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第35話 ― ダンジョン表層


俺とエリナは、ルーベントダンジョンの表層を順調に下っていった。


――《第3層》


崩れた柱が林立する広間で、獣臭が濃くなる。


暗がりの向こうで黄色い眼が増え、低い唸りが重なった。


先頭に立つのは、皮鎧を巻いたボブゴブリン。


周囲のゴブリンに短い号令を飛ばすと、いっせいにこちらへ雪崩れ込んでくる。


(来たな。数は十……いや十二。)


俺は一歩前に出る。


槍の石突きを床に軽く当て、間合いを測る。


「右側、狭める! 柱の陰を背にして!」


「了解!」


エリナは素早く柱際へスライドし、俺の左後ろに角度をとって構えた。


挟み込まれない位置関係――教官に叩き込まれた動きだ。


先頭の一体が飛び込む。


俺は突きの初速だけを見せて刃先を止め、逆手で槍をわずかに引く。


釣られたゴブリンが前のめりになった瞬間、喉元へ短い突き。


湿った手応え。崩れる体を、石突きで横に弾き飛ばす。


「次!」


エリナが俺の肩越しに踏み込み、斜めの一撃で二体目の手首を落とす。


悲鳴が上がる前に、体重を乗せた横薙ぎ。


肩口から刃が滑り、骨を割る音がした。


三体、四体。


勢いで押してくる群れに対し、俺は低い刺突で脚を止め、エリナが切り返しで数を削る。


狭い入口を背にさせると、連中は互いの背中にぶつかり合って動きが鈍る。


柱の影から回り込もうとした一体には、床すれすれの払いで足首を刈る。


立ち上がる前に槍の石突きを顎へ打ち込んだ。


「正面、重いの来る!」


ボブゴブリンが吠え、鉄くずみたいな棍棒を振り下ろす。


床石が欠け、衝撃が靴裏まで響いた。


(力が段違い。正面は潰される――なら、喉と膝だ。)


俺は一歩前ーーわざと懐へ入る。


槍で懐に入るのは愚策だ。


しかし、油断を誘う為の愚策。


上段からの二撃目が落ちる直前、膝へ鋭い突き。


巨体が一瞬沈む。


エリナが見逃さない。


「――はぁっ!」


彼女の刃が、肩口から斜めに走る。


ボブゴブリンの棍棒が外へ流れ、むき出しになった喉へ俺の突き。


痙攣する喉を貫き、巨体が膝から崩れた。


残りは勢いを失い、散り散りに逃げかける。


背を見せた二体を、俺は二連の投槍で壁に縫いとめた。


……静かになった。



地面に横たわるゴブリンたちから、討伐証明に必要な部位を切り取っていく。


左耳の付け根にナイフを入れ、皮ポケットに落とす。


血の匂いに、金の匂いが混ざる。


これらが飯代の金に変わる。


「ふぅ、今日はここまでにしておくか。」


「そうね!!」


エリナはいつも通り元気だ。


三十を越えた中身のおじさんは、若さってすげぇなと感心して見てしまう。


「な、なにっ?」


エリナが身じろぎして、腕で胸元を隠す。


(んっ!?)


「ち、違う違うって!?」


「あ、やっぱりそうだよね、えへへ冗談だよっ。」


にこっと笑って、俺の肩をぽすぽす叩く。


ちっ、ドルード鬼教官にバレたらぶち殺されるだろうが。


俺はまだ死にたくねぇ。


思わずしかめっ面になっていたが……。


もし誰かが外から見れば妙に“いい雰囲気”に見えていただろう。


「もう怒らないでって……行こっ!!」


エリナが帰り道へ足を踏み出す。


揺れる金髪。


思春期特有の甘い匂いが、乾いた石の空気に溶けた。


「っ」


俺は気にしていないふりで、無言のまま後に続いた。



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