表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/59

第6話 ー パーティーを組む


冒険者ギルドの掲示板には、羊皮紙が無数に貼られていた。


魔物討伐、素材採取、護衛、採掘……。どれも報酬は銀貨数枚。


だが、俺のような新米には十分だ。


そんな時、背後から声がかかった。


「おい、新顔だな?」


振り向くと、三人組の青年たちが立っていた。


革鎧を着て、腰には剣。年の頃は14から16。


中心にいる金髪の男が笑う。


「俺たち〈黄金の剣〉ってパーティーでやってる。

今メンバーを増やそうと思ってな。

お前、何が出来る?」


「弓と鉈と槍、罠も作れるし……狩人としての技能なら大体は。」


「ほう、狩人か。ちょうどいい。今日、表層潜りの依頼が出てるんだ。一緒に行こうぜ。」


軽い口調だったが、悪意は感じない。

俺は少し考えてから頷いた。


「……いいですよ。ダンジョン、興味ありましたし。」


彼らは嬉しそうに頷くと、肩を叩いてきた。


「決まりだな。よろしくな、新入り!」


こうして俺は〈黄金の剣〉の一員として、初めて“パーティー”を組んだ。



街の外れ、巨大なクレーターのように口を開けた“グレイア洞窟ダンジョン”。


それがこの街の名を知らしめた大ダンジョンだった。


この街はこの大ダンジョンと共に経済が発展していき、今に至る。


冷たい風が吹き上がり、底の見えない暗闇からは、湿った土と鉄の匂いが漂ってくる。


「ここが……ダンジョンか。」


胸の奥が少しだけ高鳴る。

未知への恐怖と、狩人としての本能が混ざり合う感覚。


「目標は表層のゴブリンだ。手分けして――」


リーダーの指示が終わる前に、俺はすでに弓を構えていた。


暗がりに、二つの赤い光が動く。


矢を放つ。


弦が鳴る音とほぼ同時に、ゴブリンの額へと突き刺さった。


「っ……今の、見えたか?」


「おい、こいつ……かなりやるぞ。」


初めてのパーティー戦。


だが、俺の体はいつも通り冷静だった。


ゴブリンを狩りながら、俺は静かに理解した。


――俺は、思っていたより強い。



洞窟に足を踏み入れると、空気が変わった。


湿り気を帯びた冷気と、遠くから響く金属音。


どこかで誰かが戦っているのか、それとも何かが岩を叩いているのか。


先頭を歩くリーダーの青年――金髪の男、カイルが言う。


「ゴブリンは群れる。見つけたら合図な。突っ込む前に陣形を整えるぞ。」


「了解。」


俺は短く返しながら周囲を見渡した。


岩壁の陰、足跡、血の染み。


動物の巣とは違う、人工的な通路が奥へと続いている。


――カサッ。


音がした。


次の瞬間、緑色の影が飛び出してきた。


「来た!」


カイルが叫ぶより早く、俺は弓を引いた。


放った矢が、飛びかかってきたゴブリンの喉を正確に貫く。


倒れる音と同時に、さらに二体、奥から姿を現した。


「二時方向! 三体目、背後!」


「うわっ!? ま、待てって!」


臆病そうな魔法使いの青年が慌てて詠唱を始めるが、声が震えて呪文が乱れる。


ゴブリンが跳びかかり――俺は腰の鉈を抜いた。


「っ!」


斬り上げ。


喉を裂き、体を返して迫ってきている背後の一体の頭蓋を叩き割る。


鉈は乱暴な使い方をしても問題ない。


鈍い感触。骨を貫いた。


「お、おい……速すぎだろ……」


カイルが呆気に取られていた。


俺は血を払うように鉈を引き抜き、淡々と答える。


「狩りと同じです。動きを読んで、止めるだけ。」


その一言に、仲間たちは息を呑んだ。


戦闘はそれで終わった。


だが、空気は微妙に変わっていた。



「お前、訓練兵か何かだったのか?」


帰り道、カイルが尋ねた。


「いいえ。ただの狩人です。」


「……そうか。まあ助かったよ。だが、次からは勝手に動くな。

隊には隊の動きがある。合わせねぇと、事故る。」


忠告というより、少しの苛立ちを含んだ声だった。


「はい。気をつけます。」


口ではそう答えたが、心の中では別の声が響いていた。


(合わせる……か。)


俺の狩りは、常に一人だった。


息を殺し、罠を張り、相手の呼吸を読む。


誰かに合わせるより、自分で完結する方が速い。


ギルドの門を出た時、カイルたちは軽く手を上げた。


「また行こうぜ、狩人。」


「……ええ。」


笑顔を作って返したが、胸の奥に引っかかりが残った。


――俺は、誰かと組むのが向いてないのかもしれない。


そう思いながら、夕暮れの街を歩いた。


空は茜に染まり、遠くで鐘の音が響いていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