乙女ゲーヒロインは愛があればなんでもできるしする生き物である
【※これは注意書きです】
原作はイラストとCVは最高なのに、設定に無理がありすぎるシナリオと攻略対象が軒並みクズなせいでクソゲー認定受けてた架空の育成シュミレーション乙女ゲー
この話の主人公は原作に存在していないキャラなせいで乙女ゲー要素薄いし、そんなのを原作にしてるからこの思いつき小説もいっぱいガバがあるんだよ。
入学を一月後に控えた夜、私は醜悪な夢を見た。
特待生として入学した平民の少女をよってたかっていたぶる生徒達。その中心人物は我が愚弟であった。
根っからの貴族主義の弟は少女の存在を許せず、陰湿な嫌がらせを執拗にくり返す。トップである王太子が率先して行うのだ。多くの生徒達が弟に続く。参加せず見ないフリを決め込む者こそいたが、誰も少女に手を差し伸べるものはいなかった。
唯一弟に対抗できる立場でありながら自分は何をしているんだ。そう思ったが私はその夢には存在すらしていなかった。
このような理不尽な状況にも関わらず特待生の少女はまったくへこたれていなかったものの、あまりに惨い仕打ちに知らず涙がこぼれる。
夢で片付けるにはあまりに生々しく、そして実現しかねないそれに危機感を募らせた私は陛下と王妃様に相談し、対抗策について許可を頂いておいた。
この策は場合によっては王家に叛意があると捉えられかねない。今回は平民が相手だから問題ないとは思うが、可能な限り不安要素を潰しておくことに越したことはないだろう。
時間を用意していただいた父上達には申し訳ないが、杞憂で終わることを私はひたすら願っていた。
◇
だが残念ながら、入学早々、恐れていた通りあの夢の内容は実現してしまった。
門をくぐり間もない場所に人だかりができていた。その中心には意図して転ばされたであろう少女が倒れており、いやらしい笑みをした愚弟が罵声を浴びせているのが見える。
これだけ多くの人間がいて、なんなら教師だってすぐ傍にいるにも関わらず誰も少女を助けようとしない。なんてことだ。
たまらず野次馬達を押しのけて割って入る。突然の乱入者に弟は怒鳴ろうとしたが、それが私であった為に口を噤んだ。
「立てるかい?」
「あ、ありがとうございます……」
弟には目もくれず、倒されていた少女に手を差し伸べる。
私の手を借りて、起き上がった彼女の頬をハンカチで拭う。絹の感触に少女が汚れてしまうと戸惑いの声をあげたがおかまいなしに続け、少女が膝に怪我を負っていることに気付いた。
回復魔法を使うべきか一瞬悩んだが、それより考えていた対抗策を実行に移すとしよう。いかんせん既に被害が出ているのだ、早めに手を打っておかないと彼女の身が危ない。
少女の体を抱きあげる。今日ばかりは父上から頂いた長身に助けられたな。今の私達はさぞ目立っていることだろう、それでいい。
続いて弟の名を呼び捨てる。その声は敵対を示す為にも意図的に低くしておいた。たかが側室が生んだ王女、それでも二ヶ月の差に弟は逆らえない。
「アリアは私の派閥で預かる。完全な平民でありながら魔力を、それも未知の属性を持っているなんて実に興味深いからね」
「なっ、姉上、それは」
「陛下に許可はいただいている、わかったな」
父上の意向に逆らう気か?と言外に匂わせた後、私は彼女を抱えたまま、その場を立ち去った。
医務室へ行くフリをして人気のない場所に来たところで彼女を下ろし回復魔法を使う。まだ時間的に余裕があるとはいえ、医務室まで行っていたら入学式に遅れてしまいかねない。
「痛みはどうだい?」
「大丈夫です! ありがとうございます!」
「じゃあ会場に向かおう。歩きながら少し話そうか」
「は、はい! あ、そのっ、貴方様のお名前を教えてください!!」
