第23話 営業
――探索者学校とは、文字通り探索者を育成するための特別な学校だ。
ただし、ダンジョン探索のノウハウだけを教える探索者塾などとは違い、一般教育の授業もあって高卒資格も得られるため、普通の学校と雰囲気は近い……と雑談掲示板に書いてあった。
そもそも男はダンジョンに入れないため、探索者にはなれない。
なのにどうして探索者学校に通うという話になるかというと、探索者学校には「魔力が強すぎる戦闘ジョブ持ちを隔離する施設」という側面もあるからだ。
隔離なんて言ってしまうと、まるで戦闘ジョブ持ちの人を厄介者扱いしているようだが、これは「戦闘ジョブ持ちって強いし、暴力沙汰を起こしそうだから怖い」みたいな偏見からくるものではなく、もっと現実的な話。
大半の男性や体質的に魔力に弱い一部の女性は、高レベル探索者や戦闘職に覚醒した人の近くにいると魔力酔いを起こすことがあり、場合によってはそれが原因で死に至ることもあるからだ。
(レベルを上げた探索者は、もう人類とは別の種族、なんて言う人もいるくらいだからなぁ)
なので戦闘ジョブに覚醒した人は通える学校や職場に制限がかかるのだが、これは女性だけでなく、戦闘ジョブに目覚めた男性も同じだ。
だからその受け皿として、「探索者学校に男も通えるようにするべきだ」という意見は強く、すでに法整備はされているそうだ。
ただ、男性で戦闘ジョブに覚醒する者はごくごく少数で、さらにその中で探索者学校に通いたい、なんて希望する人はさらに少ない。
そこで、今回はそのモデルケースとして僕に白羽の矢が立ったという話だった。
しかも、条件はかなりいい。
向こうからお願いされていることなので、授業料などの費用は学園持ち。
探索者学校では午前に普通の座学、午後に探索者関連の実技をやるらしいが、僕は探索者にはなれないので午後の授業は自由参加。
代わりに課題をこなさなきゃいけない、みたいな話でもなく、午後の授業は完全免除。
要するに、午前中だけ授業に出れば、午後は自由時間にしていいらしい。
(まさに僕が望んでいた環境じゃないか!)
今までのダンジョン探索は、ゲーム知識と掲示板の情報だけで進んでいたためちゃんとした情報源が欲しかったし、午前中だけで学校が終わるなら午後に大手を振って配信活動が出来る。
何より、学園に通っている男性は僕一人という、前世に読んでいたアニメや漫画みたいな状況。
前世からの夢だったモテモテハーレム学園生活を目指すなら、これ以上の環境はない!
僕は猛反対する家族たちを押し切って、探索者学園に入学することを決めた。
※ ※ ※
諸々の入学手続きやら、魔力耐性チェックやら、思ったよりも面倒なことを終えて、ついに僕は今世初の学校に通えることになった。
……とは言っても、正式に入学した訳ではなく、今回は体験入学。
春休み中にある学園の登校日に合わせて、一日だけ学校に行ってみるというお試し登校だ。
「レイくん、本当に行くの? 提案しておいてなんだけど、あんな掃きだめにわざわざレイくんが通わなくても……」
「だ、大丈夫だって、母さん。あと掃きだめは言い過ぎだよ」
「でも……」
ついでに言うと、今日は母親同伴。
この年になって親と一緒に登校は普通に恥ずかしいが、
「レイくんを一人で獣の群れに放り込む訳にはいきません!」
と断固として譲らなかったため、今日だけという条件でついてきてもらうことになった。
ジョブは一般に12才に調べ、そこから適性のある子は探索者学校に放り込まれるのが通例。
だから僕が通う予定の〈聖炎学園〉も中高一貫で、入学式はまだだけれど、もう僕が入るクラスのメンバーも決まっているらしい。
下駄箱で靴を履き替え、廊下を抜けて職員室へ。
教室までついてこようとする母さんを必死で止めて、担任の先生(若くて美人)に教室に案内され、いよいよクラスメイトとの対面になる。
(流石に緊張するなぁ……)
クラスメイト全員が女子の中に、男が一人。
なんだかんだ言って人は異物を嫌うし、前世だったら百パーセントいじめられるような状況だ。
(……でも、今世の人たちってみんな優しいし、大丈夫だよね?)
ダンジョンが人を団結させたのか、あるいは魔力が人を進化させたのか、家族を含め、街で会った人は大体みんなびっくりするくらい美人で、しかも一人残らず親切だった。
だからきっと、いじめられることはない、と信じる!
勇気を振り絞り、扉に手をかける。
(さぁ、いよいよだ!!)
