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第37話 ー 魔法の価値


新しいメンバーを加えてのダンジョン攻略。


早朝。


俺達はルーベントダンジョン前で待ち合わせしていた。


「フジタカッ!!」


エリナのテンションは鰻登りであった。


俺の両肩に手を添え、後ろから俺の顔を覗き込むように挨拶してきたエリナ。


やたらと距離近いなこいつ。


それにテンションがウザいくらい高い。


朝からこれなら、この後はどうなるのだろうか。


「おはようエリナ。」


「うんっおはよう!!」


ツンツンッと後ろから。


振り返ると、背後にノワールが佇んでいた。


「……おはようございます。ノワールです。今日から、よろしくお願いします」


杖は彼女の背丈ほど。紫の長髪を一つにまとめ、緊張で肩が固い。


「固くならなくていいよ、役割だけ確認しよう」


俺は短く言う。


「前は俺が押す。エリナは左からカバー。ノワールは後ろ。無理はしないで行こう。」


「了解っ!」


「……はい」


門をくぐる。



湿った空気が肌に張りつく。


初層は広い通路と浅い洞室の連続だ。


冒険者の喧噪が遠のくにつれ、足音がよく響く。


「――《灯り》」


掌に小さな光球が生まれ、3人の間にふわりと浮いた。


眩しすぎない、目に優しい明度。影が柔らぐ。


(いい光だ。手元と足元が両方見える)


数歩進んだところで、床の色が変わる。


薄い土がうっすら盛り上がり、壁には目立たない穴。


「罠だ。糸式の矢穴」


俺が囁くと、ノワールが杖先で空を切る。


「ーー《風見》」


風が一筋走り、通路の端で小さく砂が舞った。見えない糸が揺れる。


「切る?」


「いや、避ける。わざわざリスクを取る必要はないよ。」


俺達は壁沿いに体を滑らせて通過。


(一本の矢でも、当たれば治療と撤退で半日飛ぶからな。)


奥から爪音、低い唸り。


コボルトが三、四……いや五。


「ノワール、補助できる?」


エリナが試すように尋ねた。


「……やってみます」


ノワールが深く息を吸う。


杖を水平に構え、短い詠唱。


「ーー《風帯》」


通路の腰の高さに、薄い風の帯が走った。


見えない紐が張られたように、先頭のコボルトの膝がすくむ。


二体目、三体目がもつれ込む。


「今!」


俺は踏み込み、倒れた一体の喉に槍を落とす。


エリナが左へ跳び、二体目の手首を払い、首筋へ水平斬り。


三体目は帯に絡んで起き上がれず、俺が突く。


残り二体が吠えて突進。


ノワールが小さく震えた。


「止めて!!」


「――《土留》!」


足元が少し盛り上がり、泥の指が生えるようにコボルトの足首を掴む。


動きが半拍鈍る。


そこへエリナが滑り込み、膝、顎、の順に二打。


俺の槍で最後の喉を貫く。


静寂、血の匂い。


俺達は息を整えた。


「……すご」


エリナが振り返り、目を丸くする。


ノワールは肩で息をして、額に汗。


だが目は少しだけ誇らしげだった。


「MP、どれくらい使った?」


「《ルーメン》小、《風見》小、《風帯》中、《土留》小……3割程度です」


「上出来だ。だがMPポーションは高い。節約していこう。」


俺は矢穴の先に視線を送る。通路の終点、暗がりに別の影が動いた。


「次は群れじゃない。単体で体格がある。……オークだな」


(今の俺たちで倒せる。)


「ノワール、さっきみたいに足を鈍らせられる?」


「……《土留》なら。」


「エリナ、右回りで背に出ろ。俺が正面でタメを引き受ける。三拍子で落とす」


「任せて!」


オークが咆哮し、突進。床が鳴った。


俺は半歩、斜め前へ。槍先を低く構え、肩を落とす。


「今!」


ノワールの土が足首を掴む。


オークの足が沈む。


エリナの影が右へ弾け、背に回る。


一拍目。

俺の穂先が太腿を刺し、動きを止める。


二拍目。

エリナの刃が腱を断つ。


三拍目。

俺が喉を貫く。


巨体が崩れ、土煙が上がった。


「……やった!」


エリナが小さく跳ねた。ノワールは胸に手を当て、こくりと頷く。


俺は槍を拭きながら言う。


「魔法は便利だな。」


「……はい。わたし、そういう魔法が得意です。」


「最高だ、体力を温存できる。」


通路の先、二層へ降りる階段に灯りが揺れている。別のパーティーの足音だ。


「今日は二層まで。無理はしない」


「了解っ!」


「……はい」


俺たちは並んで歩き出す。前、左、後ろ。三人の呼吸が少しずつ合っていく。


ダンジョンの空気は冷たい。だが、胸の中は少しだけ温かかった。




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