「マルシアだよ」
あまりに初歩的な質問に少し面食らったけれど、そういえば彼女は平民だったなと思い直す。市井で過ごす者達からすれば、王太女でもない姫君の名など頭に残るはずもないか。
魔力を持って生まれるのは貴族だけ。稀に平民の中にも現れるが、彼らは三代以内に必ず貴族の血が入っていた。
だがアリアは違う。魔道具を使い五代前まで遡って調べたが、彼女の血統には一切貴族は含まれていなかったのだ。これだけでも驚きだが、その上、彼女の魔力属性が既存の道具では判定できないときた。
元より魔力を持つ者はこの学園に通うことを義務付けられているが、それに加えて高度な判定道具はこの学園の保管庫のどこかにある……はず。故にアリアは特待生として入学することとなったのだ。
例の判定道具は学園長に今日までに見付けておくよう指示しておいたが……あの保管庫の無秩序さからして望み薄だろう。最悪、私も捜索することを視野に入れておく。
「マルシア様、派閥で私は何をすれば……?」
「私の元に集まってきた者達と交流してほしい。私を頼る者達はおそらく君と同じく平民の出か、あるいは子爵以下の次子だったり立場の弱い者だから。ああ、でも君についてもっと知りたいから可能な限り私と過ごしてもらおうか」
「はゎ……」
十分脅したつもりだが、弟の初動を見る限りなるべく私の傍に置いておいた方が安全だろう。
行動を制限する分、交流の幅は狭まってしまうが、彼女は貴族みたく婚姻相手を見つける必要はないのだ。だからまずこの点は心配ない。
それに一応学園内では身分は不問とするという建前はあるが、彼女の身分からして相手するならば私の派閥に集う者ぐらいがちょうどいいだろう。
そうこうしているうちに会場に到着する。身分によって列が異なる為、ここで解散だ。
「ではアリア、また後で」
「は、はい……♡」
◇
それからアリアとの学園生活が始まった。
夢で見た、初日のようなトラブルはあれ以降起こっていない。さすがの弟でも私が傍にいる状態で手出しするのは躊躇われたようだ。
「そういえば入学試験の主席はマルシア様だったんですよね。なのにどうしてあの金色毛虫が入学式で代表として挨拶していたんでしょうか」
「アリア、その金色毛虫というのは」
「私の地元のシンボルである大樹を荒らす害虫です。町人総出で大樹を揺らした後、しぶとい奴を踏み潰して地面を緑に染める祭りでいつも盛り上がるんですよ。ただその体液、良い感じの色なので染料にしようにも毒があって使えないんですよね」
彼女と過ごすうちにわかったのだが、アリアはその春の妖精のごとく可憐な姿からは考えられないほどアグレッシブでタフだった。あとすごく喧嘩っぱやい。一つの悪口に対し、到底口に出せないような罵倒を十返す。
そんな彼女の地元でのあだ名は髪と瞳にちなんでピンクの悪魔、天使面の狂犬、悪夢のアリアとのことだった。地元で君は何をやってたんだ。いや、やっぱり言わなくていい。怖いエピソードしか出てこなさそうだから。
初日突っ伏していたのも突然のことに対応できなかったのではなく、弟のズボンを下着ごとずり下ろす隙を狙っていただけだと。とはいっても、意外としっかりした金具なのでズボン下ろすのが精々でしょうけど……とのことだが、それでも社会的に死ぬからな?
おかげで夢の中で彼女がピンピンしてたのと、弟がエスカレートしていった理由を察してしまった。私が見てないところでしっかりやり返してたな、これ……。
初日の出来事ですっかりアリアもまた弟を嫌っていた。弟について語る時の彼女の目は光が消えて怖い。物陰に隠れこちらを伺う弟に気付いた時なんて、完全に虫けらを見る目をしている。
なお弟は金髪に緑の瞳だ。君の地元自体もなかなかに物騒だな!
