13.日常ー厳しいー
13話です。
いつもの日常に戻れた…と思う。
そう考える理由は、水無瀬さんに話しかけてみたところ、本当にいつも通りに返されたからだ。
彼女にとっては俺も大勢のうちの一人、ただ少し関係が深いだけ。きっと…同じ百人一首部でなければ、こんなふうにたくさんしゃべることは無かっただろう。
自分も普通になれたような気がして嬉しく思うのと同時に、やはり恋愛対象として見られていないことにショックを覚える。
なんというか…
「身勝手ですいません…」
つい呟いてしまった。あわてて周りを見渡すも、誰にも聞こえていないようであった。というかそこまで大きい声でもなかった。自習中とは言え、大丈夫だろう。
しかし、なぜあの時俺は告白したのだろうか?
水無瀬さんに嘘をつきたくなかったから?バレていると思ったから?それはない。きっと、意識されたかったのだろう。
しかし、そう思いつつも、これからもいつもどおりでいてくれ、とお願いするなんて…。矛盾しているし、またまた身勝手である。
あぁ…どんどん自分に落ち込んでいく。
けれど、それもいつも通り話してくれているときは気にしないで済む。それから一時は忘れられる。
そして、ふと思い出しては、また憂鬱になるのであった。
水無瀬さんの、いつも通りでも構わないというスタンスに、俺はきっと、救われているのだろう。
さっきの言葉から推測できるように、今は自習の時間。先生不在の自習である。
隣の席の水無瀬さんは、やはりと言うか…、読書をしていた。
そして、今はまだ静かだ。多分、授業終了少し前にうるさくなるだろう。そのことは今までにより、分かりきっていたから、はじめのうちに集中することにした。
結果。
案の定、5分ほど前からうるさくなった。いかに進学校とは言えども、生徒内の評価は自称進学校。集中力はどうやら50分も持たないらしい。残念だ。
まあ倍率も低い、ただの地方の県下一である。こんなものだろう。…そう思うと、水無瀬さんと同じ学校になれたのは奇跡に近いかもしれない。
放課後、百人一首部部室にて。
最近は俺も実力がついたと思う。2年生との枚数差が少しずつ減っている。同学年の中では、下の句かるたをしていた優位性がたってか、3番手ぐらいには位置している。頑張ったと思う。
しかし、そんなことを水無瀬さんに言ったら、
「はぁ?そんなもにで喜んでいるの?そんなの始めのレベルが低すぎるんだから、差が縮まっていないほうがおかしいでしょ?まずはさ、私に勝とうよ?」
そんなことが返ってきた。
客観的に見ると厳しいように…いや、主観的に見ても厳しいのかもしれない。しかし、水無瀬さんは、ちゃんと自分にも厳しい。
最近は、2年生にも勝てるようになっているのだ。どんどん上達している。俺はその原因を水無瀬さんの向上心が強いからだと考えている。
きっと、彼女なら、A級も決して夢物語ではないのだろうな。
「話の大部分は、ご尤もだと思うけど…」
「けど?」
「水無瀬さんには勝てないと思う。」
「あはは、そりゃあまだ牟田は弱いからね。勝ちたいと思うならもっと頑張ってよ。」
「うん…」
「…凄いね。」
「何が?」
怪訝そうに聞き返された。どう考えても水無瀬さんのことだと思うんだけれど…。まだまだ自覚は生まれてくれないらしい。
「水無瀬さんが。」
「私?どこが?」
「百人一首の上達具合。」
「あぁ…最近やけに調子がいいよねー。D級になって調子に乗っているかもしれないね。ま、しばらくしたらまたもとに戻るよ。」
そうだった…水無瀬さんは自分を下に見る傾向があるのだった。
告白した時もそうだったけれど、彼女は自分がなぜあんなに告白されているのかを理解していない。それどころか、みんなあれくらい告白されているもの、とまでさえ思っていそうな節がある。
何か対策できないかな…?
「嘘つけ。嫌味を言うな。」
「嫌味?私は嫌味を嫌っているけど?」
「え?じゃあなんで嫌味を言うんだよ。」
「知らないよ?というか嫌味なら牟田も十分言っていると思う。」
なぬ!?
「どういうとき?」
「まあいろいろ。思い出すのも億劫になるほどの回数。」
「そんなに言っていない!というか、嫌味も言ったことないから!」
「あーそうだったねー。けれど、過ぎた謙遜は嫌味になるんだよ?知ってた?」
その言葉、そのまま貴方にお返ししたい。
しばらく更新ペース遅くなるかもしれません。できるだけそうしないつもりですが。
これからもこの作品をよろしくお願いします。