第3話 ー 初めての狩り成功
日々の鍛錬は、着実に積み重なり、そして結果を生み出す。
「ふんっ!!」
ぶん投げた先端を尖らせた木の棒──いや、もう“木の槍”と呼ぼう。
それは真っ直ぐに飛び、兎の脚の付け根に突き刺さった。
「っ!! よっし!!」
俺は“初めて成功した狩り”に歓喜しながら、地面でもがく兎の長い耳を掴む。
そして木の槍を握り直し、首元をもう一度突き刺した。
肉を割る感触、生命が静まる瞬間──それが確かに、手のひらに伝わった。
『テレレンッ!! レベルアップしました!!』
《2Lv → 3Lv》
あの心地よいレベルアップ音。
脳内で弾けるような高揚感。
ドーパミンが脳を駆け巡る。
命を奪う行為が、報酬へと直結するこの世界の理。
「やっと……レベルアップしたぞ!!」
両の手を天に掲げ、誰もいない草原で勝利を叫ぶ。
その声はどこか子供じみていたが、胸の奥は確かに熱かった。
◆
そういえば、両親の紹介がまだだったな。
俺の父マサノブと母ヨシコは、揃って農業を営んでいる。
毎日、畑と太陽にまみれ、手の皮は厚く、腕は真っ黒に焼けている。
この村では、そうやって地を耕し、穀を育てるのが“当たり前”の生き方だった。
俺はその二人のもとへ、戦利品の兎を誇らしげに掲げて持っていった。
日頃の感謝を形で返すのは、大人として当然のことだ。
「どうしたんだ、その兎は」
父マサノブが振り向いて言う。
「この木の槍で狩ったんだよ! 今日の晩飯にしよう!!」
「おお、やるじゃないか。毎日棒を投げてたと思ったら……そういうことか。」
父の口元がわずかに緩む。
理性的で穏やかな人だ。俺はこの父が結構好きだ。
「アンタ、どうしたんだい」
そこへ、腰に手を当てた母ヨシコがやってきた。
俺の持つ兎をじぃっと見つめ──
「っ!? どこから盗んできたんだい!!」
「いってぇっ!?」
頭をパシンと叩かれる。
クソが。だから俺はこの母が苦手なんだ。
短絡的で、すぐ手が出る。
そのくせ後から機嫌を取るのも早い。
「フジタカが自分で狩ったそうだよ」と父が助け舟を出すと。
「え、そうなの? あら、すごいじゃないの」
と母はオホホと笑い、さっき叩いた頭を今度は撫でてきた。
「そ、そうだよ母さん……」
めんどくせぇが、まぁいい。
俺の方が精神的にも年上なんだ、ここは大人の対応をしておこう。
──何せ、この世界では俺が“10歳児”でも、
中身はもう、三十路を超えたおっさんなんだから。