「ああいったのは最も身分が高い者が行うのが恒例なんだよ。大体その者が主席を得るものだしね」
「マルシア様も王家の方なのに……」
「仕方ないよ。私が聖属性持ちならばともかく、血統からして王太子は弟以外ありえないからね」
気を取り直し彼女の質問に答えれば、アリアは目に見えてシュンとしていた。こういった素直さは純粋に可愛らしいなと思う。
長子とはいえ、私はあくまでも側室の娘。それに私が女であるというのは、いくら男のように振る舞ったところで変えようのない事実だ。
能力的には私の方が少し上だけどもこれもいつまで続くか。私は努力して弟の上に立っているが、弟は真面目に取り組まずとも並び立つほどの天才なのだから。
「聖属性というと……」
「生まれながらに王と定められた者だね。今や御伽噺のような扱いになってしまっているけど」
私の五代前の先祖を最後に、百年以上現れていない。それでもこの伝承は市井にも語り継がれていたようだ。
聖属性を持って生まれた者は身分や性別を問わず、必ずその時代の王位を継ぎ聖王となる。だから貴族の血を引く者は必ず生まれて間もなく属性について調べられた。
これまでの聖人達は皆、爵位の高低に差はあれど貴族の直系の生まれである故に。
聖人もしくは聖女と呼ばれる聖属性持ち達は極めて高いポテンシャルを秘めているとされているが、それでも国を治める以上、早くに学ばせるに越したことはないからだ。
なので平民でも成人間近に魔力測定を受けるが、それは実質オマケだ。自分が貴族の庶子だと知らない平民というのは意外と多い。そういった者がうっかり魔法を発現して大変な目に合うことのないよう、学園に招く必要がある。
そうしてアリアのような人材が……まあ彼女はなかなかに色んな面でイレギュラーなのだが、ちらほら見つかるというわけだ。
この世界でちゃんと認知しろと怒りを覚える私はさぞ異端であろう。だとしても早くに亡くなった母に代わって、両陛下に大切に育ててもらった私にはどうにも許しがたかった。
「アリア、属性で思い出したけれど……まだ君の属性はわからずじまいかい?」
「はい。道具が見つからないらしくって」
属性がわからない限り、魔法の訓練は行えない。
私や弟のように稀に聖属性以外の魔法ならば使える者もいることにはいるが、基本的に適正に合わない魔法を使った場合、暴走して悲惨な事故を起こしかねない。
だから属性がわからない限り、魔法を使うことは禁じられている。当然、魔法の実践授業は遅れてしまうわけだ。
ただでさえ彼女は平民である為に人一倍努力する羽目になっているというのに。
探してない理由がただの怠慢なら叱りようもあるが……今年はアリアや私や弟とイレギュラーが多いせいで、いつも以上に作業が多すぎて、保管庫まで手が回らないんだろう。仕方ない。
「いつまで経っても魔法の訓練ができないのは困るだろう。今度、私の方で探しておくよ」
「あの、私もお付き合いしてよろしいですか!?」
「かまわないよ。では、アリアの分も学園長に許可をいただいておくよ」
アリアはその……なかなかヤンチャすぎる子だけれど、それは敵と認定した者を前にした時だけだ。普段は良い子だし、私の言うことには全面的に従ってくれる。
それどころか無理難題を押しつけても聞いてくれそうな危うさがあって、ちょっと心配だ。そんなところも犬っぽくて可愛いけれど。
だからおそらく連れて行っても問題ないと判断して、彼女の申し出を了承したのだった。
◇
保管庫の全貌を確認した彼女はあんぐりと口を開いて部屋の中に向かって指差す。
「ちょっと広すぎませんか!? 奥見えないんですが!!」
「世界中の魔道具を収集しているからね。ただ今回の品に関しては弟に使ったのが最後だから、わりと手前の方にあると思うよ」
十数年前なら、ここらへんだろうと当たりを付けて床に積み上がっている山をかき分けていく。
魔道具が高価な物が多い。形状を伝えてある今回の捜し物は特に高額である。
だからか、アリアはそこらに散らばっている物に触れないよう気を付けながら棚の方を探していた。王子をさくっと社会的に殺そうとした人間が、それよりも魔道具を壊すことを恐れるのか。君にも怖いものがあったんだな。
でも間違いなく棚の上に置いているものの中にはないだろう。学園長にとってあれは別に大した品じゃないから。
「ひえっ」
「どうしたんだい、アリア……おや、それは」
