第33話 ー ルーベントの門
都市のど真ん中に、世界がひと口かじられたみたいな巨大な穴が口を開けている。
その外周を、切り立った石壁がぐるりと取り囲んでいた。
魔物が這い上がる最悪の時に備えている。
壁に穿たれた唯一の扉――それが《ルーベントの門》である。
門前は朝から市のように賑やかだ。
薬草の匂い、油と金属の匂い、焼き串の香ばしさ。
地図売りの声、仲間募集の呼び込み、
装備の留め具が鳴る金属音。
観光客も冒険者もごった返し、ここだけ時間の密度が濃い。
「すごいでしょっ!!」
エリナが振り向いて笑う。
袖をちょん、と引かれ、俺も思わず見上げた。
「あぁ、こりゃデカいな……。」
開け放たれた鉄門は、首が痛くなるほど高い。
胸の奥がすうっと冷えるのに、同時に熱くなる。
不安と期待が同じ重さで揺れた。
背中に確かな重みがある。
鍛冶士ドルードから餞別にもらった鋼の槍だ。
革紐越しに、鉄の冷たさが体温を盗っていく。
「その槍をくれてやる。――絶対にエリナちゃんを死なせるなよ、小僧。」
渡された日の声が、金具の軋みと一緒に蘇る。
俺は槍の柄を握り直した。
重い。
だが、悪くない重みだ。
門は開いている。
俺たち二人のために、開かれている。
――行こう。
門の向こう側から風が吹き上げた……。




