3/14
……私なんて、こんなに――
…………だけど。
「……ねえ、ソレア。まだ忘れられないの? あの人のこと」
「……いや、そういうわけじゃ」
ある昼下がりのこと。
窓からそっと陽光の差す穏やかなダイニングにて、ソレアお手製の美味しい昼食を嗜みつつそんな問いを掛ける。何のお話かと言うと、彼の想い人たる女性――恐らくは一度会っただけの、名前も知らない女性についてのお話で。
ところで、この些か唐突にも思えるこの質問には一応の理由があって。と言うのも……これでも、10年もの長い付き合い――今、その瞳に誰が映ってるのかくらいある程度は察せられて。そして、それは彼の反応からもあながち的外れではなかったかと。
ただ、それはそうと……ほんと、早く忘れればいいのに。たった一度会っただけの……それも、今度会えるかどうかも分からない女性のことなんて、早く忘れればいいのに。……私なんて、こんなに近くにいるのに。