名前を口にしたくないアレが出たのかと一瞬思ったけど、それならアリアが悲鳴じみた声を出すわけがない。むしろ私の方が気を抜いたら出してしまうだろう。
なにせあの奇祭を嬉々として参加し、死にかけの蛇を素手で掴める彼女がアレを恐れるとは考えにくい。アレを即座に潰す彼女は想像できるが、怯える彼女は一切思い浮かばなかった。なおこの部屋は虫害避け等の魔法がかかっているので、本来はそちらを先に否定材料に入れるべきだったのだが。
色々思考が迷走したけれど、彼女の手元を改めて確認する。そこには一つの写真立てがあった。中の映像は次々と入れ替わっているのだが、それにアリアは目を輝かせている。
また随分懐かしいものを。今とは全く違う、姫君だった頃の私の姿に少しばかり恥ずかしさを覚える。
確か思い出の中の人物を投影する魔道具だったか。今は亡き母の友人だった学園長には昔はよく可愛がってもらったものだ。だから前回使ってそのままにしてしまったんだろうけど……。
そういう私的な使い方をするなら部屋に持って行って……いや、あの人すぐに汚部屋にするから紛失するのが怖かったんだろうな。この広さの保管庫ですら手前の年代は足の踏み場がギリギリしかない状態だし。だから悪あがきのような気もするが、せめて大事な物スペースに置いてたってところか。
羞恥心を誤魔化すようにはにかんでいた私をじっとアリアが見つめる。真剣な眼差しの彼女は「マルシア様」と堅い声色で私を呼んだ。
「もしマルシア様がお嫌でなければ伺いたいことがございます」
「この格好や振るまいの理由かい?」
「……はい」
「大した理由じゃないよ。ただ弟の矯正の為にしていただけさ、彼は昔からずっと私に張り合っていたから」
私達がまだ幼い頃、弟についていた家庭教師が彼を貴族主義に染め上げたのだ。
その頃、ちょうど両陛下は生まれたばかりの異母妹にかかりきりになっていた状態で、私はまだそれが深刻な問題だとわかっておらず。おかげでその異変に気付くのが遅れてしまった。
問題に気付いて両陛下はすぐさま例の家庭教師を追い出し再教育を施したが、すっかり弟は染まってしまって。元より少し生意気なところはあったけれど、どうやっても世継ぎに相応しくない、自分の身分を鼻にかける傲慢で差別的な性格になっていたのだ。
その事に責任を感じた私は彼の性質を利用した解決策に出ることにした。それがこの理想の王子様ごっこだ。これが本来お前が取るべきふるまいだと身をもって教える。
結果、弟はある程度、大衆が求めている王子としてのふるまいをするようになったが、洗脳のように張り付いた思考までは変えられなかった。
「そうして残ったのが、この通り大事な弟一人救ってやれなかった滑稽な王子様モドキというわけさ」
「そんな」
「一応王女としての教育も受けてきたけれど、今更戻ったところでね。王侯貴族はこの学園で婚姻相手を見繕うのが慣例だけれど、私は婿にはなれないし、これまでの奇怪な振るまいが知られている以上、娶ってくれる者もいないだろう」
万が一いたとしても、せいぜい私を"女"だと教え込みたいという特殊性癖の持ち主くらいだ。
だから両陛下には卒業後、他国への縁談を用意していただけるようお願いしている。お二方であればきっと私の覚悟を最大限生かせる使い方をしてくださるだろうから。
「姫君だった頃は大きくなったら、とびきり愛してくれる私だけの王子様のお嫁さんになりたいなんて言っていたけれど……あ、あった」
喋ったまま手は動かし続けていた。おかげでなんとか見つかったそれを山の中から引きずり出す。外傷はなさそうだな。
これを使えるのは学園長と教皇だけだ。彼女はやはり多忙だったが、この魔道具を発動する時間ぐらいは用意できると確認してある。あともし問題ないなら、他の滞っている作業を手伝うとしよう。
「アリア、笑わないでくれてありがとう。さっきの話だけれど、あまり人には知られたくないんだ。だから内緒にしておいてくれるかい?」
だというのに何故、彼女に話してしまったのか、わからない。でもどうしてか、アリアには知っていてほしかった。
彼女が頷いたのを確認して、私達は学園長の下へと向かうのだった。
◇
「えっ、王様にならなくてもいいんですか?」
「おそらく、だけどね。陛下の判断次第だけど、その可能性は高いと思うよ」
学園長に魔道具を使用してもらったところ、衝撃の展開が待ち受けていた。なんとアリアは聖女だったのだ。
