第36話 ー 新メンバー
とんがり帽子に丸メガネ、そして極めつけは身の丈ほどもある魔法の杖。
紫の長い髪の少女が、わずかに肩を強張らせて名乗った。
「ノワール……と申します。」
「よろしくね!!」
エリナがニッコニコで一歩踏み出して言い放つ。
初対面、しかもグイグイ詰めてくるテンション高い人……特有のその圧にノワールは一歩後ずさった。
「へっ!?よろしくお願い致します……。」
俺は苦笑いしながら言う。
「まぁまぁ、嬉しいのは分かるけど落ち着けよエリナ。」
「そ、そうね!!ごめんなさいね!!」
落ち着けと言ったのに、声が騒がしいんだよな。
私ーーノワールは初っ端から騒がしい2人を見ながら、これから上手くやっていけるかと心配になった。
私は陰キャだから。
◆
冒険者ギルドの掲示板は、朝から人だかりだった。
油の匂い、金属の軋む音、ざわめき。
視線の先に、その依頼は貼られていた。
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【依頼内容】
ルーベントダンジョン深層到達補助
【期間】三ヶ月以内
【報酬】金貨20枚
【依頼者】D級冒険者 エリナ・ヴァルス
※現パーティーメンバー:
D級冒険者 フジタカ
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無謀。
最初に浮かんだ言葉はそれだった。
メンバーもD級、きっと同世代。
三ヶ月で深層——計画としては突飛すぎる。
「深層……。」
先日、自分で立てた誓いが喉もとに戻ってくる。
『いつか必ず、深層まで辿り着く。』
彼らと私、どちらも変わらないのではないか。
いや、彼らは既に深層到達の為に動き出している。
そう考えると、私の方が彼らより劣っているだろう。
先程まで無謀だの突飛もないだの考えていた自身を恥じる。
「っ」
行動してなければ、ないも等しい。
誓いを立てても、何の意味もない。
そして、気になるのはその報酬。
金額20枚……。
心臓が一拍、強く鳴った。
え、20枚?
魔法学校に卒業までのもう1年間通えるよね?
そう。
金額20枚が、まさに残り1年間の学費の金額であった。
ここで手を伸ばさなければ、また一年、何も変わらない。
私は迷わず依頼書を剥ぎ取って受付に待っていった。




