第9話 ー 祝勝会
肉が焼ける音と共に、美味しそうな香りが広がる。
炭の上で滴る油がぱちぱちと弾け、その煙が鼻をくすぐった。
俺たちはボブゴブリン討伐の帰り、街の外れにある串焼き屋で祝勝を挙げていた。
「俺は田舎の村生まれだ。」
俺がそう言うと、弓士ミナが小皿のサラダを摘みながら頷く。
「私も同じ感じ。お父さんが狩人で、弓の使い方を教えてもらったの。」
「へぇ〜、やっぱ血筋ってあるんだな。」
槍士ソウが笑いながら、自分の串を掲げた。
「俺なんか畑仕事ばっかだったからさ。槍振るより鍬の方が得意だったんだぜ。」
「それでよく槍士になったな。」と剣士タクマが呆れたように笑う。
「でも確かに、あの突進の踏み込み、鍬を振る勢いに似てるかもな。」
「なるほど、耕すつもりでゴブリン突いてたのか。」
カイが冷静に突っ込むと、場がどっと笑いに包まれた。
「カイは? どんなとこ出身なの?」
ミナが尋ねると、リーダーは少し黙ってから答える。
「俺も平民の出。親父が鍛冶屋で、母さんが薬草屋だった。
小さい頃から、鉄と薬の匂いの中で育ったんだ。」
「へぇ〜、なんか意外!」
エルが目を丸くする。
「てっきり、カイはお城の騎士団出身かと思ってた。」
「そんな柄じゃないさ。剣の素振りは、隣のじいさんに教わっただけだ。」
「それでも今じゃ俺たちのリーダーだもんな。」
タクマが焼き上がった肉を頬張りながら言う。
「オレ、あの時のゴブリン斬り、忘れねぇぞ。まじでかっけぇ!」
「お前は突っ込みすぎなんだよ。」
カイが苦笑する。
「次の戦いでは、俺が援護に回るから、もう少し慎重になれ。」
「へいへい。……でもよ、あの時のフジタカの動きもヤバかったぞ。」
タクマが俺の方を指差す。
「鉈一本であの太い首を叩っ斬るとか見たことねぇ。」
「いや、たまたまだよ。」
俺は笑ってごまかす。
「熊狩りで似たようなことしたことあるだけ。」
「熊!?」
全員の声が重なった。
「うっそだろ……熊って、討伐ランクD相当だぜ?」
マークが目を丸くする。
「……田舎の熊は、もっと優しかったけどな。」
沈黙の後、カイが肩をすくめて笑う。
「フジタカ、やっぱお前……変わってるな。」
「はは、褒め言葉として受け取っとくよ。」
ミナがくすっと笑って、焼き串をこちらに差し出した。
「じゃあ、今日の功労者に一本。これ、鶏とタレの特上。」
「ありがとな。」
俺はそれを受け取り、香ばしい香りを噛みしめる。
炭火の熱が、少しだけ心を温めた。
カイが静かにグラスを掲げた。
「次も、全員で帰ってこよう。――黄金の剣、乾杯!」
「おうッ!」
若者たちの声が、夜の屋台に弾けた。




