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第42話 ー 血に濡れた女騎士

第42話 ー 血に濡れた女騎士


ーー《ルーベントダンジョン 第13層》


フジタカ《36Lv → 40Lv》


エリナ《30Lv → 35Lv》


ノワール《28Lv → 32Lv》


ーーー


地面を漂う黒い瘴気が見える。


まるで呼吸をしているように、岩肌の裂け目からゆらりと立ち上り、空気そのものを黒く染めていた。


「……ここ、空気が重い。」


エリナが眉をしかめる。


吐く息がすぐに白く濁り、金の髪が湿気で貼りつく。


フジタカは槍の石突で地面を突き、軽く振るう。


硫黄のような匂いが鼻を刺した。


「瘴気濃度が上がってるな。」


ノワールが魔法灯を掲げた。


淡い紫の光が闇を照らし、壁の奥に乾いた血の跡が浮かび上がる。


手形、靴跡、斬撃の痕。


まるで誰かが“逃げながら戦った”ような形跡。


「冒険者の……遺跡跡?」


「いや、違う。」


フジタカは足元の泥を掬い、指で擦った。


黒ずんだ液が鉄の匂いを放つ。


「これは“まだ乾いてない血”だ。」


風が吹き抜け、灯火が一瞬揺らめく。


奥から、鎧が擦れるような微かな音。


カン、カン――と、何かがゆっくり歩いてくる。


ノワールが杖を構え、エリナが弓を引いた。


闇の中から現れたのは――銀灰の鎧に、血を浴びた女だった。


鎧の隙間から黒い液が滴り、長い灰髪が肩に張り付いている。


だが、その瞳は驚くほど澄んでいた。


焼けた鋼のような青。


フジタカが一歩前に出る。


「……誰だ。」


女は立ち止まり、槍の穂先を見つめた。


そして、掠れた声で呟く。


「あぁ、巻き込んでしまいます。」


その瞬間、彼女の背後ーー闇で“何か”が蠢いた。


フジタカが咄嗟に槍を構える。


「何かが来るぞ!!」


闇が裂け、黒い翅を持つ魔蟲ーーポイズンビーが群れとなって飛び出す。


瘴気をまとい、地面を焦がしながら迫ってきた。


女騎士は一歩踏み出し、血に濡れた剣を抜いた。


その刃に、淡い青光が灯る。


「……退いてください。これは、私が”仕留める”べきものです。」


そして彼女は、風のように駆けた。



女騎士の足音が、一瞬で掻き消えた。


次に見えたのは、青白い閃光だった。


細剣が弧を描き、飛来する魔蟲の群れを貫く。


硬い翅が割れ、腐食した液が床に飛び散る。


「……速い。」


フジタカの口から自然と声が漏れた。


彼女の動きは、まるで数いる魔物の流れを読んでいるかのようだった。


一度も振り返らず、確実に一撃で仕留める。


剣先が走るたび、空気が切り裂かれる音が響く。


中型盾でポイズンビーの毒針を的確に防ぎ、返す曲剣ーー銀狼剣シミターが斬り裂く。


エリナが矢を放ち、ノワールが詠唱を重ねる。


「ーー《風帯》!」


強烈な突風で、ポイズンビーの動きを鈍らせる。


フジタカは機を見て突進。


槍の穂先で残ったポイズンビーを薙ぎ払い、飛沫を浴びながらも一歩も退かない。


「囲まれるぞ、退け!」


フジタカの声が響く。


だがその刹那、女騎士が低く呟いた。


「……いいえ、終わりです。」


ーー《ホリゾンタル》


蒼が弾けた。


横薙ぎの斬撃は取り囲んでいたポイズンビーを纏めて両断する。


風が爆ぜ、残っていた群れが一斉に地に落ちた。


切断された翅が散り、瘴気が霧のように薄れていく。


静寂。


残るのは、血と鉄の匂いだけだった。



フジタカは槍を下ろし、血に濡れた女騎士の横顔を見つめる。


鎧の隙間から滴る血はこれまでの魔物の返り血、それを浴びても彼女の眼は濁らなかった。


「……あんた、何者だ。」


女騎士は息を整え、静かに剣を鞘に納めた。


その仕草には、儀式のような厳かさがあった。


わたくし、セレナ様の近衛騎士ーーカレン・ローデンと申します。」


フジタカは一瞬だけ目を細めた。


「……騎士が1人、何でこんなところに。」


「ただ、竜を狩りに……。」


微笑みではない、言い切るような声。


そして彼女は、瘴気の薄れた暗闇の奥を見つめた。


「ここから先に、竜種の気配があります。」


俺は確かな運命を感じた。


逆らえない強大な流れを。


「ははっ、偶々俺達もそこを目指してるんだ。一緒に行くか?」


「それはそれは、私としても好都合です。」




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