第24話 探索者の恋愛事情
「――ええと、次は……八束 華さん、かな。『今日のお昼代です』。あはは、まあマナじゃお昼は買えないけど、ありがとう! 探索の準備に使わせてもらうよ」
ステータスカードから再生される、もう何百回聞いたか分からない音声に、私はベッドの上でゴロゴロと転がって身もだえる。
この音声は、私が、いや、日本全国の女性たちがドはまりしている、「バーチャル美少年ダンチューバー †ライ†」というダンジョンチューバーのスパチャ読みの音声だ。
残念ながら初回配信は見れなかったものの、掲示板で話題になっているのを知って、二回目の配信はリアルタイムで視聴出来た。
さらに、そこでついテンションが上がって500マナをスパチャしたところ、なんとなんと、配信の最後で名前を呼んでもらえたのだ。
(へっへへへ! いやぁ、この時ばかりは探索者学校通っててよかったーって思ったなぁ!)
私もダンジョンに潜っているので、500マナくらいは安いもの。
それよりもむしろ、初めてダンチューバーにスパチャをすることに密かにドキドキしていたのだが、勇気を出してよかった、と素直に思えた。
いつも一緒にダンジョンに潜ってるパーティメンバー四人の中で、第二回の配信にリアタイ出来たのは私だけ。
アーカイブを見せて自慢したら本気の殺意を向けられたけれど、後悔はしてない。
もし本当にライさんが男だった場合、冗談抜きでこれが男の人に自分の名前を呼んでもらえる、最初で最後の機会だったかもしれないのだ。
――そりゃテンション上がっちゃうし、パーティのみんなに自慢しちゃうよね!
だから私は悪くないのだ、うん。
(……別に、女の子同士で恋愛、っていうのが嫌な訳じゃないんだけどさ)
それはそれとしてやっぱり、「素敵な男性と出会って恋してみたい!」なんて少女漫画シチュエーションに憧れてしまうのが女の子というもの。
その証拠に、最近探索者に対して行われた「女性同士の恋愛についてどう思いますか?」というアンケートでは、
・興味がある もしくは今している 23%
・積極的にしたいとは思わないが、告白されたら考える 32%
・自分ではするつもりはないが、抵抗感はない 40%
・強い嫌悪感がある 5%
と、恋愛対象に積極的に女性を選ぶ人の割合は探索者でも2割ちょっと。
消極的な賛成を入れても全体として半分程度で、男性との出会いのチャンスなんてないことは頭では分かっていても、そう簡単に割り切れない人の方が多いというのが探索者の実情だ。
実際、チームメンバーにその話を振った時も、
「いや、どう考えても女より男っしょ!」
と意見が一致、そこからどんなシチュエーションで男に告白されたいかで盛り上がった。
あ、いや、私と一番仲がよくて、チームで一番奥手な未来だけは、
「そ、そうだよね。わたしもそんな感じ……かな」
と照れ臭いのか顔を伏せていたけど、その後の告白シチュの話にはあからさまに聞き耳を立てていたので、男に興味津々なのは丸分かりだ。
(というか、理不尽な話だよね!)
探索者、というのは子供の憧れの職業の一つだ。
日本に生きる人々のために命を懸けて戦う英雄、なんて言われているし、単純にかっこいい。
特に有名ダンジョンチューバーにでもなれば、知名度は全国規模になるし、現金収入も相応に上がる。
一獲千金の夢のある職業……とは言われている。
ただ、その代償として……。
(男の人との出会いがまっっっったくなくなるけどね!)
十二歳で戦闘ジョブに目覚めた途端、探索者学校に隔離。
命を懸けてお国のために戦っても、強くなればなるほど魔力が強くなり、男性との縁は遠のいていく始末。
(ほんっと、報われないったらさ!)
今のところ探索活動は順調。
探索者学校に通いながらなので本格的に活動はしていないものの、すでに高校生のお小遣いの範囲を超える程度には現金も稼いでいる。
それでも、もし普通の生活に戻れるなら戻りたいと、私は思う。
私だってまだ高校一年生。
化け物相手のチャンバラよりも、男の人相手にキュンキュンしていたいのだ。
まあ、その話を親友の未来にしたら、
「わ、わたしは華ちゃん……と、あ、あと、チームのみんなと出会えたから、探索者になれてよかったと思ってるよ」
と顔を真っ赤にして力説していたので、とりあえず抱きしめて頭を撫でくり撫でくりしておいたが、まあそういう一部の性格が天使すぎる子を除けば、探索者はみんな私と似たようなことを思っているはずだ。
(ライ様も、しばらくは配信しないって言うし……)
第三回配信の時、「次はお買い物配信をする」と約束をしてくれたが、なんでも新学期の準備で忙しいから、それが落ち着いてから配信再開の予定らしい。
(でも、新学期の準備が忙しいってことは、ライ様はやっぱり、探索者学校には通ってないのかな?)
ジョブには十二歳で目覚めるため、探索者学校は大抵が中高一貫校だ。
中三から高一になるのに、特に準備するものなんて……。
「え?」
なんてことを考えていると、ステータスカードがメールの着信を知らせる。
「……え? 学校から?」
それも、重要事項を報せる時しかこない、校長名義のメールだ。
私は慌ててメールを開いた。
『このメールは、来年度に高等部一年Aクラスに在籍予定で、意識調査票に「男性と一緒に授業を受けることに抵抗がない」と回答した生徒全てに送信しております。来年度より、高等部一年Aクラスを、男子生徒一名を加えた「特別編成クラス」とする計画があります。「特別編成クラス」へ参加希望の方は、明日13時から開催する説明会に必ずお越しください』
メールを読む。
ゴシゴシと目をこする。
そしてまた、メールを読む。
「……だんし、せいと?」
あまりにありえない単語に、思わずメールを三度見する。
でも、そこに書かれている文字は、変わらなかった。
「おわっ、おわ、おわわわわわわっ!?」
驚きのあまり、口から今まで出したことのないような、変な声が漏れる。
だけど、この非常事態の中ではそんなことはまるで気にならなかった。
だって、もし……。
もしこの連絡が、本当なら……。
――私の青春、始まっちゃったかもしれない!!