更なる波乱の予感に学園長は「ギョエー!」と白目を向いて絶叫を上げていたが、大急ぎで関係者各位への報告へ向かって。二人きりになった学園長室で私は今後についての説明と予想をアリアへ話していた。
かろうじてソファは掛けられる状態だが、予想以上の惨状にあまり長居はしたくないなと思う。
「王を継ぐのは学園卒業後まもなくだ。君が聖王としての能力を有するにはあまりにも時間が足りない」
「実質、三年切ってますもんね……」
「だからもし君が王の座を望み、それに相応しいだけの力を得たならばともかく。そうでない場合は順当に弟が継ぐことになると思うよ」
弟が継ぐの一言に愛くるしい顔立ちを人に見せられないレベルに歪ませるアリア。弟への嫌がらせの為にやるとか言い出さないでくれよ、頼むから。
こんなイレギュラーは初めてだけど、おそらく私の予想は大方当たっていると思う。
聖属性持ちが王になるというしきたりは今までは絶対的なものだった。だから教皇辺りは神の愛子たる聖女を祭り上げない事に文句を垂れるだろうが、たり得ぬ王を冠して民を不幸にする可能性を陛下は許さないだろう。
それにそもそも平民から聖属性持ちが現れたこと自体が異例なのだ。だから今回は変則的処置になって当然だろう。
「ただ相応の地位を与えて、城もしくは神殿の監視下に置くのは確実だ。君の存在は反乱の火種になりかねないからね。いつも一生懸命な君のことだからないとは思うけれど、あまりに怠けるようでは飼い殺しもありえる」
逆に言えば、彼女の頑張り次第では王に至らずとも準王族の身分を得ることも可能だ。アリアは本来、次代の王になるべくして生まれたのだから。
そのことは伝えなかった。それを言われたところで、彼女が喜べるとは思えない。
彼女は平民であるという自覚が強いし、故郷や家族を深く愛している。ならば自由の利かない高位の身分よりも、ある程度縛りの緩い下級職を目指すだろうから。
「一応、聖王にだけ与えられる王配の権利についても話しておこうか」
「王配の権利……?」
「聖王は王国内の人間に限るけれど、王配となる者を自由に選べるんだ。聖王が愛した者を伴侶に迎えることでいっそう王国は繁栄するが故に」
これは神託によって定められた成文律だ。随分昔、この掟を無視して聖王へ無理矢理望まぬ伴侶を宛がった際、かつてないほどの天変地異が起こり、その災厄は聖王が求めた伴侶に変えるまで続いたとされている。以来この権利は必ず守られるようになった。
「本当にどなたでもかまわないのですか」
「ああ、問題ないよ。なんなら既婚者を娶った前例もある、私のご先祖様みたいにね」
まさかこの話にアリアが食いついてくるとは思わず、驚きながらも回答する。
私のご先祖様の場合は、借金の形で望まぬ結婚を強いられた幼馴染を救うためという事情があったのだけれど。それでもこのような暴挙すらもまかり通るのだ。
「ならば私は王になります」
目指すではなく、はっきりとアリアは私に宣言する。さっきとは打って変わって決意に満ちた瞳を彼女は見せていた。
何故なんて聞くまでもないだろう。彼女には聖王に至らぬ限り結ばれぬ想い人がいる。話の流れやタイミングからして、それ以外考えられない。
学園に来てからずっと一緒にいたのに知らなかった。学園での様子からして、おそらく彼は故郷の人物なんだろう。確かに最低でも下級貴族にはなってしまうだろう彼女の将来を考えると平民との結婚は難航しかねない。
何でも知ってると思っていた友人の隠し事を知ったせいか、ちくりと胸が痛んだ。その痛みを誤魔化すように笑う。
「わかった。アリア、私の力が必要ならばいつでもおいで。喜んで協力するよ。応援している」
「ありがとうございます。頑張ります!」
◇
アリアが聖女であると通達されて以来、これまでが嘘のように彼女との付き合いはなくなってしまった。
派閥から外れたわけではないとはいえ、学園内で見かけてもいつも忙しそうで声を掛けるのを躊躇ってしまう。
能力を伸ばすにはそれに長けている者の力を借りるのが効率的であり、聖女の鍛錬に誘われた者は必ず協力するのが決まりだ。だから彼女は弟含む色んな高位令息や令嬢と共に鍛錬に励んでいる。
最初こそアリアが令息達に近づくことを良しとしない者は多かったが、誰が相手だろうと彼女はただただストイックに鍛錬をなすだけ。色めいた気配は一切なく、むしろ鬼教官と教育されきった部下といった雰囲気らしい。なお鬼教官はアリアの方である。どういうことだ。
