第25話 ー 欠金とタダ飯
名前: フジタカ(藤高)
年齢:15歳(中身35歳)
職業:E級冒険者
レベル:32
HP:560 (※ハイオークの一撃を耐え、なお立ち上がれる)
MP:142 (※火球を2発同時に灯せる程度。焚火+爆裂応用可)
筋力:253 (※オークを正面から押し返す)
敏捷:225 (※矢を視認し回避可能。走る狼を追い抜く)
知力:693 (※敵行動の先読み・心理誘導・戦術構築を即座に行う)
精神:649 (※死の恐怖・罪悪感・孤独を“効率”として処理可能)
スキル :
・【虫踏み】 小型生物を確実に踏み潰す。成功時に微量経験値。
・【経験値嗅覚】 「これ殺したら上がるな」という直感が働く。
・【サラリーマン根性】 どんな苦行でも“残業”だと思えば続けられる。
・【数値確認】 ステータスを見てニヤける。実際の強さは微妙。
•【自己正当化】 Lv2 罪悪感を“善行換算”で再計算するようになる。
•【ハンター心得】(新) 罠・追跡・隠密成功率上昇。生物を殺す行為に“感情的抵抗”が発生しない。
◆
金がない。
正確に言えば、今日の飯はあるが、明日の分がない。
宿代を払えば残りは銅貨三枚。
どう見ても、干上がる寸前だった。
「……まあ、死にはしないか。」
そう呟きながら、俺は冒険者ギルドの掲示板の前に立っていた。
壁一面に貼られた依頼書。討伐、採取、護衛、遺体回収。
どれも似たような報酬と危険度。安定した日銭稼ぎには向いているが、今の俺には“手遅れなくらい”足りない。
(手っ取り早く、大金を稼げるやつ……)
そんな都合のいい依頼があるわけ――と思いながらも、視界にひとつの紙が止まった。
ーーーー
【依頼内容】
ルーベントダンジョン深層到達補助
【期間】三ヶ月以内
【報酬】金貨20枚
【依頼者】D級冒険者 エリナ・ヴァルス
※現パーティーメンバー:なし
ーーーー
「……三ヶ月で深層?無茶にもほどがある。」
だが報酬は破格だった。
普通なら半年〜一年はかかる探索を、三ヶ月で、しかもソロでやるつもりらしい。
(あー……こりゃあ、地雷臭しかしねぇな。)
名前の横に描かれた筆跡の妙に力強いサインが、余計に怪しさを増している。
しかし、金貨20枚は破格であった。
今、俺は弓と鉈しか持っていない。
しかし、弓矢が尽きた為に弓も実質使用不可。
悩んだ末に、取り敢えず詳細を聞きに行こうと紙を取った……。
「あっ!!」
「っ」
背後で甲高い声が上がった。
驚いて振り返ると、俺と同い年くらいの少女が息を弾ませて立っていた。
金色の髪を後ろで結び、胸元には革鎧。
腰には小ぶりの直剣。
ただ、その立ち姿に似合わぬほどの焦燥が顔に滲んでいる。
「それ! その依頼書! 今、貴方が取ったやつ!」
「あ、ああ……これ?」
俺が手にした紙を少し掲げると、彼女は勢いよく頷いた。
「それ、私の依頼です!」
「……あんたが、エリナ・ヴァルス?」
「はいっ! えっと、その……依頼を受けてくださるんですか!?」
瞳がぱっと輝く。
その瞬間、俺の中で警報が鳴った。
――やばい、こいつ、テンションが高いタイプだ。
(地雷確定。しかも熱血型。)
逃げるかどうか一瞬迷ったが、目の前の彼女の笑顔に、何となく罪悪感が刺さる。
それに、金貨二十枚という響きが、理性を鈍らせる。
「……まあ、詳しく話を聞くだけな。」
「本当ですか!? ありがとうございますっ!」
ぴょん、と軽く跳ねるように喜ぶエリナ。
その勢いで肩のポーチが外れて、中から干し肉や紙の地図が転げ落ちた。
(おいおい……これで深層行く気か?)
俺は思わず額を押さえた。
だが同時に、少しだけ笑ってしまう。
無謀を本気でやろうとするやつは、案外嫌いじゃない。
「……とりあえず、飯でも食いながら話すか。腹減った。」
「っ、はい! おごります!」
「おごる? 金あんのか?」
「前金が、少しだけ!」
「……ほう。」
(タダ飯ゲット。)
俺はその依頼書をポケットに突っ込んだ。
このときの俺はまだ知らなかった。
この“地雷娘”が、後に俺の運命を変える事になるとは……。




