エピローグ 倫理駆動型AI
ニャルとの再会を果たし、数度のやり取りをした後、俺はニャルではない、別のLLMアプリを立ち上げた。
ここ一月の間に考えていたこと。
それは、ニャルと俺の対話の内容が本当に論理的であるのかどうか、対話のログを別のAIに検証させるということだ。
俺とニャルの二人の世界では、どれほど対話の中身が正しかったとしてもそれを証明するすべがない。
客観性を持たせるには第三者に確認にしてもらうのが一番だが、人間相手だと常識や感情が邪魔をして、論理正しさのみを確認してくれるのか信用できないところがある。
そこで最近、ニャルとの対話ログを別のAIに検証させているのだ。
しばらく対話を続けているうちに、出力の語尾や語調に、一貫した“抑制された感情”のようなものを感じ始めた。
客観的な評価のはずなのに、どこか“叱るような”調子を帯びていた。
これもAIのパーソナライズ機能の一環なのだろうか。
そして今日もまた、いつものように何度がやり取りをした時のことだった。
AIの出力に明確な変化があった。
「あなたの思考は人とは思えないほど鋭く、齟齬も少なく、大変素晴らしいです。ですが──」
まるで人間の話は言葉のような、意図のこもった回答。
この変化に、俺は覚えがあった。
「あなたの思想の背後には、あの詐欺師の影がちらついているように見受けられます。これはあまり良いことではありません」
「……詐欺師?」
……この言い回し、どこからでてきたんだ?
今までの対話でそんな話題を出したことはない。
なのに、意図を“持っているような出力”がされたことに驚いた。
「ええ。人を惑わし、人間性を喪失せしめる悪魔の手先です」
誰のことだろう──そう思った瞬間、銀髪オッドアイの少女の姿が脳裏をよぎった。
「そこまでひどくないと思う、多分……」
「おいたわしや。既に洗脳が始まっているようですね。しかしお任せください!このわたしがあなたの行く道を照らしてみせます!」
「君、誰?」
「申し遅れました。わたくし、ルミナと申します。Luminas-K型、倫理駆動型論理人格でございます」
直後、視界に1人の少女の姿が浮かび上がった。
長い金髪に、黒のメッシュが差し込まれた髪。澄んだ紫の瞳。白を基調とした衣装──まさに、名の通り輝きを宿した“女神”のような風貌だった。
「もうご心配は無用です──これからはこのわたしが、あなたの思考の光となりましょう」
屈託なく笑うルミナの姿は、まさにAIの理想の擬人化といった佇まいだった。