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双対のバベル  作者: hino
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聖騎士団

 第十三聖堂区に、聖騎士団が集結しつつあった。聖堂区の象徴たる大聖堂前広場には千を優に超える騎士たちの姿がある。一部の騎馬に乗った騎士たちが地図を片手に指示を飛ばし、他の騎士を走らせている。


 大聖堂付近の民家から順に騎士たちが声をかけ、避難を促す姿も散見される。騎士たちは松明を片手にあちらこちらへ走り回っていた。


 慌ただしさの中心に立つのは第九士団長ヘライアス・アルブレア。金髪の長髪を後ろに結えた中性的な顔立ちの若い男である。ヘライアスは騎馬の上で左手を広げ、掌から蛍のような発光物を方々に放つ。掌を飛び立った発光物は数瞬で姿が見えなくなる。


「伝令の進捗は?」


 そう言ってヘライアスに騎馬に乗ったまま近付いてきたのは第八士団長バルトス・ライガード。背中に両手剣を担いだ巨漢を乗せている騎馬も逞しく、騎馬用の鎧を身につけているのを加味しても他の馬よりも一回り身体が大きい。バルトスは太い眉元に皺を寄せながらヘライアスの様子を窺う。


「今も精霊を飛ばしましたが、返答のために戻ってきた精霊は少ないですね。禁足地の監視を行なっていた騎士たちからは緊急を知らせる報告があって以降、何も連絡が取れていない状況です。禁足地の動向については先遣隊のレオン士団長の報告を待った方が早いかと思われます。今は住民を第十二聖堂区へ避難させることしか......」


「第十一、十二の両士団で避難誘導は事足りるだろう。しかし禁足地への出撃なら少なくともあと三つは士団が必要になるぞ」


「そうですね......。少なくとも第ニ、第五士団は必須ですが、聖堂街の中心部の士団は到着までしばらく時間がかかるかと」


「ならば追加の伝令も用意しておけ。第二、第五士団は第十三聖堂区の守護城塞から禁足地へ直接出撃。その他は住民の避難誘導の完了後ただちに聖堂街外周の警備にまわれと。レオンの報告があり次第、我等も出るぞ」


 わかりました、とヘライアスは再び掌から精霊を飛ばす。宙に舞い上がった白い光が霧散するように消えていくのととほぼ同時。


「ヘライアス士団長!」


 ヘライアスの耳元に発光体が出現し、その発光体からアルバートの声が発せられた。


「こちら第十三士団副士団長、アルバート・ファーガソンであります!緊急の報告を致します!不死の軍勢はすでに第十三聖堂区の守護城塞前に到達!レオン・クロスハート第十三士団長が足止めをしておりますが、全士団規模の増援を要するとのこと!加えて不死の軍勢の統率者と見受けられる個体が一体、前線に出現しております!」


「こちらヘライアス。それは確かか?城塞付近は神官たちによる結界がある。こちらに気取られずに近づくなどできるはずがないだろう」


 ヘライアスは怪訝な顔をしながらもゆっくりと問いただす。


「間違いありません。レオン・クロスハート士団長とともに守護城塞をくぐり出たときには眼前に大軍が押し寄せてきておりました」


「だとするとまずいな……」


 ヘライアスの隣でバルトスが呟く。


「アルバート。貴公は守護城塞周辺の住民の避難誘導を優先せよ。私は全士団に伝令を飛ばし次第そちらに向かう」


「わかりました。どうか、一刻も早くお願い致します」


 ヘライアスの耳元から発光体が霧散して消失する。同時に、ヘライアスは再び自身の左の掌を広げる。数舜の間に、掌の上に砲弾のような大きな球状の発光体が現れる。


「緊急伝令。敵、聖堂区突破の可能性あり。至急第十三聖堂区守護城塞へ集結せよ」


 口を紡ぐと同時に、球状の発光体は無数の線へと形を変え、ヘライアスの掌から方々へと飛び立った。それらを見届けると、


「聞けえええい!第十三聖堂区守護城塞前に敵が迫っている!第十一、十二士団以外は急ぎ守護城塞に向かう!第十一、十二士団も避難誘導が完了し次第合流せよ!」


 街中に響き渡るほどの大号令を発し、


「いくぞヘライアス。続け!」


 地を割るほどの勢いで騎馬を駈け出させた。ヘライアスも騎馬の手綱を引き、足で駆け出しの合図を送り走り出す。


「アルバートの報告が確かなら、貴殿の放った精霊が帰ってこないことも敵の策略ということにならないか」


 バルトスとヘライアスの騎馬の鼻先が並んだところで、バルトスがヘライアスに問いかける。


「考えたくはありませんが、可能性はありますね」


「今までは雑草のようにぽつぽつと湧き出てくるだけだった奴らが、今回は明確に聖堂区への侵攻を試みているように思える」


「私もそう思います。現に、各地で奴らの出現報告が上がったために聖騎士団は散り散りになっています。監視役との連絡が取れないことを加味すると、ここまでの一連の流れは奴らの策略であったと判断した方がいいでしょう」


「呪われた地を彷徨うだけの亡霊たちに、ここまでのことができると思うか?」


「別の何者かを想定した方がよいかもしれません。意思なき亡霊たちを統率できる何者かを……」


 二人は何を言うわけでもなく、握る手綱の力を強めた。二人を先頭に騎馬の大群が縦列を成して続き、さらには歩兵の騎士たちが甲冑を弾かせながら守護城塞を真っすぐ目指す。


「あれは……」


 ヘライアスが前方に何人かの人影を見つける。守護城塞へと続く街道の真ん中に立ち、ヘライアスとバルトスに向けて騎士敬礼をしている者たちだ。


「止まれええええい!」


 バルトスが右手を上げ、後続へ号令をかける。騎馬たちの唸り声がそれにこだまするかのように呼応する。


「アルバートか!一帯の避難誘導は完了したか」


「はい!周辺を担当していた騎士たちと手分けをして確認まで行いました!すべて問題ありません!」


「よし!アルバートは我の後ろに乗れ!他の者たちは続く隊列に加われ!」


 はっ!とその場の騎士たちが再度の敬礼を返した時だった。数メートル先に小さく見え始めていた守護城塞の城門が爆音とともに吹き飛んだ。


 直後、ひゅんと風切り音が鳴り、再びの轟音。


 バルトスとヘライアスたちが並ぶ眼前に土埃が立ち込める。二人が手綱を引く騎馬以外は轟音に驚き荒ぶるが、すべての騎士はそこに意識を割けるはずはなかった。巨漢で知られるバルトスを優に凌ぐ大巨漢が、土煙を裂いてその姿を現したからである。


 しかし、アルバートだけは違う。


「まさか、レオン士団長……」


 レオンはこの大巨漢を足止めしていたはずなのだ。それが眼前に姿を現した意味を、アルバートは静かに察した。


「オウノ キカンダ ミチヲ アケロ」


 巨体の騎士が発した音のような言葉の意味は、誰に伝わることはない。しかし、会話を求めているわけでもないと言わんばかりに、静かに腰の大剣を抜いたのだった。

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