい勢いで鬼電……もとい個人チャットが飛んできた。


 まあ、これは不思議でもなんでもなく、うちの学校は漫画でよくある「探索者としての実力で全てが決まる学校」みたいな場所じゃないけれど、A組には探索者組のトップが集まるという通例がある。


 一応学年では上位にいる私のパーティメンバーは全員がA組所属予定。

 だから、みんなにも同じメールが届いていたようだ。


 ちょっと意外だったのは、恋愛に奥手な未来が「男性と一緒に授業を受けることに抵抗がない」と答えていたこと。


 やっぱりああ見えて未来はむっつり……と言いたいところだけど、引っ込み思案なところのある未来は、アンケートの時も私の回答をやたら気にしていたし、周りに合わせただけかもしれない。


 まあそんなワケで同じパーティの、未来、友梨佳と続けてチャットで会話して、最後に興奮した美弥とチャットをしているのだが、こいつがほんとにうるさかった。


「うわあああ! 男子と一緒のクラスとか、やばくない!? だってほら! 同じ教室で息を吸って、同じ教室で授業を受ける。これってもう結婚では?」

「うん、それだと私とも、というかクラスの全員結婚してることになるからね」


 それでも一応同じパーティの仲間だし、興奮する気持ちも分かってしまう。

 私が内心のイライラを隠して淑女的に返すと、


「えぇ~、華のことは好きだけどぉ、さすがに結婚はなぁ~。ほら、未来にも悪いしぃ? まあでもぉ、華がどうしてもって頼むならぁ~」

「……ねえ、もう通話切っていい?」


 さらに調子に乗った返答が返ってきて、温厚な私もキレそうになる。

 というか、目の前にいたら頭をガツンとやっているのは間違いない。


「ジョ、ジョーダンじゃん! いま切られたら泣くからね、あたし!」

「なんで変なとこでそうメンタル弱いのよあんたは」


 美弥の言動には呆れるしかないが、ただ、こいつのとこにも来ていたとしたら、さっきのメールがイタズラだとか間違いだという可能性はほぼなくなった。


 いや、まあ美弥から通話が来なくても未来と友梨佳から来てる時点で確定してるんだけど、一応。


「そ、それにさ、それにさ。もしかすると学校に来る男子って、あの〈久利須 黎人〉くんじゃないかなって!」

「いや……。そんな、都合のいいこと……」


 美弥が言う黎人くんというのは、この地域で「天使」と呼ばれて尊ばれている男性のことだ。


「なぁにが天使だよちょこざいな! うちの未来の方が天使だから!」と普段だったら言うところだが、流石に相手が悪い。


 件の〈久利須 黎人〉くんは、今通話しているバカが一切面識ないくせに騒いで名前を呼んで手を振っても、手を振り返してくれるガチ聖人。

 もはや地域の、いや、東京の宝だ。


 何しろその現場を見ていたというか、その時のこいつの隣にいて一緒に帰ってたから間違いない。

 ついでに私もちょっとだけ手を振ったら、私に(・・)笑いかけてくれたのはちょっとだけ、ほんのちょーっとだけキュンと来た。


「だってさぁ! いま高校一年生で、東京に住んでる男子だよ! 絶対可能性あるって!」

「そりゃもちろん、私だって黎人くんが来てくれたらって思うけど……」


 そんな少女漫画にありそうな奇跡が、自分たちの身に起きるなんて信じられなかった。


「じ、実はあたしさ。隠してたけど、黎人くんにガチ恋でさ」

「へーぇ」


 いや、私らの同年代は大体みんなそうだから、と思いつつ、一応先を促す。

 すると私の反応に力を得たのか、さらに前のめりに美弥が力説する。


「ほ、ほら、あたしが手を振った時、向こうも振り返してくれたし、さらに目が合ったらニコッて笑いかけてくれたじゃん!? これって絶対、脈ありだと思うんだよね!」

「あんたさぁ……」


 こいつほんとバカだなぁと思いつつ、こうやって「天使」くんは勘違い女を生み出してきたんだろうなぁと思う。


 悲しいことに、男に免疫がない美弥のような女は、ちょっと優しくされただけですぐにコロッとやられてしまうのだ。


 まず、手を振り返してくれたのは単に向こうが優しいからだし、笑いかけてくれたのは……。



(――美弥(バカ)の横で小さく手を振る私のおしとやかさにクラッと来て、私に向かって笑顔を見せてくれたんだもんね!)