僕は勢いよく扉を開き、教室に一歩を踏み出す。
男女比が10対1の世界。
しかもさらに男が少ない探索者界隈。
――女子しかいない教室に、男子が一人だけ。
そうすると何が起こるかなんて、決まっている。
その答えは、当然――
「ユリカ、すきすきー」
「うふふ。わたしも好きよ、ミヤ」
「今日も君は芸術品のように美しいね。その瞳に吸い込まれてしまいそうだよ」
「そんな、あなたの方がずっと綺麗よ」
「そ、その、さ。ハナちゃん。今日の放課後、デ、デ、デート、しない?」
「もちろん! いつもの喫茶店でいい?」
「あーん。……どう、おいしい?」
「う、うん。じゃあこっちもお返しに、あーん」
「み、みっちゃんは今日も、び、びじんだなぁ」
「や、やめてよのりちゃん。も、もおーてれちゃうなー」
「ね、ね、ちゅーしよ、ちゅー」
「は? あ、いや、こんな人前で、そんなの出来るワケないでしょ! 離れて……はな……放せコラ殺すぞ☆」
「今日のミサキは一段と気合が入っているね。馬子にもいしょ……ううん、とても素敵よ」
「ふふふ、ユキノこそ。普段は化粧なんて全くしないのに急に色気づいてどう……な、なぁんて、すごく綺麗よ」
「ナナ! 実はあたし、昔からナナのこと……」
「わ、わたしも……!」
――そうだね、百合だね!!
教室中、どこを見回しても、百合、百合、百合。
流石に全員が全員恋仲ということもないだろうが、驚くべきことに、クラスにいる女子全てが隣にいる女子相手にイチャついているようだった。
(姉さんの言ってたこと、本当だったのか……)
実は僕の姉さんである久利須 優理は現在、聖炎学園高等部三年生。
だから僕は、先輩である姉さんに、学校についての話を聞いたのだ。
そうすると姉さんは、目をぐるぐるさせながらこう答えた。
「た、探索者の女の子ってみんな女の子同士でくっついてるから、レイくんが行っても仲間外れになっちゃうんじゃないかな」
と。
いくらパラレルワールドだって、そんなめちゃくちゃな話がある訳ない。
僕はそう思っていたんだけど、これを見たら納得するしかない。
(……これも全部、魔力の影響、か)
魔力によって男女比がおかしくなって、日本の人口は激減するかと思われた。
いや、実際に人口は減少の一途をたどったが、魔力によって激減した人口は、魔力によってまた、持ち直すことになる。
その原因が、魔力によるゲームシステムの再現。
――アドサガのシステムの一つ、「結婚・出産システム」が現実世界にも適用されたのだ。
これは、プレイヤーキャラ二人が教会に行くと結婚が出来て、さらに結婚した二人が「仲良しの部屋」に入ると、二人の能力をわずかに受け継いだ子供を授かれるというものだ。
重要なのは、この結婚システムは最初は異性のペアでなくてはいけなかったが、のちに要望によって「女性同士で結婚、出産」することが可能になったということ。
まあ、流石にゲーム方式の「部屋に入ったらいきなり子供を抱えて出てくる」というのは人々の理性がブレーキをかけたのか、単純に妊娠するだけに留まったようだけれど、このシステムが現実世界に実装されたことにより、女性同士で子供を産めるようになった。
(だから、女性同士の恋愛も前世とは比べ物にならないくらい多い、とは聞いていたけど……)
こうしてクラス中が女性同士でイチャイチャとしているのを見ると、流石に驚いてしまう。
姉さんが言うには、若い女性、特に探索者の間では女性同士の恋愛はもう一般的。
その証拠に、最近の女性同士の恋愛について尋ねたアンケートでは、女性同士の恋愛について否定的な意見を持っている人間は、全体のたった五パーセントしかいなかったらしい。
(まあ、百年も男性不足が続けばそうもなるか)
男性との恋愛が全くなくなった、とは信じたくはないけれど、女性同士で子供が作れるなら、男性と無理に恋愛する必要はない。
男性への注目度が低くなるのも当然だろう。
(モテモテハーレム生活、したかったなぁ……)
そう嘆いてみても、状況は変わらない。
初日に思った通り、どうやらこの異世界転生は欠陥品みたいだ。
「はい! それじゃあホームルーム始めますよ!」
その後、担任が入ってきてイチャイチャタイムは終了したものの、連絡事項や僕の自己紹介の時も、特にモテイベントが起こることはなく……。
あっさりと、あまりにもあっさりと、僕の体験入学は何も起こらず終わってしまった。
失意のうちに職員室に戻ると、母さんから、
「レイくん大丈夫!? 変なことされなかった!?」
と必死の形相で聞かれたけれど、本当に、悲しいほどに何もなかった僕は、
「――みんな真面目な人ばっかりだったからね。そんな心配なさそうだったよ」
少しだけ見栄を張って、登校初日を終えたのだった。
百合の楽園!
次回、舞台裏です!!




