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第5話 ー 旅立ち


俺は15歳になった。


お爺さんに仕込まれた狩りの技術は、もう一人前と呼べるほどに磨かれている。


毎日、弓を引き、罠を仕掛け、獲物を狩る。


だが——獲物は無限じゃない。


「狩り過ぎれば、森が死ぬ。森が死ねば、村も死ぬ。」


お爺さんの言葉が耳に残っている。


その教えを守り、獲物を控えるようにしてからというもの、レベルの伸びは止まってしまった。


《6Lv → 12Lv》


鹿を十頭倒しても、もう経験値はほとんど入らない。


一度だけ熊を仕留めた時には一気にレベルが上がった。


たぶん、より強いものを倒さなければ成長できないのだろう。


だが、熊なんてそうそう見つからない。


森を歩き尽くしても気配はなく、俺は思った。


(この村じゃ、もう限界か……)


だから、旅立つことを決めた。



両親とお爺さんには、もう挨拶を済ませた。


父は言った。


「街へ行け。稼いで、家に金を送ってこい。」


母は笑っていた。


「しっかり食べて、寝るのを忘れちゃだめよ。」


……俺には弟が二人いる。


賑やかな家族だが、正直、子供の相手は得意じゃない。


別れの時も、弟たちはただ呆然と俺を見ていた。


そして、お爺さん。


旅立ちの日の朝、家の前で静かに言った。


「まだ若い。冒険者になって、世界を見てこい。」


そう言って、俺が借りていた古い鉈を差し出した。


柄の部分が削れて、手にぴたりと馴染む。


「いつでも戻ってこい」


その言葉が、胸の奥に温かく残った。



定期便の荷馬車に揺られて、昼過ぎには街に着いた。


名前は〈ベネルト〉。周辺では一番大きな交易都市らしい。


村の家十軒分はあろうかという石造りの門をくぐると、人と馬と獣の匂いが混ざり合って鼻を突いた。


行商人が声を張り上げ、革職人が品を並べ、子供たちが駆け抜け、兵士が巡回している。


俺が知っていた“世界”は、どうやら村の外にもう一つ存在していたらしい。


(これが……街、か。)


背中の荷を少し持ち直し、通りの中央を歩いた。


道の先には、灰色の石と木でできた大きな建物が見える。


壁には剣と翼の紋章。


入口には「冒険者ギルド」の文字。


中に入ると、空気が一気に変わった。


酒と鉄と革の匂い、ざわめき、笑い声。


奥の掲示板には羊皮紙がびっしりと貼られていて、冒険者たちが群がっている。


革鎧、鎖帷子、ローブ。


どの顔にも、戦場帰りのような傷と疲れが刻まれていた。


俺は、受付の列の最後尾に並んだ。


前の男がカウンターで怒鳴っている。


「報酬が少なすぎる! あの魔物はB級だぞ!」


受付嬢は慣れた口調で、


「報告内容と照合した結果、正式にはC級認定です」


と淡々と返していた。


(これが、冒険者……。)


ようやく俺の番が来た。


受付の女性は明るい栗色の髪を後ろで束ねていて、目尻には薄く疲れが見えるが、笑顔は柔らかい。


「いらっしゃいませ。登録ですか?」


「はい。今日から冒険者になりたくて来ました。」


「ではこちらの用紙に名前と年齢をお願いします。武器の種類も記入してくださいね。」


羊皮紙の登録書を渡される。


筆を取る手が少し震えた。


——名前:リュウマ・フジタカ

——年齢:15歳

——使用武器:弓、鉈


「ありがとうございます。こちらに手を置いてください。」


机の上に金属板が置かれた。


中心には紋章のような刻印。


手をかざすと、微かな熱と共に青い光が浮かぶ。


『冒険者登録を確認しました。ランクEでの認可が完了しました。』


どこからともなく、機械のような声が響く。


光が消えると、銅色の小さなプレートが机の上に残った。


そこには俺の名前と〈E級〉の刻印。


「これが冒険者証です。なくさないようにしてくださいね。

依頼はそちらの掲示板から自由に選べます。

最初は安全な討伐か採取依頼をおすすめします。」


「……ありがとうございます。」


プレートを受け取り、手のひらに重みを感じた。


わずか十数グラムの金属なのに、それは俺にとって“生き方”そのものに変わる証だった。


背後では、誰かが報告を終えて笑いながら仲間と肩を叩き合っている。


自分も、いつかあの輪に混ざる日が来るのだろうか。


ギルドの外に出ると、陽は傾き始めていた。


石畳の道に長く影が伸びる。


初めての街の喧騒の中、俺は一人、冒険者としての“最初の一歩”を踏み出した。



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