第26話 ー 依頼の理由
昼時の食堂は、湯気と笑い声で溢れていた。
木製のテーブルには、油の染みがいくつも刻まれている。
俺達が腰を下ろした頃には、もう隣の席では別の冒険者が大声で酒を頼んでいた。
唐揚げ定食が二人前、湯気を立てて運ばれてくる。
腹の虫が鳴いたのを誤魔化すように、俺は手を合わせた。
「いただきます。」
カリッという衣の音が、妙に心地良い。
そんな俺を前に、向かいの少女――エリナが、目を輝かせて言った。
「狩人だったんですね!!」
「あぁ、師匠には一人前って言われてる。」
エリナは、両手を胸の前で握りしめた。
「それに罠も作れて、弓も扱えて、槍も使えるんですよね!?」
「まぁ……一応な。」
「すごい! 本当に頼もしいです! 依頼を受けてくださってありがとうございます!!」
……うん。
俺は口元がひきつるのを感じた。
「いや、その……まだ“受ける”とは言ってねぇけど。」
「あ、そ、そうですよね!これからですよね!!」
明るい。いや、明るすぎる。
目が眩むほどの元気さに、俺の胃がちょっと縮んだ気がした。
(この圧……苦手なタイプだわ。)
箸を進めながら、俺は話を切り替える。
「それで……なんでダンジョンの深層まで三ヶ月以内に行きたいんだ?」
その瞬間、エリナの笑顔が、少しだけ翳った。
表情の温度が一段、落ちる。
「……はい。」
(うわ、絶対重い話きた。地雷くさい。)
だが、彼女は真っ直ぐに俺を見据えたまま、続けた。
「三ヶ月前に……両親が行方不明になったんです。」
「……両親が?」
「はい。二人ともB級の冒険者で、ルーベントのダンジョン深層へ潜って……それっきり。」
湯気の向こうで、彼女の声が少しだけ震えた。
「きっとまだ、生きてるはずなんです。だから、探しに行きたい。……三ヶ月以内に、絶対に。」
食堂の喧騒が、一瞬だけ遠のいた気がした。
俺は箸を置き、湯気の向こうの少女を見た。
その覚悟の決まった眼。
(……こいつ、馬鹿だな。けど、放っとけねぇ顔してる。)




