善は急げ?
……まあ、そんな不服はさておき、
「……あの、お姉さん。それって、どの地点にも戻れるんですか?」
「ああ、当然だよ。……ああ、それと一つ言い忘れてたけど――過去のどの地点に戻ったとしても、現在に戻ってきた後にその時の記憶が残ることはない。残るのは、薬を飲んでその地点に戻ったことがある、という記憶だけ――言いたいこと、分かるかい?」
「……そう、なんですね……はい、一応は」
そう尋ねると、ニヤリと笑い答えるお姉さん。さて、今しがたの内容を繰り返すと――過去のどの地点に戻っても、現在に戻った後にその地点で過ごした時の記憶は残っていない。つまりは――私がその地点で何をしたのかは、現在にて新たに反映された結果で判断するしかないということ。さっきの例えだと――本来、私が殺したはずの人が改変後の現在で生きていたなら、その地点に戻った私がその人を殺さなかったという結果が判明するわけで……いや、だから誰も殺してないって。
ともあれ、それはそうと……うん、だったらやはりあの時かな。ソレアが、あの人に出会った時。あの時は私も一緒にいたから知ってるけど、あれは相当に偶然――だから、あの出会いさえ回避させれば、その後も恐らく二人は出会わない。そうなれば、ソレアがあの人を好きになることはない。言うまでもないけど、会ってもない人を好きになれるわけないんだし。
さて、そうと決まれば善は急げだ。さっと顔を上げ口を開いて――
「……あの、すみませんお姉さ――」