 図らずも美弥を引き立て役にしてしまって申し訳ないと思うが、真実はそういうことなのだ。


 とはいえ、一応は友人の美弥に、この残酷な真実を伝えるのも憚られる。

 私はあえてコメントせず、会話を終わらせることにした。


「まあ、それも明日の説明会に行けば分かるでしょ」

「それはそうだけど、明日まで待てないというか……。てかさ、なんで説明会明日なんだろーね? どうせ明後日登校日なんだから、明後日にまとめてくれればいいのに……」


 それは私もちょっとだけ思ったことだ。

 でもまあ、男子と同じクラスに通えるなら、余計に一日学校に行くくらいなんでもない。


「とにかく、明日の準備もしなきゃいけないし、もう切るよ」


 これ以上はキリがない。

 私がそうやってチャットを終わらせようとすると、


「や、やだやだ! 今晩は絶対興奮して寝れないし、もう少し! もう少しだけでいいから話してよ!」


 すがりつくような勢いで、美弥が全力で止めてくる。


「……はぁ。ほんとにあと少しだけだからね」

「やったぁ! 華、すきすきー!」

「はいはい」


 ……それから。

 結局美弥の「もう少し」は午前二時まで続き、美弥の寝息が聞こえてきたところで私も半分寝ながら通話を切った。



 ※ ※ ※



 明けて翌日。

 眠い目をこすりながら学校へやってきた私を待っていたのは、想像していたよりもずっと本格的な説明会だった。


 経緯の説明と、入学予定の男子生徒の発表。

 それが大方の予想通り、〈久利須 黎人〉くん……界隈で「天使」と呼ばれている男の子だと分かった時は、あがった歓声でクラスが揺れた。


 かくいう私も興奮のあまり何かよく分からないことを叫んでしまって、「は、華ちゃん、よだれが……」と隣の席の未来にハンカチで拭ってもらえなかったら、男性に対するには不適格、として弾かれていたかもしれない。


 そこから説明会は男子生徒への接し方に関する講習会に変わったのだけれど、これは思ったよりもずっと大変だった。


 男性に対するセクハラなどのNG行為の解説や、対男性用のマナーの講習。

 果ては何枚も誓約書やら念書やらを書かされ、やってくるかもしれない男子に対して、決して失礼な態度を取らないことを誓わされた。


 正直「そこまでやるか」とは思ったけど、漫画や小説のようなフィクションの世界を除いて、探索者学校に男子が入学したという記録は、おそらくない。

 学校側はなんとしてでも成功させたいだろうし、その大げささ、めんどくささが逆に「本当に学校に男子がやってくるんだ!」という実感を大きくさせてくれた。


 そして、特別編成クラスの担任になる予定の小栗先生は、最後に爆弾発言を繰り出した。



「――講習を急遽行ったのは、理由があります。明日、彼の体験入学が実施されるからです」



 ざわつく教室を抑えるように、彼女は重ねて声を出す。


「そこで、全てが決まります! 彼が本当に学園にやってくるのか、あるいは男子入学の夢が、一夜の幻で終わるのか」


 想像もしていなかった可能性に、私は隣の席の未来と顔を見合わせる。


 私には当然、まともな恋愛経験なんてない。

 というか、私の家は両親とも女性の探索者カップルだし、探索者として目覚める前を入れても、きちんと男としゃべったことすらない。


(きゅ、急に不安になってきた)


 浮かれていたため、さっきまでの講習の内容もよく思い出せない。

 こんなことならもっとしっかり聞いておくんだった、と後悔している時、小栗先生が口を開いた。


「いいですか? もう一度言いますが、彼に少しでも不安感や不快感を与えてしまえば、全ては終わりです。特別編成クラスも、男子との共同授業も、探索者学校初の偉業も! それから私の教師としての実績も、夏のボーナスも、年下男子高校生と美人女教師のめくるめく禁断の愛のレッスンからの寿退職も! 全てが泡と消えてしまうんです!!」


 ……あれ?

 なんかテンションに騙されてスルーしそうになったけど、先生今、さらっとやばいこと言ってたような……。


「ですから!!」


 私が正気に戻りそうになった一瞬後、先生はバシィンと黒板を叩き、真っ赤になった右手をふーふーしながら、こう告げた。


「私は考えに考えました。お酒と胃薬とズッ友となりながら必死に考えに考え尽くし、そして……万が一が起こらないよう、『専門家』を呼ぶことに決めました!」


 実は、みんな不安だったんだろう。

 先生の言葉に、今度ばかりは「おおー」と歓声があがる。


 それに気をよくした様子で先生はうんうんとうなずいて、


「では、入ってきてください」


 と扉に向かって問いかける。


 先生が頼んだという専門家は、果たしてどんな人なのか。

 脳内でシミュレーションしていた予想は、全て覆される。



「――失礼します」



 綺麗な所作で扉を開け、教室に足を踏み入れたのは、私たちと同じ制服を着た少女。


(ま、さか……)


 私は、いや、このクラスにいる誰もが、彼女を知っていた。


 女性しかいないこの学院において、公然とファンクラブが存在し、上級生下級生問わずに何度も告白され、そしてその全てを一切の躊躇もなく断ってきたという才媛。


 その容赦のなさと常に冷静沈着な様子から、やっかみ半分、尊敬半分に、〈氷の乙女〉などと呼ばれる学校きっての有名人。


(す、ごい……)


 一目見ただけで、そのオーラに気圧される。

 優雅で楚々としていながらも、一度見たら目を離せない強烈な存在感も兼ね揃えた、完璧な美貌。


 古来より美しい女性を表す言葉、立てば芍薬しゃくやく、座れば牡丹ぼたん、歩けば揺れる双子山ふたごやま、とはまさに彼女のためにある言葉だった。


 誰もが息を飲む中、彼女は悠然と教卓の前まで歩を進めると、その形のよい唇を、ゆっくりと開く。


「知っている人もいるかもしれないけれど、私は久利須 優理ゆうり。この学院の三年生で、A級探索者。それから――」


 そうして彼女はわたしたちの前に仁王立ちすると、切れ長の瞳で私たちを睥睨へいげいし、




「――レイくんの、お姉ちゃんだよっ☆」




 そう言って、自慢げに胸を張ったのだった。

颯爽登場!!

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― 新着の感想 ―
氷の乙女っ☆
確かに専門家だ!? だがその実態はお目付役だろう!
颯爽登場! 銀河美少女姉!お姉ちゃんだよっ☆
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