第31話 ー 特訓初日
ドルードの罵声が容赦なく叩きつけられる。
足首を刈られ、視界が揺れる。
「重心を意識しろ馬鹿者が!!」
「カハッ!?」
ドルードによって崩された重心を立て直す前に追撃が入り、拳が鳩尾を跳ね上げる。
その時、隙を突くようにエリナの片手直剣、その切先が脇腹を裂くように伸びた。
「えっ」
しかし、ドルードはそれを肘と膝で白羽取りして、残った右足が地面を蹴り上げる。
蹴り上がった右足は勢いをそのままに、エリナを蹴り飛ばした。
「きゃっ!?」
「隙を突く時こそ油断するなっ!!」
土煙。
俺とエリナは同時に片膝をつく。
膝が笑っている。
それでも脚に力を通し、立ち上がった。
「良い度胸だフジタカ、ここで倒れるようなら、その場で斬るところだった。」
「ま……まだまだ!!」
喉が焼けるほど叫ぶ。目の前の巨岩みたいな男に、気圧されないために。
以後、短い号令と衝撃の連続だった。
「踵に乗るな、土踏まずで受けろ」
「視線を落とすな。剣先は目で追うな、肩で読む」
「一歩がでかい。半歩で殺せ」
踏み替えるたび、脛に火花が走る。
受けるたび、腕が痺れる。
エリナの息も荒い。
けれど、彼女の刃は次第にまっすぐになっていった。
俺も、転ばなくなっていった。
——ドルード鬼教官、爆誕。
◆
「……はぁ、はぁ……」
「も、無理……」
鍛錬場に二人の荒い呼吸だけが響く。
背中に汗が張り付いて、砂が皮膚に痛い。
ドルードは木剣を肩に担ぎ、区切るように言った。
「今日はここまでだ」
それだけ。
けれど、その声は妙に優しかった。
俺は膝に手をつき、空を仰ぐ。
肺が熱い。
けれど、どこか心地いい。
(まだ、行ける。ここからだ)
エリナが小さく笑った。
「……明日、もっとやれるよね」
「当たり前だ」
俺たちは無言で頷き、立ち上がった。
明日の地獄に、少しだけ期待しながら。




