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第50話 ー 噂と沈黙


《受付嬢視点》


夕焼けの窓、紙と麻紐の匂い。


私はいつも通り、業務を全うする。


毒針を麻紙へ、外殻を油紙へ。


最後の袋を開けた瞬間、息が止まる。


これは……アシッド・センティピードの双顎?


切断は綺麗、酸焼けもあり偽物とは思えない。


強力な酸も土灰で中和されており、丁寧な処理が施されていた。


「これは、どなたが?」


「私達です。」


三人の声は揃い、目は泳がない。


その瞬間、聞き耳を立てていた者達によって広間はざわつく。


揶揄、硬貨の音。


「……少々お待ち下さい。確認が必要ですので。」


私は営業の笑みを置き、奥へ下がる。


駆け足で向かった支部長室で事実だけを報告をした。


年齢、等級、提出物、そして双顎。


ゴレアス様は机をこん、と二度。立ち上がった。


予想通り――審査が始まる。


このような事は偶に起きるのだ。


ランク上げを目論んだ裕福なボンボンが金で購入した高位の魔物の素材を、さも自身が討伐したかのように提示する。


このような場合、大体面倒な金にもならない揉め事が起きる。


はぁ、またか。


私はため息を漏らした。


広間に戻ると空気が止まった。


支部長の低い声が静かに響く。


「ギルド規程第十二条。実力審査を求められた者は、これを拒めない」


「受けます。」


槍の青年が即答。


剣士の少女は喉を鳴らし、術師は半歩下がって呼吸を整える。


自身ある者の眼をしていた。


相手は《銀の角》。


武器・魔法自由、殺しなし。報酬は保留――ざわめきが増す。


私は書類を揃え、救護と審判の段取りを飛ばす。


三人の顔を見て、心の内でだけ囁く。


――無理はしないで。


誰も実力不足の若者を虐めたいとは思わない。


三十分後、訓練場。


記録席の紙に、彼らのための一行を空けて待つ。



《ルーベント支部長視点》


夕刻は血も酒も紛れるように赤い。


だが、疑いを一つ足した。


アシッド・センティピードの双顎は本物。


切り口は臆病な腕じゃない。


土灰の打ち方も良く、16歳とは思えぬ程の知識がある。


次に見るのは“経路”だ。


委任、横流し、拾得隠し――信用は何よりも大事だ。


ふむ、また……か。


俺は偶に起こる恒例の事件を連想した。


受付嬢を連れ、広間へやってきた。


波のような噂は、先に落ちる声で鎮める。


「本物だ。だが“誰の手柄か”は別だ。規程十二条、実力審査だ」


反応を見る。


槍は目が逃げない。


剣士は怖れを飲み込む。


術師は下がって整え、戻る。


予想外にも……自信ある者の反応だった。


相手はC級パーティーの《銀の角》。


止めるべき所で止め、甘やかさないベテラン連中だ。


全員が40歳を超えて家庭を持っている。


だから、ルーベント都市に腰を下ろし、このような面倒ごとも引き受けてくれる。


線を引く。武器・魔法自由、殺しなし。俺が審判。


報酬は保留、合格なら上乗せ、落ちても没収はしない。記録は冷たく、公平に。


「若い今、ここで“名”が付く。」


自分にもそんな夜があった。


名は重いが、立場の骨組みになる。


三十分。


短ければ準備不足、長ければ走れ。


俺は訓練場で、それを見て印を押す。


ただそれだけ……。


まぁ、いつも通り蹂躙されて終わりだろう。



その結末した者は誰1人としていなかった。


まさか、ぽっとでの若者がベテランC級冒険者に認められるなんて。




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