第16話 ー 警鐘
夢の底で何かが鳴っている。
遠く、重い鉄の鐘のような音。
「カン、カン、カンカンカンッ!!」
……街の警鐘だ。
「ッ!?」
俺は跳ね起きた。
胸が早鐘を打ち、眠気なんて瞬時に吹き飛ぶ。
「なんだ、襲撃か……?」
床に置いてあった槍を掴み、革鎧を身につける。
外はまだ夜明け前で、薄青い霧が石畳の上に漂っていた。
鐘の音は止まらない。
それは“街全体への警戒”を意味している。
つまり、何かが迫ってきている。
「嫌な予感しかしねぇ……。」
俺は冒険者ギルドへ走った。
通りには既に寝起きの冒険者たちが武器を抱えて集まっており、ざわついた空気が渦巻いている。
油の匂い、金属の擦れる音、罵声。
その中に、見慣れた顔があった。
「お、フジタカ!!」
黄金の剣のリーダー、カイがこちらを見つけて手を振る。
「カイ! 一体何があったんだ!?」
「先輩から聞いたんだがな……」
カイは神妙な顔で声を潜める。
「誰かが“鬼の村”を襲撃して、皆殺しにしたらしい。」
「鬼の”村”……?」
嫌な汗が流れる。
「そう、あの“野生”じゃなく“ハイオーク一族”の方だ。
野生の鬼なら盗賊みたいなもんだが、一族の鬼は違う。
掟があって、無闇に人を襲わねぇ。
その代わり――“誇り”を傷つけられると、根こそぎ報復してくる。」
「……お、おぉ。なるほど。」
フジタカの背中を汗が伝う。
(……俺、完全に誇りを傷つけた側じゃねぇか。)
「それもよりによって、好戦的な“ハイオーク”の鬼共、ガチギレだ。ついさっき宣戦布告してきたんだとよ。
「……おう。」
数秒の沈黙。
冷や汗が背を伝う。
(いや、待て。俺、数日前に森で“あれ”……やったよな?あの巣……鬼の巣……。)
(……俺じゃね?)
小声で漏らしたつもりが、近くの奴らに聞こえていた。
「全く、誰がこんなふざけた事したんだっ。」
その瞬間、鐘の音がさらに高く鳴り響いた。
まるで俺を責めるように。
(終わったかもしれん……。)




