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第8話 ー ボブゴブリン


カイが呟く。


「ボブゴブリンだ……。」


その名を聞いた瞬間、背筋に電流が走った。


ボブゴブリン――お爺さんから何度も聞かされた名。


“あれに出くわしたら逃げろ。熊と同じ力を持つ。”


ゴブリンの中でも特に厄介で、単体で村を壊すこともある。


脅威度ランクは――D級。


だが、俺のスキル《経験値嗅覚》が騒いでいる。


鼻の奥が焼けるような刺激。


これは確実に……“経験値の匂い”だ。


「コイツを倒せば……やっと……やっと――!!」


胸の奥から湧き上がる高揚が、理性を焼き尽くす。


「レベルアップが出来るぞ!!」


「「「「ッ!?!?」」」」


仲間たちが一斉に俺を見る。


目が、何かを言いたげだ。


けれどもう、止まらない。


その瞬間、ボブゴブリンが咆哮した。


空気が震える。地面が鳴る。


――戦闘開始だ。



「待てフジタカ!!」


カイの声を背に、俺は地を蹴った。


土を踏みしめた瞬間、体が跳ねるように前へ飛ぶ。


ボブゴブリンがこちらを振り返る。


その瞳は真紅、棍棒が唸りを上げて振り下ろされた。


「グギャアアアアアア!!!」


咆哮と同時に、衝撃波が来る。


前髪がなびくほどの風圧。


横に飛び込み、間一髪で回避。


ドガァンッ!!!


岩肌が砕け、破片が飛び散った。


頬をかすめた石片が切り傷を残す。


「でけぇ……っ!」


心臓が速く打つ。


怖いはずなのに、笑っていた。


目の前の巨体、すべてが“経験値”に見える。


「うおおおおおおッ!!!」


鉈を構えて駆ける。


右足で踏み込み、左脇腹へ斬撃。


ザシュッ!


だが、刃は浅く止まる。


皮膚が硬すぎる。


反撃の棍棒が唸りを上げた。


「っぐぅあああ!!!」


腕で受けるが、骨がきしむ。


全身が吹き飛び、岩壁に叩きつけられる。


肺の空気が抜けた。


「フジタカ!!」


カイの声。だが聞こえない。


頭の奥で、血が波打つ。


目の前のボブゴブリンが再び棍棒を構える。


(まだ、だ……まだ終わっちゃいねぇ!!)


地を蹴り、鉈を振り上げる。


足を狙う。低い体勢。


ズバッ!


膝裏に刃が食い込む。


黒い血が噴き出し、ボブゴブリンの巨体がわずかに揺らいだ。


「グギャアアア!!!」


怒り狂った咆哮。


その瞬間――


「今だ! 撃てッ!!」


カイの声が響く。


背後から、ミーナの矢が飛ぶ。


ピシィッ!


矢がボブゴブリンの右目に突き刺さった。


「ギャァアア!!」


怯んだ巨体に、カイと仲間が突っ込む。


槍が胸を、剣が脇腹を穿つ。


俺も叫びながら、跳び込んだ。


「喰らええええッ!!!」


鉈を逆手に構え、首筋めがけて全力で斬り上げる。


ガシュッ!!


鈍い音とともに、血飛沫が散る。


ボブゴブリンの咆哮が止まり、巨体がぐらりと傾いだ。


次の瞬間――どさり。


地面が震えた。


「……倒した、のか……?」


誰もが息を呑む。

俺は荒い息をつきながら立ち尽くした。


そして、耳の奥で聞こえる。


『テレレンッ! レベルアップしました!』


《12Lv → 13Lv》


笑みが零れた。


「……っは、はは……やった……!」


カイが駆け寄り、俺の肩を掴む。


「馬鹿野郎、死ぬ気か!」


「……へへ、でも……レベル上がった……」


呟きながら、俺はボブゴブリンの棍棒を見た。


自分の鉈より三倍は長い。

あの一撃を、遠くから撃ち落とす力。


(――リーチが、足りない。)


その瞬間、頭の奥で形が浮かんだ。


長い柄。


突き刺す穂先。


“槍”。


俺は血まみれの手で空を掴みながら呟いた。


「……次は……届かせる。」



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