第28話 ー 鉄の審判
「――あの人たちの娘を連れて行くってのか。」
鉄を打つような低い声が落ちた。
あまりの重さに、思わず口が滑る。
「い、いや、組むのはパーティーだけで……!」
ドルードの目が細くなる。
「三ヶ月でルーベントの深層到達。お前にできるのか。」
「……(多分、無理だ)。」
視線が泳ぐ。汗が背を伝う。
「――エリナちゃんの金が目当てか。」
一歩、踏み込まれる。距離より先に、空気が詰まった。
「ち、違いますって!」
「何が違う。」
(ここで噛み合わなければ、ただじゃ済まない。)
「俺はレベル32。冒険者登録は一ヶ月前です。」
「それで? その程度で深層は無理だ。」
(今、示すのは“強さ”じゃない。“伸びしろ”だ。)
「登録時はレベル12でした。」
「えっ、うそ……!」
エリナが声を上げ、慌てて口を塞ぐ。
ドルードの視線が刺さる。
「一ヶ月で二十レベル上げました。俺は、自分を信じて、命を賭けて進むだけです。」
「その戯言を、誰が信じる。」
俺は冒険者カードを差し出した。刻まれた〈E級〉の文字。
「ギルドに照会すれば、登録日も当時のレベルも出ます。」
まっすぐ見返す。(さあ、どうだ。)
沈黙。やがて、ドルードは踵を返し、奥の扉を開けた。
「……ついてこい。」
「ど、どこへ?」
固まっていた俺たちは、その声で我に返る。
「は、はい。」
(どこに連れて行かれるんだ――。)
◆
薄暗い廊下を抜けると、砂地の鍛錬場に出た。
壁には刃を潰した剣や槍、丸盾が並んでいる。
夕方の光が斜めに差し込み、砂に長い影を落としていた。
ドルードは無言で丸首当てを着け、木剣を一本抜く。
俺の方を顎でしゃくる。
「三分、立ってみせろ。反撃はしていい。女の命を預かるってのは、口じゃない。」
(うわ、やっぱり試験だよね!?)
喉が渇く。
けど、槍を握る手は不思議と震えなかった。
「……やります。」
エリナが袖を掴み、心配そうに見上げる。
「フジタカ、無茶は――」
「大丈夫。三分“だけ”だ。」