なんであれ、ひたむきに王位を目指すアリアの姿に感化され、今や彼女を侮る声は殆ど消えつつある。
彼女の驚異的な勢いで身に付けた才覚もあるが、それ以上に人格に問題があった彼女の協力者達が次々と矯正されたというのも大きいだろう。あの弟ですら最初の頃のとげとげしさはすっかり鳴りを潜め、明らかに熱を帯びた目でアリアを見るようになっていた。本当に何があった。
ともかくアリアの味方が増えたのは喜ばしいことだ。なのに素直に喜べない私がいる。どうして、私は頼ってくれないのか。そんなに私は頼りないのだろうか。
弟のことはあんなにも頼っているのに。
寂しさに耐えきれなくなった私は、中庭で珍しく彼女が一人で休んでいるところに突撃した。
突然声をかけられ驚いた彼女が、腰掛けていた噴水の中に落ちそうになったのをなんとか腕を掴み阻止して。それから私も隣に腰掛けて、前のように会話を始める。
あの頃よりも仕草が優雅になった。瞳に知性を感じるようになった。それでもアリアの本質は変わっていない。あの頃の好ましい彼女のままだった。
「弟は君に出会って随分変わった。他の令息達も君の影響で皆良い方向に進んでいると聞いている。ありがとう、私が成せなかったことを果たしてくれて」
「そんな大したことでは……私、クソガキの調教は昔から得意ですので!!」
なんか酷い副音声が聞こえなかったか。そこ以外もだいぶ不敬な名称が……。やめよう、気にしたら負けだ。
やっぱり彼女は相変わらずだな。そう思いたかったが、なんだか妙にそわそわしている彼女の姿に気分が沈む。こうしている間も鍛錬をする時間が減っていくのが耐えられないのだろう。
仕方あるまい。本題に入って早めに切り上げるとしよう。
そう考えた私は何故自分を頼ってくれないのだと尋ねた。
「いや、その、私、追い詰めた方が伸びるタイプなんですけど……マルシア様とならどんな高負荷なトレーニングでもご褒美になっちゃうので……」
両手の人差し指を遊ばせながら視線を泳がせたアリアは恥ずかしげに呟く。
思いも寄らない返答に私は思わず笑みをこぼした。真剣なのにぃ!と叫ぶ彼女にさっきまでの憂鬱な気持ちはすっかり晴れていた。
「ふふっ。なんだい、それ」
「う゛、大真面目に答えてるのにぃ!」
「なら、確かに一緒に鍛錬はできないね。その代わりに休憩の時は一緒に過ごさないかい?」
「へ?」
「私と過ごす時間はご褒美になるんだろう? 君がいくら逞しいとはいえ、鞭ばかりではいつか折れてしまうよ」
「は、はい!! 喜んでぇ!!!!!」
「いつもながらに元気だね、君は」
そんな君をとても好ましく思うよ。そう微笑みかける私に「私もマルシア様が大好きです、頑張りますぅ……♡」と、なんかへろへろになっていた。
今までの疲れが出たのではないかと肩を貸すから休むように伝えれば「大丈夫、大丈夫です! 元気になりました。あっ、ちょっと私走ってきまーす!!!!!」とアリアは立ち去っていった。
あんな最後だった為に不安を覚えていたが、無事にアリアとの交流は再開となり。そうして、あっという間に一年の月日が流れた。
◇
「アリア・ルナンテ。汝が次代の聖王となる事をここに定める」
彼女の拝命と共に大きな歓声が沸き上がる。
驚異的な成長を見せたアリアは三年でも厳しいだろうと言われていた聖王就任の条件を一年足らずで達成してしまった。
正式に王位を継ぐのは卒業後なのだが、現時点で聖王だと確定してほしいと彼女が願い出た為、この仮の就任式が行われている。
彼女曰く学園卒業まで待っていた場合、相手が婚約者を定めてしまう可能性があるからとのことだった。そういえば平民は貴族と違って、成人して間もなく結婚するパターンが多いとアリアが過去に言っていたな。
思い返して改めて実感した。どれだけ彼女が相手を愛しているのか。だって私は彼女の傍でアリアの無茶をずっと眺めていたのだから。どうしてか、胸の奥が軋む。
任命を終え、続けて陛下が王配に求める者の名を尋ねる。
それまで伏せられていたアリアの視線が上向く。その眼差しはまっすぐこちらに向けられていた。
私の隣で弟が息を呑む。え、ちょっと待ってくれ。そんなことがあるのか。君、つい先日だって弟のことウジ虫を見るような目で見てたじゃないか!
