19.大会ー的確ー
第19話です。
体育祭が終わった。あとに残ったのは白い灰だけ…なわけがない。百人一首部は、県大会を迎えようとしていた。県1位となった1チームだけが、全国大会に行けるのだ。そう1チームだけ。
白明高校は、人数も十分にいることから、AチームとBチームを作って大会には出る。しかし、行けるのは1チームだけなのだ。なんと理不尽なことだろう。
とまあそんなわけで、百人一首部…いや、他にも大会を控えている部活は、白い灰になるわけにはいかない。それどころか、今からが本番とも言える。
「1年生!これからはもう少し早く来れる?」
「分かりました!」
この通り、先輩たちはやる気満々である。それもそうだ。白明高校百人一首部は県大会を現在10連覇している。今回勝たないと、その今までの連勝が消えてしまうことになる。だから、頑張る。ただそれだけだ。
「大変そうだな。」
「何他人事風を装っているの?」
呟いていたら、水無瀬さんに聞かれたらしい。
「え?そう聞こえた?」
「聞こえた。そして今も悪びれていないね。牟田は絶対に他人事に思っている。」
「そうなのか…?」
断言されてしまっては、そうかも知れないという思いが強くなってくる。
「そうでしょ。」
「へぇ…」
「いい?来年は私たちもあの一員になるかもしれないんだよ?実力をしっかりと身につければ。だから、今、先輩たちから多くを学んでおかないといけないの!他人事なんかじゃないでしょ?」
「わかってるって。」
水無瀬さんがどんどん饒舌になっていく…。あまり見ない現象だ。
いや分かってる。俺の態度が悪かったらしいというのは。
「誠意が足りない。」
ガーン。
「すみませんでした。」
さすが水無瀬さん。他の人とは違う。今まで真面目に謝ったのって、しかも女子になんて、数回あったかどうかってところじゃないか?
「それで、何が悪かったのかはちゃんと理解しているよね?」
「…。俺の態度?」
「間違ってはいないけど…」
微妙な反応をされた。あれ?おかしいな。
「え?」
「何の態度か分かってる?」
「だから俯瞰してるっていう態度なんだろ?」
「それはそうだけど…」
なんか曖昧だな。そして水無瀬さんはもう一度口を開いた。
「じゃあこれからどうするべき?」
「それは…真面目に取り組む?」
「何で疑問形なの?それで何に対して?」
「百人一首。」
「駄目じゃん。やっぱり理解していない。」
きょとんとするしか無い。理解できなかった。
「え?」
「だから、牟田は大会を他人事として見ている。」
「そうなんだ。」
「今も他人事だと思っているでしょ?まあそこは置いておくにしての、私たちは、先輩たちから学び取る必要がある。それは分かる?」
「たぶん。」
なんとなくでしか無いが。
「まだ分からないか…じゃあ、考えてきて。私は今、先輩から多くを学び取る必要があると考えている。じゃあ牟田は?どう考えているの?そしてどうするべきだと思う?」
どう考えているか、か。何だろうな。
「じゃ、宿題ね。大会の応援のときに聞くね。」
そう言って離れていく彼女をただ見てることしか出来なかった。
大会当日。
俺達は頑張ってきた。まだ水無瀬さんの問いに対する確かな答えは見つけていない。それでも水無瀬さんに言われたのだから、自分には駄目なことがあったのだろう。理解はしていないが、先輩たちと一緒に頑張ることにはした。そして、実際頑張ってきた。
「頑張って下さい。」
「ありがとう、じゃあ頑張ってくるね。」
そう言って先輩たちは試合に出に向かった。
競技かるたには静寂が必要だ。
1音1音しっかりと聞く必要があるから、声を出しての応援は邪魔なだけである。
そして先輩たちの試合を見ていた。
先輩たちは、いつも以上に、真剣な様子に見えた。そして緊張もしているのが分かった。
来年は俺もあの場にいるのかもしれない…ね。水無瀬さんに言われたことを思い出す。実力的には今は全然だけれど、このまま頑張れば、あの場に来年いくことができるのかもしれない。しかし、水無瀬さんが言いたいのはそういうことではないらしい。
俺は今、百人一首部において何をするべきなのだろう?ここ2,3週間ずっと考えていることをまた考えてみる。けれど、出てくるものは、百人一首を頑張ること、先輩たちの邪魔をしないこと、くらいで、正解できなさそうなものばかりだ。
白明高校A,Bともに勝った。
勝ち上がった先輩たちは、笑顔が見え、とても楽しそうだった。
俺には到底及ばない…。そう思わされた。
また次の試合を見て次の試合を見たら、もう決勝戦だった。
Bチームは1つ前で負けてしまったようだ。先輩たちは、悔しそうだったが、このまま勝ち上がっても、Aチームと当たり、不戦敗になるだけなので、負けたことに対する悔しさよりも、この場に出られたことに対する感謝、みたいなものを感じ取れた。
…そうなのかもしれない。
俺は、水無瀬さんに来年出られるかもしれないと聞いて、自分を強くすることだけを考えてきた。しかし、実際はそうあるべきではない。強くなるよりも前に、日常のことに感謝しなくてはならなかった。今いる先輩たちにももちろん感謝すべきだ。そして、偉大なる先輩方から、水無瀬さんの言う通り多くを学び取ることができるのも今だ。
自分の弱さに甘えて、今はまだいいだろう。そう思っていた。確かにこれは他人事としてみていると言われても反論できない。
「で、答えは出た?」
「出たよ。」
そして考えたことを伝える。
水無瀬さんは満足気だったように見えた。