第12話 ― 森の奥で
翌日。
俺は背に保存食と水袋を括りつけ、森の奥へと踏み込んでいた。
昨日、若オークを仕留めた場所――あれは“群れの手前”に過ぎない。
奥には、きっと巣がある。
そして巣があるなら、経験値もある。
狩人としての技能を総動員し、罠を仕掛け、ひとつずつ確実に仕留める。
今回は長期戦だ。泊まり込みで、森を狩場に変える。
「狩り尽くしてやる……。」
呟いた声は、木々のざわめきに吸い込まれて消えた。
目的は素材じゃない。
俺が欲しいのは、ただ経験値だけだ。
肉も皮もどうでもいい。
お爺さんが見たら叱るだろう――「命を無駄にするな」と。
だが、俺は“成長する為”にレベルを上げる。
それがこの世界の理だ。
この世界にレベル制度を置いた神様に文句を言え。
もしパーティーで動いていたら、こうはいかない。
討伐依頼を受け、証拠の部位を切り取って、重い荷を背負う。
仲間の了承を得て、夜営地を整える。
……面倒だ。あまりにも。
だから俺は、1人で来た。
森の空気は湿って重い。
踏みしめるたびに、落ち葉と土の匂いが立ち上る。
遠くで鳥が鳴き、木々の影に何かが潜む気配がある。
(まずは巣を見つける……。)
鬼ども――ゴブリン、ボブゴブリン、オーク。
やつらは強い個体を頂点に群れを作る。
下位は上位に従い、喰われることすらある。
若オークがいたということは、この森のどこかに“主”がいる証拠だ。
しばらく進むと、腐肉の匂いが鼻を刺した。
茂みをかき分けると、五匹のゴブリンが猪の死骸を貪っている。
濡れた肉を引きちぎる音。
返り血で顔を染め、臓物を押しつけ合って笑っている。
……下等で、醜い。
俺は弓を構え、静かに息を吐く。
狙うは頭。矢を番え、弦を引き切る。
「――バシュッ、バシュッ。」
一射、二射。
音とほぼ同時に二匹の頭が弾け、ゴブリンが倒れた。
悲鳴が上がる前に三匹目が振り向く。
その瞬間、俺は弓を捨てて槍を掴む。
「ギッ、ヤッ!?」
叫びも最後まで出なかった。
踏み込みと同時に、槍の穂先が喉を貫く。
返す刃で腹を裂き、回転しながら背後の一体を穿つ。
血が霧のように散り、三匹が同時に崩れた。
静寂。
森が、再び音を取り戻す。
俺は血の滴る槍を振り払った。
《13Lv → 14Lv》
そして、淡々と呟く。
「……また1つ上がった。」
自身の成長、その嬉しさに笑みが溢れる。