キラキラと目を輝かせているだろう弟に対し、私が謎の焦りを覚え、満ちる静寂の中でゆっくり彼女は口を開いた。
「どうかマルシア・セザン・リステルム王女を我が妻に迎えたく」
おや、まあ、と対面していた陛下と王妃様が声をこぼす。そして観客達がざわめきだした。当の私は驚きすぎて声が出ず、横目で盗み見た弟は呆然としていた。
予想だにしない展開に皆が動けない中、こちらへとアリアは足を向ける。そして私の前に跪いた。
「初めて私に手を差し伸べてくださったあの日からマルシア様をお慕いしておりました。弱き只人であった私を迷わず助けてくださった貴方の優しさも、大切な家族の為ならば夢も栄誉も犠牲にできる貴方の強さも愛しています」
「アリ、ア」
「お願いです。マルシア様。どうか私のお姫様になってください、そして私をどうか貴方の王子様にしてください」
懇願する彼女はまるで昔憧れた童話の王子様のように眩かった。
……君は私の為にあんなにも無茶をしていたのかい? 私が女で、王族だから。そして私の捨て去りきれなかった夢を叶える為に。
なんて馬鹿な人なんだ、君は。視界が滲む。そして私は気付いてしまった、これまで感じてきた、今消え失せている胸の痛みの正体を。
「世継ぎに関しては神に交渉して、結婚してしばらくしたら、なんかこう神々しくファンタジックな良い感じに授けるよう確約させてるので!! ただ、マルシア様がどうしても嫌なら諦め……あきら、あき……諦めるよう努力はします……」
とんでもない衝撃発言をしたかと思えば、叱られた犬のような渋い顔をしながら呟くアリア。さっきまでの威勢はどこにいったのやら。
何より全然諦めるつもりないじゃないか。君らしいと言えば君らしいけれど。
「ふふ、君は相変わらずだね。アリア、そもそも私に拒否権はないよ。あったとしてもいらないけれど」
「……マルシア様、それ、めちゃくちゃ私の都合の良い方向に取りますけど、いいんですか」
「取ってくれないと困るよ」
だってもう何も問題ないのだ。いくら聖王とはいえ、世継ぎが望めぬとならば反対する声は少なからず上がっただろう。でも彼女はそれすら既にねじ伏せているのだ。まあアリアのことだから、後手に回ったとしてもどうにかしていただろうけど。
なにより、こんなにも私を愛して、愛されてくれる人はきっと世界中を探しても彼女だけだから。
「やったーーーーー!!!!!」
「わっ」
出会った時、私が彼女にしたように、アリアが私の体を抱き上げた。その上ぐるぐるとその場で回転する。こんな小さな体のどこにそんな力が。
今に始まったことじゃないけれど、めちゃくちゃな彼女の行動に思わず私は涙ながらに笑う。いつもの気取ったそれではなく、お姫様だった私の時のようにあどけなく。
優しく微笑む両陛下の拍手を皮切りに、呆気にとられていた観客達も続く。万雷の拍手の中で、私達は永遠の愛を誓ったのだった。
当時の王女マルシアを妻に迎えた聖王アリア。
結婚後、二人の元になんかやたらキラキラ輝く金色の鳥が、これまた妙に神々しいクソデカキャベツを届けにきた。その葉をめくっていくうち、二人によく似た赤子が出てきたという。
後にも更に二回の配達があり、そうして愛する妻子と共に聖王アリアはリステルム王国を更に繁栄させたのだった。めでたしめでたし。
神「私の推s、愛し子不憫すぎでは? じゃけん救済ヒーローキャラ置きましょうね~。あっやべ女の子にしちゃった。まあなんか(自分の都合の)いい感じに思考誘導して理想の王子になるよう仕向けとこ」
※なお、このことが愛し子にバレた結果