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第27話 ー 鉄の匂いと償い


気がつけば、俺はその依頼を――正式に“受けていた”。


書類に名前を書いた瞬間、胸の奥で何かが静かに沈んだ気がした。


正直、何で受けようと思ったのか、自分でも分からない。


面倒ごとになるのは分かってるし、ダンジョン深層なんて、命を賭ける領域だ。


なのに、断る言葉が喉の奥で消えた。


ただ――漠然と、“受けなきゃならない気がした”。


その感覚は、理屈でも情でもない。


背中を押されたような、あるいは引きずられたような……そんな曖昧な衝動だった。


(……ベネルトの、償いをしたかったのかもしれねぇな。)


思わず、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。


俺のせいで崩壊した街。


その罪悪感が、今も胸の奥に残っている。


(困ってる奴を助ければ、少しは帳消しになる――そんな風に、思ったのかもな。)


唐揚げの皿は空になっていた。


外では、日が沈みかけている。


窓越しの光が、エリナの髪を朱に染めていた。


俺は小さく息を吐いて、言った。


「……明日から準備に入る。装備と地図、それと情報を揃えておけ。」


エリナは顔を上げ、強く頷いた。


その瞳は、迷いのない光をしていた。



 エリナの案内で、街の外れにある古びた工房へと足を運んだ。


 入り口の木扉は長年の煤で黒ずみ、鉄の取っ手は手の跡で磨かれて鈍く光っている。


 開けた瞬間、焼けた鉄と油の匂いが鼻を突いた。


「おじさん!!」


エリナが声を弾ませる。


慣れたように靴音を響かせて工房の奥へ入っていく。


ほどなくして、炉の奥から煤にまみれた男が姿を現した。


肩幅の広い躯、分厚い腕。


短い髭には金属粉が入り込み、白く鈍く光っていた。


「おう、エリナちゃんじゃねぇか!」


男――鍛冶士ドルードは、煤けた手でエリナの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。


エリナは子供みたいに笑ってそれを受けた。


その光景を見て、俺は小さく息を吐く。


ここが彼女の“帰る場所の一つ”なんだろう。


「エリナちゃん、その隣にいるのは?」


ドルードの目が、俺に向く。


重たい鉄のような視線だった。


エリナは迷いなく答える。


「彼はフジタカ!! 新しい私のパーティーメンバーなのよ!」


「……ほう。」


短い一言。


だがその声には、わずかな探りが混じっていた。


「それでね! 彼は私の依頼を受けてくれたの! 凄く良い人なのよ!!」


ドルードの表情が一瞬だけ固まる。


炉の火が、パチリと音を立てた。


「…………。」


沈黙が落ちる。


鍛冶屋特有の鉄と熱の空気の中、その沈黙はやけに重かった。


俺は無意識に首筋を掻く。


ドルードの目が、さっきとは違う。


“ただの客を見る目”ではない。


(……おいおい、何だよその目。)


心の中で毒づきながらも、言葉は飲み込む。


口元だけでなく、目元まで引き攣るのが自分でも分かった。


「――あの人たちの娘を、連れて行くってのか。」


低い声が、鉄の響きみたいに落ちた。




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